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イベントレポート

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2012年12月11日(火) 19:00~21:00

清水 英斗 (しみず ひでと) / サッカーライター・『Goal.com』日本版編集長

サッカー観戦をしよう!

サッカー選手が一瞬の間に処理する情報量は、テレビで傍目から見ている人間の想像を絶する。そんな プレーの数々について、「テレビなどを通じて流布される情報だけでは一面的すぎるのではないか。個々が 深みのある視点と分析を得ることでサッカーはもっと多角的で面白いものになる」と語る清水氏。欧州での 取材経験も豊富なサッカーライターに日本代表選手を中心にサッカーの見方のポイント、サッカーならでは の魅力、さらにはみんながプレーを楽しむちょっとしたコツを紹介いただきます。最近サッカーに興味を持ち 始め、「もう少しサッカーを知りたい!」「やってみたい!」という方も大歓迎です!サッカー好き集まれ!

世界のトレンドは「パスサッカー」

スタジアムに足を運ぶにせよテレビ中継にせよ、観ていて楽しいのがサッカーというスポーツだ。今回のテーマはこのサッカー観戦を「より楽しもう」というもの。そのためにも身につけたいのが「これまでの観戦方法にプラスした新しい視点」だ。本セミナー開催にあたり、こうしたテーマを提示してくださったのが気鋭のサッカーライターであると同時にサッカーサイト『Goal.com』日本版の編集長でもある清水英斗氏。今回は清水氏に知っておきたいサッカー用語やトレンドなどを図や映像なども交えつつ解説していただいた。
前半は、テレビの試合中継などでよく耳にする「サッカー用語」について。
清水氏が最初に挙げたのは「ポゼッション」。これは現在のサッカーのトレンドである「パスサッカー」につながる鍵となる用語だ。
「ポゼッションとは、攻撃をしているときにボールを持っている、その状態のことです。」
現在のサッカーはボールを保持(支配)し、それを味方同士でパスしあい、そのパスをつなげることでゲームを確実に進めてゆく「パスサッカー」が主流となっている。
「代表的なのはクラブチームならFCバルセロナ。あとはスペイン代表チームですね。」
パスサッカーに対し、以前のサッカーは「キックアンドラッシュ」が主体。ボールを前へと放り込んで取りに行くこのスタイルだと、拾えるかどうかは五分五分といったところ。いわば「行き当たりばったり」のサッカーだ。それに比べ、FCバルセロナが繰り広げるパスサッカーはパスだけなら、なんと約90パーセントの成功率と確実性が高い。そしてスペイン代表は国際大会を3連覇したことでこのパスサッカーが「正解」であることを証明してみせた。この流れは今では「一般の人が楽しむ草サッカーにまで及んでいる」という。
次は「バイタルエリア」。「バイタル」とは「生命」、イメージとしてはゴール正面のペナルティエリア付近を指す。守備における生命線たるこの場所は面積が狭いほど守るに都合がいい。「守備は狭く。攻撃は広く」というサッカーの基本だからだ。清水氏が引き合いに出したのはセミナーの2日前に行なわれたクラブワールドカップの蔚山(韓国)-モンテレイ(メキシコ)戦。この試合ではモンテレイの陣が守るに適した「コンパクト(バイタルエリアが狭い)」だったのに対し、蔚山は陣形が「間延び」して隙があった。それが3−1というゲーム結果につながった。

