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イベントレポート

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2013年4月11日(木) 19:00~21:00

辻井 隆行(つじい たかゆき) / パタゴニア日本支社長

パタゴニアについて話そう
~責任ある企業を目指すパタゴニアとはどんな企業なのか~

今年で創業40周年を迎える、アウトドアウェアメーカーのパタゴニア。『最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。そしてビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する』というミッション・ステートを持つ同社の企業理念や製品づくり、歴史などを日本支社支社長である辻井隆行氏が、皆さんとのセッションを通してお話しします。同社が考える企業の社会的責任とビジネスを両立させる方法とは。

ビジネスという手段で環境問題に取り組む

「今日の前半はパタゴニアという会社についての話を、後半は他の会社の社会的取り組みなどを紹介することで、もう少し広いお話ができればと思います。」
そんな言葉から始まった辻井隆行氏のセミナー。まずは場の雰囲気をやわらかくするという意味も込めて、参加者同士、3~4人一組になって「最近、買った気に入っているもの」について話すという時間が設けられた。この対話の主たる目的は「企業と顧客がどうつながっているか」を考えること。企業のマーケティング活動には「プロダクトマーケティング」と「ブランディングマーケティング」という2つの軸がある。「プロダクト」で問われるのは製品そのもののスペック。これに対し「ブランディング」にはその製品のストーリー、そこにどんな想いが込められているか、さらにはそうした事業活動を通じてその企業が何を実現しようとしているのかが問われる。数人の参加者が「気に入ったもの」について聞くと、やはり返ってきたのはこうした「想い」を想起させるものばかり。「手作りのパン」や「出会いをもたらしてくれる長距離バスの切符」、あるいは「半オーダーメイドのスーツ」など、「想い」のこもった製品やサービスには顧客の心も反応する。アウトドアウェアメーカーであるパタゴニアにファンが多いのは、創始者のイヴォン・シュイナード氏をはじめ世界約1800名のスタッフが、こうした人々の心に訴える製品づくりに傾注しているからに違いない。
「口で話すよりもわかりやすいので、まずはこの映像をご覧ください。」
モニターに上映されたのは、パタゴニアを紹介するアメリカのニュース番組を再編集した映像。そこに登場するシュイナード氏は実に魅力的な経営者だ。この会社では社員に「いい波が立ったらサーフィンに行く」という自由を与えている。ペットボトルからフリースを作る、あるいはオーガニックコットンなどのエコファイバーを使用するなどの環境負荷を考慮した製品開発。そしてそれをビジネスという手段を通じて社会全体に広げていこうという努力。日本支社長を務めている辻井氏も、もちろんこのポリシーのもと日々の仕事と向き合っている。

環境と人権に配慮しながら最高の製品を作る

「パタゴニアがこうした方向に舵を切ったのは1991年のことでした。自分たちの製品を見直してみると、ポリエステルもナイロンもコットンもウールも、すべてが地球の環境に負荷を与えていることがわかった。農薬を大量に使用するコットン栽培では人体に及ぼす影響も無視できない。そこで出来る限りそれを減らす努力をすることに決めたのです。」
言うまでもなくエコファイバーへの転換はコストの増加につながる。しかしパタゴニアはその道を敢えて選んだ。その根底には環境、人体にいいものを世の中に送り出したいという想いがある。この取り組みはナイキなど大手メーカーにも影響を与えた。その他にも売上の1%は環境活動に寄付をするという「1% For The Planet」という活動。そして消費者に向けても製品が使えるうちは買い替えを控えることや、傷んだ際には修理、またリサイクル、リユースの推奨。このように「責任ある企業」として行動する一方で利益も年々アップさせてきた。
「私たちのミッションは、環境と人権に配慮しながら最高の製品を作ること。手間とお金のかかる経済効率性の低い手法が、実は経済の成長に貢献するということを示しながら、いろいろな情報を他企業や消費者の方々と共有し、量ではなく質重視の新しい世界を創造していきたいと思っています。」

