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イベントレポート

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2013年4月18日(木) 19:00~21:00

加藤 祟(かとう たかし) / 株式会社加藤崇事務所代表取締役

偶然をつかむキャリア
-枯れないバイタリティーの作り方-

あなたが仕事を通じて本当にやりたいことは何ですか?もしも、この質問に答えることができたなら、良いキャリアが送れると思いませんか?今回は、30歳前後でベンチャー企業社長、また大手外食・小売りチェーンの役員を歴任した加藤氏に登壇いただきます。前半ではご自身のキャリアを振り返りつつ、「リアルな原体験の重要性」についてお話いただきます。またセミナー後半では、加藤氏がいま最も力を入れているフィールドであり、若者にとってのリアルな原体験の宝庫とも言える「ベンチャー創造(入門編)」についてお話いただきます。あなたの中にある、枯れないバイタリティーのヒントを見つけてみませんか?

力無き人々に「一発逆転」のチャンスを

「今日は最初に問題認識からスタートしたいと思います。なぜこのセミナーで私がお話をするのか。それは伝えたいことがあるからです。」
 こんな言葉から始まったこの日のセミナー。冒頭で加藤氏が参加者と共有したのは日本社会の現状とそこに生まれた格差に対する認識。日本を代表する家電メーカーが揃って収益悪化に苦しみ、人々の間には世代間格差や就職氷河期が生んだ世代内格差が目立つ今の日本社会。一例としてモニターに示されたのは、家庭の年収と照らし合わせた「児童の算数の点数」。年収1200万円以上の家の子供の平均点が68.4点なのに対し、「ワーキングプア」と呼ばれる年収200万円以下の世帯の子は31.6点。実に倍以上の開きがある。
「下流の子は下流。それが固着化しつつある。いつから日本はこんな国になってしまったのか。僕はこれに違和感があるのです。」
 講演などを通じて学生や若い社会人と交流のある加藤氏。そこで感じるのは今の若者たちは「八方塞がり」の中にいるということだ。
「お話ししたいのは、フェアネスという観点から、金もコネもない力無き人々に一発逆転のチャンスを与えたい、ということです。」
 「逆転」に必要なものは2つ。「今の境遇(偶然)を愛する気持ち」と「道を進むための、バイタリティー」だ。この2つはパソコンで言うならOSに当たるもの。「モチベーション」が短期的なのに対し、「バイタリティー」は長期的。一生を「走る」ためにもバイタリティーは必要だ。

イメージと現実のギャップがバイタリティーを生む

 加藤氏自身のキャリアはプロフィールだけ見ると華やかだ。早稲田大学を卒業し、大手銀行に就職。その後は外資系企業で企業再生事業に従事、オーストラリア国立大学にMBA留学、技術系のベンチャー企業の社長を務め、大手外食チェーンなどを傘下に持つ企業の執行役員を経て、現在は独立、経営コンサルタントとして活躍している。ルックスの良さもあいまって、はたから見ると「サラブレッド」に映る。だが、イメージと現実は違う。
「実は僕は四歳のときに父が事業に失敗して家が抵当に入り、その後は父と離婚した母に女手ひとつで育ててもらいました。姉は高校には行かずに看護学校に進み、看護師となって僕の学費を稼いでくれました。大学は奨学金で入学。学生時代は母が病気で倒れたため介護に徹し就職活動はできませんでした。」
 それでも先輩に声をかけられ銀行に就職することができた。が、入って目の当たりにしたのは人が想像するグローバルな金融ビジネスとはほど遠いリアルな場。不良債権化しそうな客から融資を回収する部署に配属された。
「あるとき、担当していたパン屋さんの奥さんがお店に来られたんです」
 部署では「抵当に入った家を売却して借金を返す」ことを提案していた。追い詰められた奥さんは涙をこぼしながら「雨の日に傘を取り上げるようなことをするのですか」と訴えた。
「ショックでした。お金を回収するのは当然だし会社は間違っていないのですが、一方でこれはアンフェアではないか、俺は何をやっているのだろう、と疑問に感じたのです。」
「若気の至り」だということもすぐには無理ということも承知の上で「パン屋さんを救いたい」と思った。「こんな世の中ではいけない」という、「イメージと現実のギャップからから生まれた怒りと悔しさ」をバイタリティーに変え、企業再生の世界に身を投じた。
「僕のような思いは多くの人がしている。普通はやけ酒を飲んで愚痴を言っておしまいだけど、実行に移すことが大事なのです。」
行動するにはそれを裏付ける自信がなければならない。ではその自信をどうやって持つのか。そこには「リアルな原体験」、「小さな成功体験」や「ロールモデル」が必要だという。モニターで事例と紹介されたのは靴のネット通販で名を馳せたザッポスの創業者トニー・シェイ氏。彼には中学のときに缶バッジの通販で小遣いを稼いだ経験があった。この小さな成功体験が本人に「自分はネット通販で何かができる」という自信を与え、後に1000億円以上の売上を誇る企業を生み出した。仕事柄、「成功者」と呼ばれる人間と接してきた加藤氏。何十億円という資産を持つ人々も話してみれば自分とは「紙一重の差」しかない。こうした現実を踏まえた上で、「自分の境遇によく似た、ロールモデルとなる人をさがして真似をするといい」という。

