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イベントレポート

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2013年5月7日(火) 19:00~21:00

竹田 聡一郎(たけだ そういちろう) / サッカージャーナリスト

アンチサッカージャーナリズム

世界でもこんなに多くのサッカー関連の戦術本、技術本が出版されている国は日本以外にないだろう。サッカージャーナリストの竹田氏は「ポゼッションやアタッキングサード、バイタルエリアなどの専門用語はちょっと、食傷気味。少しお勉強が過ぎるというか、本来、もっとサッカーって刹那的で感情的だと思うのです。」と語る。実際に選手が種々の戦術を理解しているかどうかといえば必ずしもそうではないし、こんなに多くの本があってどれが本当に参考になるのかも分からない。大量に溢れる情報を、報道の現場ではどういう感覚で見ているのか。本当に必要な情報を選別する目を養うため、どうすべきか。竹田氏の見解を含めお話しいただきます!

日本の記者は後づけで記事を書いている

本日の講師はスルガ銀行『I DREAM』でサッカーコラム『日々是蹴球』を連載中の竹田聡一郎氏。
220 回以上つづいている人気連載の筆者が語る「アンチサッカージャーナリズム」とは。d-labo コミュニケーションスペースには竹田氏の読者やサッカーファンなど、60名近い参加者が詰めかけた。
「サッカージャーナリズムというものが全般的に嫌いです。」
竹田氏の小気味よい言葉から始まったセミナー。「僕が嫌いというだけで否定するわけではないのですが」と見せてくれたのはサッカー日本代表を特集したスポーツ専門誌。
「よくこういう雑誌の記事で、〈バランスを気にしてポゼッションを多めにプレーしていた〉といったコメントを見かけると思うのですが、実はサッカー選手って感覚でプレーしていることが多いのです。」
自身も10 代の頃はベルマーレ平塚(現・湘南ベルマーレ)のジュニアユースでプレーをしていた竹田氏だけあって、サッカー選手への理解は深い。実際のところ、得点を挙げた選手に戦術について質問しても「覚えていない」という答えが返ってくることが多いという。
「野球で言うなら長島氏が直感的に身体を動かしてホームランを打つようなもの。サッカーもそういうものだと思うのです。」
世界を席巻しているバルセロナのパスサッカーにしても、「自分たちがやっていることを繰り返していたらあの形になっていった」と考える方が筋道が通っている。それが「戦術」と成りえるのは優秀な指導者に依るところが大きい。4 年前、「3 年でJ1昇格」という目標をわずか1 年で達成したベルマーレも、反町監督が難しい戦術をわかりやすい言葉で選手に伝えたからこその快挙だった。当時、右サイドバックでプレーしていた臼井幸平選手は竹田氏の友人だ。その臼井氏に竹田氏はあるとき、「監督の戦術をすべて理解しているのか」と尋ねた。臼井選手の答えは「わからない。とにかく行けそうならボールホルダーを追い越して受けての繰り返し。それをやっているだけ」というものだった。が、それによってボールがどんどんつながってクロスが上がり、点が取れるようになった。そしてベルマーレはJ1に昇格した。
「日本の記者はポゼッションだとかフォーメーションだとか、後づけで記事を書いている。読んでいて、あ、なるほど、と思うこともあるけれども、半分くらいはこじつけなのです。」

