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イベントレポート

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2013年2月21日(木)19:00~21:00

佐々木 博(ささき ひろし) / 株式会社創庵 代表取締役

ソーシャルメディア時代のシェアする暮らし

1990年代から発展してきたインターネットは、2010年のソーシャルメディア元年を境に、パソコンや携帯を通じたバーチャルな世界だけでなく、私たちの社会や個人の生活に大きく影響を与えようとしている。地縁血縁が希薄化してきている現代社会において、特に東日本大震災を境にソーシャルメディアを活用した新たなつながりや、暮らし方、働き方を模索する動きが活発化している。現在、原宿のシェアハウスで60名と共同生活をしている佐々木博氏に、ソーシャルメディア時代のシェアする暮らし、シェア型コミュニティのあり方などについてお話いただく。ソーシャルメディアを活用した新しい暮らし方を考えてみませんか。

「ソーシャルメディア」と「リアルのコミュニティ」は同じ

「ソーシャルメディア」と「シェア」。今のトレンドを代表する2つをテーマにした今回のセミナー。講師である佐々木博氏はIT教育に携わって18年、一昨年からは原宿のシェアハウスに入居し、「シェアする暮らし」を実践している。今回は自らの体験をもとに「インターネット上のソーシャルメディアが果たす役割」や「シェアするコミュニティ」について語っていただくこととなった。
「ITの先生がどうしてシェアハウスに住むのか。ここで言いたいのは、フェイスブックやツイッターなどのソーシャルメディアとリアルで相手と顔をつきあわせてコミュニケーションをするのは同じ、ということなんです。」
佐々木氏が暮らしているのは18歳から50歳まで約60人の男女が住むシェアハウス。元社員寮だったという建物の中にはキッチンやラウンジ、ライブラリーなどが備え付けられている。互いに知らない者ばかり60人も集まってうまくやっていけるのだろうか。そう思う人もいるかもしれないが、ハウス内のコミュニティは「とてもいい」という。誕生日会や部活動を通して住人同士は絆を深め合っている。セキュリティーがしっかりしていることもあり、男性の住人の多くは「部屋に鍵をかけない」でいる。外から帰って来れば「ただいま」「おかえり」と挨拶が交わされる。互いを呼ぶときは「下の名前」。感覚的には「従兄弟みたいな感じ」の距離感で暮らしている。なぜこうしたコミュニティが生まれたのか。
「理由のひとつはハードウェアの設計。これがよく考えられている。とくに鍵となるのはキッチンですね」
人間の心理として、椅子に座って1人で本を読んでいる人には声をかけにくいが、立ち姿で料理を作っている人とは話がしやすい。「なに作っているの?」という一言から会話がはずむ。そのシェアハウスがうまくいっているかどうかはキッチンを見ればだいたいわかるという。