ベンチャー創造、それは「雇用」をつくり「幸せ」を生み出すこと

 リアルな原体験を積むのにもっとも適しているのは「ベンチャー創造」だ。なぜならば起業ほど人を成長させてくれるものはないからだ。加藤氏自身、「キャリアの中で一番に勉強になったのはベンチャー企業の社長」だったと振り返る。「物を売ることがいかに難しいか」、「お金がないとはどういうことか」、人とぶつかりあって過ごした2年間は実感として「10年分」の体験をさせてくれた。
「だからこそ失うものが少ない若い人たちには、ぜひベンチャーに挑戦して多くの失敗を経験しながら、その経験を糧にして一発逆転を実現してほしい。そして新たな雇用を生み出してほしいと思います。」
 雇用をつくると所得が配分される。配分されれば人は結婚し、そこに家族が、幸せが生まれる。実際にここ10年、ベンチャー企業が数多く生まれ雇用を増やしている。バランス的に見ても日本にはもっと多くのベンチャーが生まれていいはずだと加藤氏は説く。
「起業家というと1人というイメージですが、成功したベンチャー企業の多くは2人以上で始まっています。」
 大切なのは「何をやるか」以上に「誰とやるか」。苦難を共有するバディ=相棒がいるといないとでは大きく違う。マイクロソフトもヒューレッドパッカードも2人で始まった。こうした例は枚挙にいとまがない。
 加藤氏には「夢」が2つある。まずはこれから10年をかけて「起業家教育」に取り組むこと。今年5月からスタートする『THINK BIG 起業研究会』はそれを具現化したものだ。根源にあるのは「アンフェアなものをフェアにしたい」という、銀行員時代からの思いだ。
「若い人たちにとって世の中は壁のようなもの。しかしその壁は案外やわらかくて押せばへこんだりするものです。」
 へこみはやがて穴となり、突き抜けた先に新しいマーケットや産業が生まれる。
「ロングタームの夢としては、いつか自分の人生が終わるとき、息子に尊敬しているぞと言われること。そう言ってもらえるような生き方がしたいですね。」
バイタリティー溢れ、チャレンジをし続ける加藤氏の姿に、力をもらった参加者も多かったのではないだろうか。

講師紹介

加藤 祟(かとう たかし)
株式会社加藤崇事務所代表取締役
早稲田大学理工学部応用物理学科卒業。オーストラリア国立大学経営学修士(MBA)。大手銀行、技術系ベンチャー企業社長、高級スーパー「成城石井」と焼肉の「牛角」を傘下に抱えていた当時の株式会社レックスホールディングス執行役員を歴任し、2011年株式会社加藤崇事務所を設立。経営コンサルタントとして活躍しつつ、若者のベンチャー創造に関する教育にも力を入れている。著書に『THINK BIG(シンク・ビッグ)―僕たちにもできる起業―』がある。