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2012年10月18日(木) 19:00~21:00

小塩 真司(おしお あつし) / 早稲田大学 文学学術院 准教授

性格を科学する心理学

学校生活や就職活動など、社会のあらゆる場面において注目される"性格"。そんな自分の"性格"を知りたいと思う人は多いだろうが、そもそも「"性格"とは何か」ということを考える機会は、それほど多くないだろう。そもそも性格とは何なのか。どのように考えることができるのか。占いや血液型で判断できるものなのか。誰もが気にする問題だけに、思い込みも多い"性格"について、学問としての心理学から迫る!

性格について考えてみたい

性格とは何か。広辞苑(第五版)を引くと、「各個人に特有の、ある程度持続的な、感情・意志の面での傾向や性質」とある。英語では「パーソナリティ」。小塩真司氏は心理学の分野からこの「性格とは何か」という問題について迫っている気鋭の研究者だ。
性格と聞くと、思い起こされるのは血液型や星座による占い。人は自分や他人の性格を判断するとき、こうした占いに頼ることが多い。とりわけ血液型は人間の体内を流れるものだけに信憑性が高いように感じる。しかし、はたして科学的な根拠はあるのだろうか。
「残念ながら、血液型の遺伝配列は性格にはまったく関係していません。」
科学雑誌に発表された遺伝子学の研究論文によると、特定の遺伝子が人の性格に影響を与える可能性は非常に低い。さらに最近は、性格と個別の遺伝子との関連も調べられているが、血液型の遺伝子との関連は見出されていない。
実際はこの数値が物語るように血液型性格判断にはほとんど意味がない。セミナーはまず、誰もが普段はなんとなくわかっているような気になっている「性格」というものについて、あらためて考えてみるところからスタートした。

目に見えぬ「構成概念」である性格を判断するのは難しい

それでは「性格」とは何なのか。
「性格の大きな特徴。それは目で見ることができないところです」
言われてみればそのとおり。それでも人は誰かの性格を表現するのに「あの人は明るい性格だね」などと言ったりする。その「明るい性格」は何を見ての話なのだろうか。
「見えるのは行動と、その結果。たとえば人はその人の着ている服を見て、この人は明るい性格だ、と判断したりするわけです」
ところが、厄介なことに性格と行動は必ずしも一致しないという。明るい性格の人でも失恋した時には落ち込んで暗くなったりする。こんなふうに行動から見極めようとしても、なかなか正しい答えには行き着かなかったりするのだ。
性格は、「構成概念」と呼ばれるもののひとつ。構成概念とは目で見えぬもの。学力や知能、運動能力といったものもこれに当たる。
「〈女子力〉やサッカーで言う〈決定力〉なども構成概念。こうした構成概念というものはそれを測るとき必ず誤差が生じます。」
日常生活は誤解の連続。本当はいい人でも、出会う条件が悪ければ嫌な人に見えてしまう。だがそれはその人本来の性格ではない。わかりやすく言うと、性格を正しく判断するのは大変難しいということだ。
それでも人間は、古代から性格を判断しようとしてきた。
103インチのディスプレイに映し出されたのは、古代ギリシアの医師ヒポクラテスと古代ローマの医師ガレノスの肖像。両者は「四気質説」の提唱者だ。四気質とは、当時人間の体内を流れるとされていた血液、黄胆汁、黒胆汁、粘液の四つの体液の多寡によって分類された気質のことだ。例を挙げるなら「多血質の人間は快活で明朗、社交的」で、「黒胆汁質の人間は用心深く心配性」といったようにこの説は人間を4タイプに分類した。科学が発達していなかった古代の話だけに、ほとんどイメージで語られている世界だが、驚くべきことにこの説は以後2000年、現代に至るまで人類の文化に影響を与えてきたという。
「実験心理学の父と言われた19世紀ドイツの学者ビルヘルム・ブントもこの四気質に基づいた理論を立てていますし、20世紀の学者であるアイゼンクも四気質に触れています」 もちろん、日本も例外ではない。
「日本では戦前、血液型性格判断がブームになったことがあります。」
ブームの火付け役は東京女子高等師範学校(現御茶の水女子大)の古川竹二教授。古川氏は当時発見されて間もないABO型の4種類の血液型に着目し、これが古代からの四気質説に結びつくと考えた。古川氏の説は多くの人に受け入れられ、血液型性格判断が世に広まった。その後、一旦はすたれたものの1970年代にふたたび脚光を集め、今日に至るまで日本人は性格というと血液型を思い浮かべるようになった。
「まさかヒポクラテスもガレノスも、2000年もたってから地球の裏側で自分たちの説が信じられているとは思ってもいないでしょうね。」
正しいか正しくないかはともかく「これには壮大なロマンを感じる」と小塩氏は語る。

性格を知るのに精度の高い五因子説(ビッグファイブ)

とはいえ、血液型占いのような分類型の性格判断は正確性に欠ける。当然、近年はそうした類型論を批判した新しい学説が打ち立てられている。特性論と呼ばれるその研究方法は、性格を細かい要素に分解し、それぞれの要素を「量」で記述したものだ。そのもっとも有力なものが性格を「神経症傾向、情緒不安定性」「外向性」「開放性、知性」「調和性、協調性」「勤勉性、誠実性」という5つの次元で見た「五因子説=ビッグファイブ」。ここではパラメーターを用いることによって人間の性格が比較的簡単に数値化(偏差値化)できる。一例として、「外向性」の偏差値が高ければ外向的な性格、低ければ内向的な性格、という見方ができる、というわけだ。
「ここで注意していただきたいのは、どの偏差値が高ければ良くて、どの偏差値が低ければ悪い、という見方をしないということです。」
どんな性格の人にも各自長所もあれば短所もあるということだ。外交的な人は、活動的である一方で刺激を求めるあまり危険なものに手を出す可能性がある。神経症的な人は一般にはマイナス要素の強い性格と思われているが、危険を察知する能力には長けている。
「要するに適材適所、どんなパーソナリティの人にも安住できる場所はあるはずです。」
性格とは複数の遺伝子が関与してたまたまできたものに、環境が影響したもの。成長するにつれて徐々には変わっていくし、転職などで自ら環境を変えたり、一生懸命何かに努力することでも変わっていくという。
まさに目から鱗の今回のセミナー。しかし「それでも血液型などの分類型の性格判断は今後もなくならないでしょう。」と小塩氏は続けた。なぜならば種類を限定した分類型の性格判断や占いは簡単でわかりやすいからだ。その固定観念的な物の見方を少しずつ変えてゆくのが小塩氏たち研究者の務めだ。最後に「夢は人々の考えた方というものを変えること。それまでの常識とは違う視点で物が見られるような研究をしたいと考えています。」と夢を語った小塩氏に対して、会場からは盛大な拍手が上がりセミナーは幕を閉じた。

講師紹介

小塩 真司(おしお あつし)
小塩 真司(おしお あつし)
早稲田大学 文学学術院 准教授
博士(教育心理学)。2000年 名古屋大学大学院教育学研究科博士課程後期課程修了。中部大学講師、准教授を経て、2012年より現職。専門はパーソナリティ心理学、発達心理学。主な著書に『性格を科学する心理学のはなし―血液型性格判断に別れを告げよう―』(新曜社、2011年)、『はじめて学ぶパーソナリティ心理学―個性をめぐる冒険―』(ミネルヴァ書房、2010年)、『SPSSとAmosによる心理・調査データ解析 第2版』(東京図書、2011年)などがある。 研究室webサイト:http://www.f.waseda.jp/oshio.at/