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イベントレポート

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2013年4月4日(木) 19:00~21:00

市川 裕康(いちかわ ひろやす) / 株式会社ソーシャルカンパニー代表取締役・ソーシャルメディアコンサルタント

共有と学びのコミュニティ
-いま求められているオンラインコミュニティの姿とは-

同じ興味を持つ、同じ学校を卒業した、同じ業界にいるなど共通の事柄のもとに、自主的に集いオンラインでコミュニケーションを行う場所・空間である「オンライン・コミュニティ」。近年は電子掲示板やSNSをはじめ、共通する価値観をもつ個人同士が気軽に相互交流を図り共感を得る場として、急速に普及してきている。こうしたコミュニティが豊かに発展していくためには、参加者はもちろんのこと、管理人の存在も不可欠。ではコミュニティの管理人とは一体どのような存在であるべきなのであろうか。こうしたテーマに長年取り組んできた市川氏に、海外のオンライン・コミュニティの事例、コミュニティの成功・失敗経験を共有しながら、いま求められるオンライン・コミュニティの姿についてお話しいただく。

ソーシャルメディアで広がったオンラインコミュニティ

コミュニティとはなんだろう。日本語にすると「共同体」。家族や親戚などもその一部と定義すれば、およそこの世でコミュニティに属していない人はいないといっていい。とりわけ最近はさまざまなソーシャルメディアの普及によって、これまでにないコミュニティの形が生まれている。講師の市川裕康氏は「ソーシャルメディアコンサルタント」。今回のセミナーでは、アメリカでの事例や参考となる本などを紹介しながら、これからのオンラインコミュニティの在り方やそこに必要なもの、問題点などについて、ときに参加者の知見も共有する形でお話をしていただいた。
冒頭、参考に示されたのは総務省が調査した「日本におけるコミュニティの参加状況」。並ぶのは「町内会」に「PTA」、「学校の同窓会」、「趣味や遊び仲間のグループ」といったお馴染みのものばかり。ただし、この調査はオンライン上のコミュニティは対象とはしていない。現実にはこうしたリアル(オフライン)のコミュニティとは別に、オンラインのコミュニティに参加している人は相当数にのぼる。企業もそれに応じてソーシャルメディアを活用して情報を発信するのが当り前の時代。プラットフォーム的な役割を担うそれらのソーシャルメディアは、さらに細かくグループに分かれ、無数のコミュニティが存在している。となると、当然それを管理する人間も必要となる。よく聞く「炎上」を防ぐといった予防的側面はもとより、企業であればより効果的に自社をPRするため、草の根のグループであれば目的を達成するため、上手にコミュニティを運営していかねばならない。
「そこで最近注目を集めているのがコミュニティマネージャーという職業です。」

求められるのは優秀なコミュニティマネージャー

まだ聞き慣れない肩書かもしれないが、「アメリカでは引く手数多」というこの仕事。わかりやすく言えば、「会社(ブランド)などのコミュニティを運営するなかでソーシャルメディアを運用している人」のことだという。(一方で従来からある自発的・草の根オンラインコミュニティの交流を活発に促すためのファシリテーター的な役割もある。必ずしもソーシャルメディアの運用する人だけを指して使われるわけではない)。