社会がよくなるためのいい歯車になりたい

セミナーは後半へ。最初に紹介されたのはジュエリー専門店ハスナの取り組み。宝石は人を幸せにしてくれるもの。だが、その採掘現場を見れば、そこには児童労働や搾取、環境破壊といった「社会の暗部」がある。ハスナは美しいジュエリーに隠れたこの問題から目をそむけず、フェアトレードにこだわったエシカル=倫理的・道義的なビジネスを展開している。「こうした取り組みをしている会社さんを見ると勇気づけられる」という辻井氏。
「知らないことを知るとショックを受ける。そしてそれを誰かに話したくなるのです。なぜなら、問題は多くの人に知られると、問題そのものが力を持ち始めるからです。」
辻井氏が最近知って「ショック」を受けたのはコンゴの少年兵の問題。アフリカの内戦というと民族紛争のイメージがあるが、コンゴの内戦の大部分は「資源の取り合い」が原因だと言われている。例えば携帯電話に不可欠なレアメタルのタンタル。これはコンゴ産の物が多く使用されている。そのコンゴでは紛争に子供たちが「少年兵」として駆り出され、人々を、ときには強要され肉親を殺傷している。こうした事実を辻井氏は「小型武器」や「地雷」、「こども兵」の問題に取り組んでいるNGO団体『テラ・ルネッサンス』代表である鬼丸昌也氏を通して知ったという。
少年兵とはどんなものか。ここではCMプロデューサーである袋康雄氏に登壇を願い、アニメーション映画『NINJA&SOLDIER』を上映。袋氏にも製作にまつわるお話をしていただいた。袋氏がコンゴの問題に触れたのは昨年のこと。はじめは「日本は震災の復興で大変なのにアフリカの問題などに向き合ってはいられない」と思ったという袋氏だが、辻井氏と同じように鬼丸氏の話を聞くうちに「これは自分たちの問題だ」と感じるようになった。当時の袋氏は自分が誇りとしていた商業CMの仕事が震災発生時に何の役にも立てなかったことにショックを受けていた。しかしコンゴの問題では違った。まわりの人たちに「映像表現ができるっていいね」と背中を押され『NINJA&SOLDIER』を製作。この映画はベルリン国際映画祭のノミネート作品ともなり、多くの人々の共感を呼んだ。
一見するとアウトドアウェアメーカーとは関係していないような「少年兵」の問題。だが「責任ある企業の在り方というものを考えたとき、一気に根っこの部分でつながった」と辻井氏は語る。
「一部の食品や化粧品などを除くと、ほとんどすべての製品の生産過程は消費者にとってはブラックボックス。もしかしたら自分がお金を出して買っている物の裏には非人道的な事実が隠されているかもしれない。これからの世の中はその製品がどこで誰によってどんなふうにつくられているか、それが見えるようにしていくべきですね。」
辻井氏の夢は「社会がよくなるためのいい歯車になる」こと。パタゴニアという企業にいるならば、その夢は実現するに違いない。

講師紹介

辻井 隆行(つじい たかゆき)
辻井 隆行(つじい たかゆき)
パタゴニア日本支社長
1968年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、日本電装(現デンソー)勤務。1995年早稲田大学大学院社会科学研究科修士課程(地球社会論)入学。修士課程修了後、シーカヤック専門店「エコマリン東京」への就職と同時にアウトドアスポーツを始める。1998年夏、3か月の休暇を取得して、カナダ西海岸に遠征。帰国後は、冬は長野県でスキーパトロール、夏はカナダでシーカヤックガイドなどをして過ごす。1999年パートタイムスタッフとしてパタゴニア東京・渋谷ストアに勤務。その後正社員となり、パタゴニア鎌倉ストア勤務を経て、マーケティング部に異動、ホールセール・ディレクター(卸売り部門責任者)、副支社長を歴任。2009年より現職。