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イベントレポート

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2013年4月16日(火) 19:00~21:00

大島 芳彦(おおしま よしひこ) / 株式会社ブルースタジオ専務取締役・クリエイティブディレクター・建築家

人とまちを活かすリノベーション
建築ストックを社会資産として活用するということ

近頃、建築・不動産の世界を中心に耳にすることの多くなった「リノベーション」という言葉。既存環境をいかに住みこなすか、使いこなすか、そのための考え方を表す言葉です。修繕の延長、あるいは物を物で置き換えることを意味する「リフォーム」という言葉とは異なり、より積極的かつ合理的に今の状況、そこに至るまでの歴史や社会性を理解し、自分のものにしていこうとする新たな価値観を意味する言葉なのです。高価な新築住宅を終の棲家として購入するのではなく、リーズナブルでコンパクトな中古住宅を購入し自分仕様に改修して自分らしい暮らしを手に入れたり、既存環境の使い方を工夫し自らの手で街を再生させようとする・・・そんな動きがすべてリノベーション的行動なのです。目の前にある膨大な建築ストックをかけがえのない社会資産ととらえ、スクラップアンドビルドに頼らない成熟社会にふさわしいリノベーションの暮らしづくりをご紹介いただきます。

今そこにある建物をどう使いこなすか

 最近、よく耳にする「リノベーション」という言葉。だが、「中には誤解を招くような解釈もある」と大島芳彦氏は言う。
「いちばん多いのが、リノベーションとはお金のかかる大規模なリフォーム、という解釈ですね。今日は、実はそうじゃないんですよ、というお話をしたいと思います。」
 リノベーションとは、「今そこにある建物をどう使いこなすか、その家がある町をどう住みこなすか」ということ。大島氏が役員を務める一級建築士事務所『ブルースタジオ』ではそうした考えに基づいてこの10数年リノベーション事業を展開してきた。
 まず知っておきたいのは混同されやすい「リフォーム」と「リノベーション」の違い。
「試しに言葉を分解してみると、どちらも頭に“RE”が付きます。“RE FORM”は、もう一度形にする。RE INNOVATION”は、もう一度革新を起こす。これだけでもずいぶん意味が変わってきます。」
 リフォームは「修繕の延長」。対して「状況を捉えて、いま何をすべきか考える」のがリノベーションだ。例えば「築40年、10坪、3DKファミリータイプ」という物件があるとする。今の時代、畳をフローリングに変える「リフォーム」をしても家族はこうした狭い3DKには住まない。そこで時代のニーズに合わせるため、10坪というハードウェアにインストールされている3DKというソフトウェアを1回消去し、ディンクスやSOHOを持ちたい人に好まれる1LDKというソフトウェアに入れ換える。これが「リノベーション」。リフォームはその「リノベーション」の中にある手段の1つと考えればいい。
「医学の世界に例えると、リフォームは対処療法でリノベーションは原因療法。手段はリフォーム以外にもいろいろあるので、必ずしもお金がかかるリフォームがリノベーションというわけではないのです。」

中古住宅には「自由」がある

 ではなぜ最近「リノベーション」に注目が集まっているのか。そこにあるのは住むことや家に対する価値観の変化だ。
「昔は家というと二極化、つまり『買う』か『借りる』かのどちらかでした。それが最近は新たなニーズが生まれてきている。無理に借金を背負わずフットワークを軽くして付加価値のある賃貸住宅を求める『新賃貸派』とも言うべき方々や、自分の身の丈に合った中古住宅をライフステージに合わせて買い替えたり買い増したりする『流動資産派』といった方々です。」
 賃貸にせよ購入にせよ、実は中古住宅には新築にはない「自由」がある。その1つが「住みたい町を選べる」という点。中古住宅はどこの町にもある。まず町を選び、家を買い、購入の場合はそれを自分好みにリノベーションする。町を選ぶということは同時にコミュニティを選ぶということでもある。中古住宅ならではのライフスタイルを「編集」する楽しみ。大島氏はこれをコンサートホールなどに設置されているPAになぞらえて説明してくれた。
「PAのコントロールパネルにはたくさんのつまみがあります。予算が3,000万円だとして、築年数や駅からの距離、インテリアなど、たくさんのつまみを、どれを優先させ、どれを後回しにするか、上下に動かして自分なりに3,000万円の予算内で済むよう編集してみる。するとその人が今ほしい家というのが見えてくるのです。」
 事例としてモニターにアップされたのは、「自転車のメッセンジャーを職業とするご夫婦の、緑が見える都心部の家」や「映画好きのビジネスマンがつくったホームシアター付きのマンション」、「ルーフバルコニーのある都会の夜景が楽しめる部屋」、「家の中に家があるアート関係者の夫妻が住む物件」など。どれも築年数を経た物件がリノベーションによって個性溢れる家に変貌している。こうした物件を求める人の予算はだいたい3,000万円~4,000万円。こんなふうに「都心にしてはそれほど大きな投資をともなわずに夢の世界を実現できる」というのがリノベーションの魅力だ。

