スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2012年10月13日 (土) 14:00~16:00

西村 玲子(にしむら れいこ) / イラストレーター・エッセイスト

幸せを感じる暮らし方 ~私が思う「おしゃれ上手」とは~

おしゃれとは気持ちのいいこと。そして、その基本は品があってセンス良く清潔であること。どの年代にも通用するこの基本を守って、止まらずに動いていく柔らかな感性を育て大切にしたいと語るイラストレーター・エッセイストの西村玲子氏。長いキャリアを積んできた今だからこそ思う、気持ちのいいおしゃれ、幸せを感じる暮らし方、そして、年を重ねるごとに生まれる、ゆとりか無駄なことかが即座に分かる、若いころにないクリアな感覚、そんな研ぎ澄まされた今の心境についても飾らない言葉でお話しいただきます。

代表作『ロンロンママ』が生まれるまで

「みなさんに来ていただくなら天気のいい秋の昼下がりに」

そんな講師自身の希望に沿って10月の週末に開催された西村玲子氏のセミナー。気持ちの良い秋晴れの下、d-laboには女性を中心に大勢の西村玲子ファンが集合した。
『幸せを感じる暮らし方』と題したセミナーはコーディネーターとの対談形式。冒頭、コーディネーターの浅井春美氏が、「今日は西村氏からみなさんにプレゼントを用意しています」と話すと、ファン思いの西村氏らしい心遣いに会場から大きな拍手が送られた。

西村氏の肩書は「イラストレーター・エッセイスト」。色鉛筆を用いたイラストは西村玲子独特のものとして高い人気を誇っている。だが、長いキャリアのなかで手がけてきた仕事はその枠に留まらない。デザインやマンガ、小説、写真、そして手芸。こうした西村玲子ワールドとも言うべき表現世界はいかにして生まれたのか。まずはイラストレーターとしてデビューした頃の思い出を語っていただいた。

「イラストの仕事を始めたのは結婚して大阪から東京に出て来てからですね。その頃はファッションメーカーのカレンダーを作る仕事をしていたのですが、割と暇だったので作品を描き溜めていました。」

大阪ではテキスタイル関連のデザインをやっていた西村氏。子供の頃から絵が好きで、大人になってからも教室に通い、ファッション画の勉強をしていた。絵や文章を仕事にしたいとは中学生の頃から思っていたという。

「そう思い続けていたら、カレンダーを見た『服装』という雑誌の編集長さんが突然訪ねて来られたんです。わたしの作品を見て、『次の号から連載しましょう』とおっしゃっていただきました。」

これがイラストレーター、西村玲子の始まりだった。マンガやファッション画の連載がスタートし、読者にはお馴染みの『ロンロンママ』という猫のキャラクターも誕生。
「『ロンロンママ』は当初、独身の猫のつもりだったのですが、ちょうど私が子供を産んだ頃だったので、それに合わせてママ猫に変更しました」というエピソードも語っていただいた。

常に新しいものを求めて

自分の「暮らし」や「生活」がうまく仕事に結びつき、「そばにあるものはなんでも仕事にしていける」と気づいたのが、ちょうどこの頃だった。
「でも、子育てをしながら仕事もとなると大変だったのでは?」という浅井氏の質問に、会場の女性たちも「うんうん」と頷く。これに対し、西村氏の答えは意外にも「楽しかった」というものだった。男の子と女の子、二人の幼い子どもの成長を見ているのが楽しくて、「この時期から目を離していたらもったいない」と、打ち合わせにも子供たちを連れて行くようになった。西村氏は当時を「アグネスチャン状態でした」と笑って振り返る。 色鉛筆を使い始めたのもこの頃だ。ある時、人からもらった色鉛筆で作品に色をつけてみると、ニットなどの素材感がふんわりと表現できることを知った。「これはいい」と以後はほとんど色鉛筆ひとすじ。絵柄はその時代ごとに変化したが、「西村玲子=色鉛筆」の図式はいまになるまで変わっていない。