大切なのは「身の丈で発信すること」と「継続すること」

良好なコミュニティを支えているもうひとつは「ソーシャルメディア」だ。住人同士はフェイスブックの「グループ」でつながっている。入居したての頃はこれで互いの顔と名前を覚えた。フェイスブックは連絡手段としても有効だ。「誰か外に何か食べに行かない?」と言えば、すぐに誰かが反応してくれる。このシェアハウスではソーシャルメディアがリアルの生活に連動している。
では、ソーシャルメディアとは何だろうか。実は言葉は知っていても、「こういうものだときちんと答えられる人は少ない」という。
「ざっくり言ってしまえば、ツイッターとフェイスブックですね。」
ツイッターもフェイスブックも、ネットを通して自分の発言を人に伝えるものだ。だが、「発言すれば誰もが拾ってくれるかといったらそんなものではない」と佐々木氏は言う。
モニターに登場したのは、乗るだけで体重がネット上にアップされる「WiFi体重計」。佐々木氏は毎日これを使って自分の体重を世界中に公開している。こんなことをして何の意味があるのか。ある意味恥を晒すようなものではないか。しかし、「体重○kg.やばいぞ自分」と発信しつづけることで人は自分に対し、「この人はどんな日常を過ごしているのか」、「がんばってダイエットしているんだな」と興味や共感を抱いてくれるのだという。この場合、何よりも大切なのは「継続すること」と「身の丈の自分でいる」ことだ。
「別にすごいことを書く必要はない。身の丈で毎日淡々とつづけていることや自分が好きなものについて書く。そうすることでその人は信頼されるようになるんです。」
ソーシャルメディアには「オープン」「フラット」「シェア」の3つの原則がある。情報は「オープン」にし、「身の丈=フラット」で「シェア=共有」する。佐々木氏はこれを「個」がコミュニティと協調していくための「生存戦略」と位置づけている。
匿名可能なツイッターに対し、実名登録を求められるのがフェイスブックだ。人によっては実名登録は抵抗を覚えるはずだ。それでも利用者は世界中に約10億人もいる。
「なぜみんな顔を晒すというリスクを冒してまでフェイスブックを利用するのでしょう」
そこに流れているのは「自分に興味を持ってほしい」という思いだ。一見するとこれは自己顕示のようだが、しかしそうではない。
「身の丈で発信する情報は自己開示。ここが偉い先生が発言するマスメディアとソーシャルメディアの大きな違いです」

疑うよりも「ラジカルトラスト」で

インターネットは、ときに「炎上」を起こす。訴訟沙汰も珍しくない。だが、それでも発展してきたのは、そこに「ラジカルトラスト=進歩的性善説」の精神があったからだ。いまや「世界最大の辞書」といわれるウィキペディアが「世界最大」となり得たのは、「疑うよりも信じよう」という考えのもと、誰でも自由に執筆できるシステムを提供したからだ。
ユーチューブが世界最大の動画サイトとなったのもまったく同じ理由からだ。佐々木氏がここで例として挙げたのは「ジョナサンズ・カード」。ある人物がチャージ可能な自分のプリペイドカードをネット上に「自由に使ってください」とアップしたところ、減るはずの金額がなくなることなく使われ続けた。その理由は多くの人が飲んだ分をチャージしたからだ。佐々木氏が住むシェアハウスでも同じようなことが日常的に起きているという。「キッチンでフリーで使えるお酒や塩、醤油がなくならいない」のだ。これはラジカルトラストが生んだラジカルシェアリングといったところだろう。
「実はこれは温故知新。農村的なコミュニティを失った孤独な都市生活者が、ソーシャルメディアでの体験を通じて、昔のような人と人がつながったコミュニティを取り戻そうとしているのかもしれません。」
セミナーは「みなさんもぜひソーシャルメディアで発信してみてください」という講師の呼びかけで終了。つづいての質疑応答の時間では「フリーハグ運動」が映像で紹介された。街頭で見知らぬ人と「ハグしあう(抱きあう)」運動は、見ていてどこか魅力的。佐々木氏もこの映像が「大好き」だという。
「同じ興味を持つ人たちと夢に向かって一緒に歩いて行けたらいいですね。」
そう語る佐々木氏の夢は「子供も一緒に住めるようなシェアハウスをつくること」だ。

講師紹介

佐々木 博(ささき ひろし)
佐々木 博(ささき ひろし)
株式会社創庵 代表取締役
1970年京都府出身。NHK教育テレビ「趣味悠々」にてIT教育番組講師を12年歴任。2012年内閣 府雇用創出事業の採択を受け、一般社団法人アスメディア設立。地域や個人、団体等のデジタル メディア活用における自立支援、教育活動に従事。次世代のデジタルメディア教育の講師育成、社 会起業やNPOに対するソーシャルメディア教育を行う。近著に『日本的ソーシャルメディアの未来』 (濱野智史、佐々木博共著)など、40冊近い著書・監修書籍をもつ。