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イベントレポート

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2012年12月4日(火) 19:00~21:00

阪本 成一(さかもと せいいち) / 宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所教授,総合研究大学院大学教授

宇宙(そと)に出て はじめてわかる 地球(うち)のこと
 ー日本の宇宙科学の挑戦ー

宇宙は人類にとっての挑戦の場。空気のない宇宙は天体観測にとって理想的な観測環境であり、私たちをとりまく宇宙の姿や成り立ちについて教えてくれる。また、太陽系探査機を用いた探査は、地球がどのようにして生まれ、生命を宿す星へと進化したのかについて教えてくれる。「宇宙環境は厳しく、人間が逃げ込めるような甘い場所ではないが、人類は宇宙に目を向けることではじめて地球をより深く理解し、そのかけがえのなさを理解することができるのです。」と語る阪本氏。冬のd-laboで、最先端の宇宙科学の話を聞きながら、遠い宇宙に思いを馳せてみませんか。

科学者が宇宙をめざす理由

「宇宙(そと)に出てはじめてわかる地球(うち)のこと」
それは、たとえて言うなら外国を旅することに似ている。海外で異文化に触れたとき、あらためて自分の国の形が見えてくるというのはよくあることだ。地球という天体もまたそのように宇宙という「外」に出ることでわかることが多々ある。今回の講師である阪本成一氏は電波天文学の専門家。国立天文台勤務を経て、現在はJAXA (宇宙航空研究開発機構)の宇宙科学研究所で広報や一般への普及活動などに従事している。この日のセミナーでは、研究者であり、宇宙科学のスポークスマンでもある同氏に、「地球を宇宙から見るため」にJAXAが取り組んでいるさまざまなプロジェクトについて語っていただいた。
最初のトピックは「科学者はなぜ宇宙をめざすのか」。そこにあるポイントは3つだ。
①宇宙そのものを「その場」で研究する。
②宇宙で研究をする。
③最先端の宇宙技術を開発する。
①は「事件は現場で起きている」という発想。一例を挙げるなら、オーロラを詳しく観察するには地上から見上げるのではなく、その場に行くのがいちばんいい。一昨年、話題となった小惑星探査機『はやぶさ』の活動もこの現場主義的思想から実現したミッションだ。②は、真空や無重力といった地球にはない環境で行う観測や研究を指す。大気は生命に必要なものだが、何万光年も先の天体を観測するには邪魔になる。「だったら外に出よう」という考えだ。③を解説する際、阪本氏が見せてくれたのは開発中の「宇宙空間で停止できるロケット」の映像。これがあれば今までにないオーロラ観測ができるという。
「新しい技術を開発することによって新しいサイエンスができるんです。こういう研究開発を理学と工学の研究者が二人三脚でやっているのが宇宙科学研究所なんです。」
ちなみに相模原にある宇宙科学研究所は『はやぶさ』の故郷だ。一般の人でも入れる展示ロビーには『はやぶさ』の原寸大模型が置いてある。阪本氏によれば「ロビーは職員の出入口でもあるので、模型だけでなく研究者そのものも見ることができるんですよ。」。研究者というと白衣を着た偉そうな人たちをイメージしがちだが、実際は「ズボンからシャツが出ているような大学院生がうろうろしている」という。ユーモアたっぷりの阪本氏の口ぶりは聞いていて笑いを誘う。だがそこには可笑しさだけではない、「見学に来る子供たちに科学を身近に感じてほしい」という願いも込められている。