リノベーションで「人のつながり」や「町」を再生する

 リノベーションは、人と人とのつながりを再構築するという意味においても役割を果たしている。OECDの調査では日本は社会的孤立をしている人が多いことでは加盟国の中でワーストワン。しかし東日本大震災以降、人々は誰かとつながることの大切さを再認識した。そこで求められているのは、かつての「向こう三軒両隣」的な強いつながりではなく、利便性を享受した状態での「ウィークタイズ=やわらかなつながり」だ。20代~30代の若い人々がシェアハウスに住むのはその象徴といえる。
 こうした中で大島氏のブルースタジオが取り組んでいるのは「集合住宅の共同住宅としての再生」。ここでも事例をいくつか紹介。東京都大田区に造られた『うめこみち』は地主一族が代々建てた建物(=家族の歴史)を生かして造られたコミュニティ賃貸物件。赤羽の『ReNOA AKABANE』は敷地内にある荒れた森を整備して遊歩道や広場をつくった森のある分譲マンション。一方、多摩平団地の再生計画では都市公園としての団地の機能に着目し、緑溢れるコモンスペースや菜園、遊歩道、ボードウォークなどを設け、そこにシェアハウスや子育て世代向けの住居を設計、集合住宅の再生とともに「町の再生」をも実現した。同じ意味で北九州市小倉では商業地区に残る解体対象の木造建築をレンタルスペースにリノベーション。多くの人に利用してもらうことで古い建築物も社会資産に変わるということを証明してみせた。
「ゴミだと思っていたものに実は価値がある。自分たちの建築ストックの持つポテンシャルに気が付くことがリノベーションの第一歩なのです。」
 リノベーションは一過性のものではない。これからの住宅の選択肢としてベーシックなものとなっていくことは間違いないだろう。
 建築士としての大島氏の「夢」は「住育の器としてのワンルームマンション」を企画、デザインすることだ。ワンルームマンションに住むのは初めて社会に出た若い人たちが多い。人の一生において「住まい」を初めて認識する非常に重要なタイミングだ。「住育」という観点でいくと最初に住む「小さな家」は非常に大切。将来持ちうる理想の家像をも左右しかねない。
「リノベーションでも新築でもいい、工夫して住みこなすことのできる素朴な積み木のようなワンルームマンションをつくり、将来良い家を見極められる人が育つ環境をつくりたい。日本人は家を住みこなす力が弱くなっています。リノベーションの考え方のように、上手に既存環境を住みこなし、豊かな生活を育める人がもっと増える事を夢見ています。」
住まいの「物語」を作り続けてきた大島氏の目には、未来の家の「物語」も見えているのかもしれない。

講師紹介

大島 芳彦(おおしま よしひこ)
大島 芳彦(おおしま よしひこ)
株式会社ブルースタジオ専務取締役・クリエイティブディレクター・建築家
武蔵野美術大学造形学部建築学科卒業。米国Southern California Institute of Architecture(SCI-Arc)で学び、1998年に石本建築事務所入社。2000年よりブルースタジオにて建物ストックの再生「リノベーション」をテーマに建築設計、不動産商品企画コンサルティングを展開。その活動域は不動産流通(仲介・管理)、マーケティング、ブランディングなど多岐にわたる。ラティス青山、芝浦などの大規模コンバージョンプロジェクトを手掛ける一方、物件探しからはじめる中古マンションのスケルトンリノベーションサービスを展開。その他近年では団地再生計画、地域再生のコンサルティングなどにも携わる。一般社団法人リノベーション住宅推進協議会理事。一般社団法人HEAD研究会リノベーション・タスクフォース委員長、理事。明海大学不動産学部非常勤講師。