「重箱の隅をつつく視点」がサッカーを楽しくする

「システム」もまたよく聞く言葉だ。知らない人は「3-4-2-1」などのフォーメーションと勘違いしやすいが、フォーメーションはあくまでも選手の初期配置に過ぎない。「実際のゲームはフォーメーション通りに進むことはまずないです。」と清水氏は語る。
「重要なのは選手が試合中にどう動くか。監督は11人の選手に役割を与え戦術的に機能するように考える。それがシステムなんです。」
Jリーグだと、そのシステムがよく練られているのが浦和レッズだ。浦和の特徴はスリーバック。しかし守備の場面では、ディフェンダーが3人から5人に増える。これが「システム」というものだ。
用語の次は映像によるセットプレーの解説。まだ記憶に新しいロンドンオリンピック準決勝での日本-メキシコ戦。日本が失点したコーナーキック、とくにディフェンスの吉田麻也選手の動きを追ってみた。吉田選手は大会直前に召集されたオーバーエイジ枠の選手。この大会ではディフェンスリーダーとしてチームを準決勝まで牽引した。だが、このプレーでは前の試合までにはない「ゆるみ」が見られた。注目したのは「水を飲む」、「ゴールポストにつかまる」という2つの行為。選手はこういう場面で「水を飲む」と「張りつめていた緊張が解けてしまう」。そして「ゴールポストをつかむ」からは「なにかにすがりたい」という不安な心境が読み取れる。結果は、マークしていた相手選手をフリーにしたことでゴールを決められ失点。むろん、失点の全責任が吉田選手にあるかといえばノーだ。
「メキシコは強豪ですし、はっきり言って日本チームは吉田選手1人に負担がかかりすぎていた。メンタル的な意味でも日本チームの限界だったんだと思います。」
その限界を、清水氏は吉田選手のちょっとした動きから感じとった。日本人にとっては残念な試合だったが、こうした「重箱の隅をつつくような」細かい視点がサッカー観戦をよりおもしろくしてくれるのである。

未来のサッカーのトレンドとは

後半のトピックは「サッカーのトレンド」。前述した「パスサッカー」が現在のトレンドだが、では次はなにが来るのか。
「これは完全に僕の予想ですが」と前置きした清水氏が「未来のトレンド」と睨んでいるのが「仕掛けまくるサッカー」だ。例えるなら、ドルトムント(ドイツ)やユヴェントス(イタリア)、アスレティック・ビルバオ(スペイン)などのヨーロッパの強豪クラブチーム。識者が言う「ハンドボール化」した、つまり手を使う競技並に精度が高くなったFCバルセロナのパスサッカーに対し、果敢にそれを崩しに行くというこのスタイルには「フィジカル」「運動量」「馬力」の3つが高いレベルで要求される。体格で劣る日本がこうしたサッカーをするには相当な努力をせねばならない。しかし、それをすることで日本のサッカーは確実に進化するだろう。
前半、後半ともラストは質疑応答。さすがはサッカーと評するべきか、質問者は通常よりもはるかに多い延べ10数人。「サッカーが好きな人はこんなふうに自分の意見を発信できるんですよね」と清水氏。その清水氏には大好きな言葉があるという。それは「サッカーは人生の大学」だという元サッカー日本代表監督のイビチャ・オシム氏の言葉だ。
「オシムさんは、人生で必要なものはすべてサッカーで学べるし、世界で起こる問題のすべてはサッカーで解決できると言っています。」アフリカではサッカーを通してエイズの啓蒙活動に取り組んでいる。身近なところでは「英語嫌いの子供が海外に渡った日本選手の活躍に刺激され自主的に学ぶようになった」。清水氏はこうしたサッカーが人や社会にもたらす多角的な影響や効果を「極論するとワールドカップで優勝するよりもすばらしいこと」と位置づけている。
「サッカーには単なるスポーツを超えた社会性があります。自分の仕事もその一助になればと思っています。」
この国にサッカーを根づかせていく。それに寄与していくのが清水氏の「夢」だ。

講師紹介

清水 英斗 (しみず ひでと)
サッカーライター・『Goal.com』日本版編集長
1979年岐阜県生まれ。大学卒業後、スポーツ番組や雑誌の制作を経験。その後サッカーライター を志してドイツへ。そこでの取材活動を元に、ドイツから日本への逆輸入ライターとしてこの世界で 働くきっかけを得た。オシムが語った「サッカーは人生の大学」という言葉に深く共感し、今日も ピッチや現場を走り回っている。現在は、世界数十カ国に展開するサッカーサイト『Goal.com』 日本版の編集長も務めている。近著に『サッカー観戦力が高まる~試合が100倍面白くなる100 の視点~』(東邦出版刊)、『サッカーDF&GK練習メニュー100』(池田書店刊)などがある。