「太陽はひとつ」は当たり前ではない

陸域観測技術衛星『だいち』、第一期水循環観測衛星『しずく』、温室効果ガス観測技術衛星『いぶき』と、次々と紹介される日本の人工衛星。会場全体がすっかり宇宙モードになったところで話は佳境へと入る。
「地球という星はどんなに奇跡の星なのか」
そこで暮らす私たちにとっては当たり前の環境である地球。それがどれほど珍しい天体であるかを知るには、太陽系の構造を見てみるのが一番だ。ここで鍵となるのは「太陽が単一星であること」だ。
「太陽は一個。何を当り前のことを言っているのと思われるでしょうが、実はこれは宇宙ではレアなんです」
我々の銀河系には太陽のような恒星が約2000億個あると言われている。そのうちの太陽系に最も近いアルファ・ケンタウリは「三つ子」だ。全天でいちばん明るいシリウスは「双子星」。北斗七星もまた「五つ子」や「三つ子」といった連星で構成されているという。このように銀河系のほとんどの星はそれぞれ集団で存在しているというから驚きだ。そしてこうした連星では引力が複雑に作用するため、惑星があっても太陽系のようなきれいな同心円の軌道は描けないことが予想される。地球に生物が誕生できたのは太陽が「単一星」であり、ほぼ円状の公転軌道が安定した気象をもたらしてくれたおかげなのである。これは「(宇宙という)ほかの世界を見てはじめて人類が気づかされたこと」、その代表的ともいえる話だという。
太陽系は小惑星や彗星も含めれば無数の天体からなっている。真空に見える空間にはガスが存在する。大きな天体は地球や金星などの岩石質のもの、あるいは木星や土星のようなガス質のものに分かれる。木星や土星は地球に比べるとはるかに巨大だ。これは「地球の5倍という閾値(しきいち)を超えると水素やヘリウムなどの軽いガスを大気として取り込むことができる」といった現象がもたらしたものだ。地球の場合は引力が不十分なため窒素や酸素など比較的重たい気体だけが残った。一方、地球と兄弟である月は小さすぎて大気を閉じこめることができなかった。これだけを見ても地球が「奇跡の星」であることがわかるだろう。

当たって砕けろ、ではないのが日本の宇宙科学

その地球の形成史を知るための活動を行ったのが『はやぶさ』だ。『はやぶさ』が目指した「イトカワ」のような小惑星は大きな天体に飲み込まれずに済んだ惑星の材料だ。JAXAはそれを採取するべく探査機を飛ばした。『はやぶさ』が幾多の困難を乗り越えて地球に帰還を果たしたのは御承知のとおり。ドラマチックなその探査活動は3本もの映画になったほどだ。JAXAでは現在、『はやぶさ』の後継機を開発中。現場を知る阪本氏は「ワクワクするのはいいけど、ハラハラドキドキはもう嫌です。」と笑う。開発スタッフは「二度と映画を3本も作らせない」という強い気持ちで準備に励んでいるという。
話はさらに月探査やそれにともなうローバー(ロボット)の開発、金星や水星探査へ。むろん、これらの星の探査は「地球を知るため」のものでもある。たとえば、金星探査機の『あかつき』。『あかつき』は地球の物理では説明できない金星の気流の謎に挑むべく打ち上げられたが、2010年の周回軌道投入には失敗した。それでもJAXAはあきらめずに次の機会を窺っている。阪本氏は「当たって砕けろではないのが宇宙研の工学」だと語る。『はやぶさ』でもそうだったように、焦らずに粘り強く進めてゆくのが日本の宇宙科学であり、それが強味なのかもしれない。
阪本氏の夢は、ずばり「宇宙の謎を解き明かしていく」ことだ。宇宙科学の現状は「調べれば調べるほどわからないことが増えている」という。「謎」はつまり「ワクワク」だ。
「研究者として、そのワクワクをずっと追いつづけていきたいですね。」と夢を話し終えたところで、盛大な拍手とともにセミナーは幕を閉じた。

講師紹介

阪本 成一(さかもと せいいち)
阪本 成一(さかもと せいいち)
宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所教授,総合研究大学院大学教授
1965年 東京生まれ。東京大学理学部天文学科卒業、同大学院理学系研究科天文学専門博士課程修了。自然科学研究機構国立天文台助手、助教授を経て現職。JAXAの宇宙科学研究所で、宇宙科学広報・普及主幹として、宇宙科学の普及や教育、渉外活動を担当。宇宙科学にとどまらず、科学全般をもっと身近なもの、楽しいものと捉え、科学的にものごとを考える習慣を広めるために活動をしている。専門は電波天文学で、野辺山の電波望遠鏡を使った研究や、南米チリの高地に建設中の世界最大の電波望遠鏡「アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計」の建設にも従事した。