だが一方で、常に新しいものを求めているのも西村氏だ。「同じことばかりやっているのは好きではない」と言う。それゆえに仕事も幅広いジャンルに広がっていった。かつて一緒に『大人時間のすごし方 コラージュな午後』を出版した浅井氏によると、「西村さんは、こちらの依頼に対していつも、こうすればもっと楽しくなるんじゃない、と逆に提案してくれるんですよね」。この本を作るときも、西村氏はイラストではなく写真という新しい分野に挑戦してみせた。毎年開いている個展にしても、日常の生活にしても、必ず何か変化をつけている。

「お掃除の仕方ひとつでも、5分間掃除といって時計を見ながら5分だけ同じ場所を徹底的にきれいにしたりしています。楽しんでやっているとはかどりますよ」

暮らし上手ぶりが伝わってくる話だ。
最近凝っているのは手芸。これは「仕事の合間にお茶を飲む」ように作っているそうだ。原稿を1本書いたらお茶のかわりに手芸。洗い物をしたらまた手芸。そうしているうちにいつの間にかに完成している。
完成したパッチワークなどは、さらに別の物と組み合わせて写真に収めている。小物や雑貨を好きな画集や自分の絵の上に乗せてパチリ。「写真は角度をきっちりつかまえて撮るとすごく美的になる」と西村氏。クローズアップで撮った写真は、それ自体アートだ。

毎日受ける感銘を作品や生活に取り入れる

休憩を挟んだ後半はお楽しみのプレゼントの抽せんと質問コーナー。参加者から寄せられる質問に、西村氏は丁寧に答えてゆく。ある女性からは「たまってしまった古い服はどうしているのですか?」という質問が出た。答えは「生地として手芸に使っている」。他にも空き箱やアクセサリーなども作品に使用しているというエピソードが付け足される。身の回りの物を何でも「おしゃれ」に変えてゆくそのスタイルはお手本としたいところだ。そしてもう一つ見習いたいのは新しい物への関心。最新のファッションは「たとえ自分で着られなくても見に行く」という。

「服の形などは新しい物の方が絶対にいい。だから若い人用のお店でも入って行ってチェックしていますね」

人生で最も大切なものは「出会い」だ。自分に機会を与えてくれた『服装』の元編集長・平沢啓子氏には今でも感謝している。

「平沢さんは駆け出しだった20代の私に仕事の厳しさを教えてくださった。その後創刊された『私の部屋』でもお世話になりました。40歳で若くして亡くなられたのですが、生前はずっと一緒にお仕事をさせてもらいました。」

人だけでなく、本を読んでも映画を見ても「出会い」はある。そうしたものから受ける刺激は「若い頃よりも今の方が強い」という。西村氏にとっての毎日は発見の連続。「夢」について尋ねると、「ささやかなことだけれど、毎日何かしらから受ける感銘を作品や暮らしに取り入れていくこと」。おしゃれ上手なお人柄を窺わせてくれる答えだった。
セミナーの最後は西村氏自身が参加者の似顔絵を描くというスペシャルな時間。当せんした3名の方にとっては最高のプレゼントとなったはずだ。ほかにも著書や葉書など、用意したプレゼントに次々とサインをしていく西村氏。和やかで楽しい2時間を居合わせた全員と共有できたセミナーだった。

講師紹介

西村 玲子(にしむら れいこ)
イラストレーター・エッセイスト
1942年 大阪生まれ。ファッション、インテリア、旅などのテーマを巡りながら、豊かな感性を育てる大切さ、自然体で気持ちのいい暮らしを作る方法を、提案し続けている。近年は、アクセサリー、写真、コラージュ、オブジェなどにも創作の幅を拡げている。月刊誌『いきいき』、毎日新聞(第1木曜朝刊)などにファッションコラムを連載中。主な著書に『おしゃれ上手に年を重ねて』(海竜社)、『西村玲子のいつだって着こなし上手』(朝日新聞出版)、 『おしゃれの適齢期』(世界文化社)などがある。