「朝、会社に来るとまずソーシャルメディアを開いてフォロワーに向かって自分たちのことについて言及されたオンライン上の発言がないか確認し、必要な返信をする。時には<おはよう>と呟くなどコミュニケーションも行う。そして、どうやったらより多くのフォロワーを獲得して<いいね!>をもらうかを分析して考える。質問があればそれに答える。こうした仕事をしている人たちがコミュニティマネージャーです。」
いまやテレビCMだけでモノやサービスを売る時代ではない。タイミングさえ合えば、たとえ小さな発言でも多くの人に拡散し、絶大な効果を生み出すソーシャルメディアは企業にとっては無視できないもの。アメリカではコミュニティマネージャーの平均年収は5万7,000ドル。1年前と比べると6,000ドルもアップしているという。このことからもいかにスキルを持った人材が求められているかがわかる。一方、日本はというと一部では求人があるものの、まだ職業としては認知されていない。会社の中にそういう役割の人間はいても、「若いから」「(こういうことが)好きそうだから」といった理由で配置されているケースがほとんどだ。しかし、これからはアメリカ同様、本格的に人材が求められるようになることは間違いない。
では、コミュニティマネージャーにはいったいどんな資質が求められるのか。市川氏が参考に挙げたのはゲームデザイナーとして知られるエイミー・ジョー・キムの著書『ネットコミュニティ戦略』で書かれている「9つの原則」。これはソーシャルメディアが普及する以前に提唱されたものだが、現在でも非常に有用な言葉が並んでいる。
①「目的」を定義し、明確に表現する 
② 柔軟性と拡張性を備えた集いの「場所」を作る
③ 意味のあるメンバー「プロフィール」を作り、常に充実させていく 
④ さまざまな役割を準備する 
⑤ 強力なリーダーシッププログラムを作る 
⑥ 適切な「エチケット」を奨励する 
⑦ 恒例の「イベント」を実施する 
⑧ コミュニティに儀式を導入する 
⑨ メンバーによる「サブグループ」の運用を奨励する
当たり前といえば当たり前のことだが、実際にこれらのすべてを上手く使いこなせる人材はそう多くはない。また当時と違って現在はさまざまなツールがある。どのソーシャルメディアを選んでどう運用していくか。実のところ、それを指南してくれるマニュアルはない。市川氏にとってもこれは「悩み」の種だ。
「身近なところで言うと、例えば自分が同窓会の幹事になったとします。そんなとき『マニュアル』があれば凄く気が楽になると思います。」
ビジネスの世界ならまだしも、草の根のコミュニティでは管理人は孤独な存在だ。せっかくの「ソーシャルキャピタル」も管理人の「心が折れた」がゆえに失われてしまうとしたらもったいない話だ。だからこそその負担を減らす「効果的なマニュアル」の登場が待ち望まれている。

オンラインとオフラインをつなげる

セミナー後半は、オンラインコミュニティ運営のための「ツール」選びについて。市川氏が推奨するのは「プラットフォームを越えたところでのやりとりができるハッシュタグ」。「ハッシュタグ」とはあるソーシャルメディアの機能のひとつ。発言のなかに「♯」つきの言葉を入れて投稿するとその記号のついた言葉を含む発言が検索画面などで一覧できるといったものだ。「地味だし使い方はニッチ」だが、効果は抜群。記憶に新しい「アラブの春」もたった1つのハッシュタグが多くの人を動かした。すでにアメリカでは多くの企業がハッシュタグ入りのCMを流している。この動きに他のソーシャルメディアも導入を検討しているという。
コミュニティというものを考えたとき、大切なオンラインとオフラインをいかにつなげるかだ。伝統的に「この指とまれ文化」といったものがあるアメリカの場合、バーチャルのコミュニティをリアルの集いにつなげる動きが活発だ。同じ趣味を持つ者同士、同じ病気と闘う者同士、ソーシャルメディアを使えばすぐに自分の求めるコミュニティを見つけることができる。あとはリアルで参加するだけ。どんなに便利な社会になっても、やはり“face to face”こそコミュニケーションの基本。市川氏は同じことを「日本風にアレンジしてやっていけばいい」と語る。
夢は前述した「コミュニティマネージャー向けのマニュアルの作成」だという市川氏。その先には「いきいきと豊かな社会をつくるお手伝いがしたい」という市川氏の想いが詰まっているのだろう。

講師紹介

市川 裕康(いちかわ ひろやす)
市川 裕康(いちかわ ひろやす)
株式会社ソーシャルカンパニー代表取締役・ソーシャルメディアコンサルタント
1970年静岡県浜松市生まれ。1994年同志社大学法学部政治学科卒業。1996年同志社新島スカラー奨学生として米アマースト大学へ留学。NGO団体、出版社、人材関連企業などを経て2010年3月に株式会社ソーシャルカンパニ(www.socialcompany.org)を設立。ソーシャルメディアを活用したビジネス支援、公共分野での利活用の推進に関する調査、講演、コンサルティングに取り組み、海外のソーシャルメディア活用動向の最新事例調査、政府機関、国際機関、非営利団体等でのコンサルティング業務などに実績がある。講談社の「現代ビジネス」にて『ソーシャルビジネス最前線』、『デジタル・キュレーション』を2010年7月から連載。著書に『Social Good 小事典』(講談社)、翻訳書に『魂を売らずに成功する-伝説のビジネス誌編集長が選んだ飛躍のルール52』(英治出版)がある。