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野菜のおいしさを口まで届けたい

八百屋オーナー店長
千田弘和さん

大学卒業後に大手IT企業でシステムエンジニア(SE)として10年勤務した後、興味のあった農業の世界へと進路を変えた千田弘和さん(39)。野菜をつくることを目指すも「売る方が自分に合っている」と感じ、世田谷区三軒茶屋に“おいしい野菜に出逢える八百屋「三茶ファーム」”をオープンさせました。現在は野菜作りを中心とした農業や生産者の活性化のみならず、地域貢献やITと農業の融合などを目指しているという千田さんに、仕事のやりがいやこれからの展望などについて伺いました!

システムエンジニアから農業の世界へ

インタビューにこたえる千田さん

 青森県で陸上少年として成長した千田弘和さん。宮城県仙台市の大学の工学部に進学すると、学生中は飲食店でのアルバイトにも精を出していたそう。

「食べることや料理をすることが大好きで、大学卒業後には自分で飲食店を開きたいと真剣に思っていました」

 しかし、「一度どこか企業に勤める経験をしてからでもいいのでは?」というアドバイスを受け、IT業界でシステムエンジニア(SE)としてのキャリアをスタートさせました。

「最初は2~3年ほどで辞めるつもりでいたのですが、徐々にエンジニアの仕事の魅力も感じるようになりました」

 ITを駆使してゼロからものをつくりあげる喜び、顧客や社会の役に立つことの素晴らしさ、そしていつも違う課題に直面し、それを乗り越えていくシステムエンジニアの仕事に、とてもやりがいを感じるようになっていったといいます。

「仕事と並行して、たとえばボランティア活動とかイベントの開催など、よりリアルなことにも興味を持つようになりました。その中でも強い興味につながったのが、農業体験イベントの開催でした」

 それを機に、農業の世界へと思いが募っていくのでした。

良い野菜を届ける八百屋をオープンする

店舗で販売している野菜

「東京でSEの仕事をしていると、本当に忙しさに追われる毎日。でも、たまに地元の青森に帰省すると、逆に仕事が少なくて苦労しているという現状がありました。農業を軸にもっと社会全体のバランスを良くできないかと思いました」

 SEの仕事は充実していたものの、農業のために自分で何か動いてやってみようとの思いで退職を決意。デジタルなIT業界から一転、アナログな農業の世界へと転身しました。

「当初は都内近郊などで自分で野菜を生産していました。野菜は味も見た目も種類が豊富で、とてもクリエイティブだと感じました。しばらくするといろんなネットワークも広がって、都内で共同で店舗販売も開始しました」

 売上げも順調に伸びていたのですが、その矢先に東日本大震災が起こったことで状況が大きく変化したそう。

「とにかく野菜が売れなくなったんです。まわりの良い生産者たちの本当に良い野菜も、安全は確認しているのに風評被害で選んでもらえないんです。農業をあきらめざるを得ない生産者もまわりにいっぱいいました」

 そんな悔しい日々を過ごすなか、千田さんが長く暮らしている東京・世田谷の三軒茶屋で、知人が営業していた店舗が空くとの情報が。

「その瞬間に決心しました。本当に良い野菜や食べ物を届ける八百屋を、自分の手で開こうと決めました」

 そして2013年1月。店舗の内装やホームページなどもすべて自分たちの手で制作し、おいしい野菜に出逢える八百屋「三茶ファーム」が誕生しました。