ライターはもっと個性をむきだしにしていい

資料として配られたのは、ウェブに掲載されたウェブ独自のサッカー記事のプリント。こうした記事は毎日数十本が配信されている。中には試合をダイジェストした記事もあれば、裏話やこぼれ話といったことをコラムにまとめたものもある。サッカーに限らず、竹田氏はこうした記事には「読み手が読んで幸せな気持ちになる」か「知識として新しく得るもの」のどちらかが必要だと語る。ここではまず後者に当たるコラムを紹介。サポーターのチャント(応援歌)や、試合後の選手同士のユニフォーム交換を題材にした内容は「日本のマスコミではあまり報道されない」が、その数少ない中から竹田氏が探してきたものだ。だが、こうした記事がある一方で「1,000 文字くらいあるけれど要約すると20 字で済む」ような、はたして読むに値するのかと首を傾げたくなるような記事も流通しているのが日本のサッカージャーナリズムだったりもする。
「日本はサッカー関連のメディアがあまりにも多いので、購読者側が自分なりの判断基準を持って雑誌やライターを選ぶことが大切です。」
もうひとつ、問題があるとすれば「歴史の浅さ」だ。J リーグは発足して20 年。書き手は自己主張が少なく、欧米のメディアのように選手の批判もしない。一方で、横文字を多用しての戦術論だけは溢れている。実際、サッカー関連の書籍の半分は戦術関係の本だ。「ライターはもっと個性をむきだしにしていい」と竹田氏は考える。
「そもそもサッカーというスポーツがそう。ポゼッションだの、フォーメーションだのいっても最終的にはブラジル人が謎のドリブルで3 人かわして点を入れたりする。そういうところがサッカーのおもしろいところだし、もっと刹那的でいいと思うんですね。」

サッカージャーナリストとしての目は「ピッチの外」へ

セミナー後半は、先日、日本代表が1-2 で敗れたワールドカップ予選のヨルダン戦の映像を見ながらの進行。この試合では日本代表の要である長谷部選手が精彩を欠いていた。しかし日本の記者たちはそれを指摘しなかった。資料の中にもこの試合に触れたものはあるが、そんな指摘はなく日本代表を持ち上げる内容となっている。そして記事の中身はといえば「ランニングスキル」や「プレーレンジ」といった、横文字のキーワードに頼った曖昧な表現が目立つ。
「最近のライターはみんなフェイスブックやツイッターをやっていますから、用語などで疑問に感じることがあったら直接訊いてみるといいでしょう。」
すぐにレスがあればそのライターは「優秀」で自身の中に論述を持っている。こうした読み手側からのジャッジがサッカージャーナリズムの発展につながる。
ここで国立競技場を例に現役のジャーナリストならではの取材の裏話を開陳。記者には選手がバスに乗る前のミックスゾーンという場所で取材をする権利が与えられている。だがときには声をかけても無視して通り過ぎてしまう選手がいる。それを記者は「選手に嫌われたくない」という思いから「これがこの選手のスタイル」といった記事に仕立ててしまう。日本のサッカージャーナリズムは「選手と友達」であることがいちばんのステータス。ゆえに選手の批判はしにくいのだ。
玉石混淆のサッカー記事。竹田氏が目を向けているのは「ピッチの外」だ。サッカーの主役はむろん芝の上にいる選手たちだが、視点を変えればそこには無数のドラマがある。サッカーは「世界でいちばん大きなスポーツ」だからだ。草サッカーを取り上げることの多い『日々是蹴球』はそれに対するひとつの答え。
「このコラムには有名選手は出て来ない。だけどサッカーに興味のない人にも何かを感じてもらえれば、という思いで書いています。」
竹田氏の「夢」はサッカージャーナリストをつづけながら「どこか地域に密着したクラブチームの練習場の横でビールの飲めるサロンを経営する」こと。戦術論の「お勉強」よりもビールを飲みながらの無駄話。どちらがサッカーを楽しめるかは、言うまでもない。

講師紹介

竹田 聡一郎(たけだ そういちろう)
竹田 聡一郎(たけだ そういちろう)
サッカージャーナリスト
1979年神奈川県生まれ。黄金世代の底辺選手としてボールを蹴り、小野伸二選手に股抜きをされた経験を糧に2004年にフリーランスのライターとなり、サッカーを中心にスポーツ全般の取材・執筆活動を続けている。著書にスルガ銀行のサッカーwebサイト「I DREAM」内のコラムを書籍化した『日々是蹴球』や、『BBBビーサン!!15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』(講談社文庫)がある。