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イベントレポート

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2013年5月17日(金) 19:00~21:00

深谷 圭助(ふかや けいすけ) / 中部大学 准教授

誰でもカンタン「辞書引き学習」の教え方

子どもの学習意欲の低下や学力低下といった問題を打開する確かな指導法として、教育界で注目を集めている「辞書引き学習法」。2006年に開校した立命館小学校において、子どもの自ら学ぶ学習意欲と語彙力、言語活用能力、読解力を短期間で圧倒的に高める革新的な教育方法として実践され全国に知られるようになった。その効果の高さから国内の教育現場はもちろん、シンガポールなど海外でも導入されはじめている。今回のセミナーではこの革新的な学習方法の提唱者である深谷氏をお招きし、開発までの過程、効果、そして子どもたちへの正しい指導方法などについてお話しいただく。

「辞書引き学習」で学力や意欲が伸びる

「ケーキが20こあります10こ たべました のこりはなんこですか?」
 小学校1年生向けの問題から始まった本日のセミナー。講師の深谷圭助氏によると「これは算数ではなく実は国語の問題」だという。ケーキの個数を「にじゅっこ」「じゅっこ」と読むか、それとも「にじっこ」「じっこ」と読むか。参加者に問いかけると「じゅっこ」が多数派。が、実は「十」を「じゅっ」と読むようになったのは平成22年に告示された常用漢字表から。現在はどれもOKなのだが、本来だったら「にじっこ」「じっこ」と読まなければならないところ。なのに「じゅっこ」と読んでしまうのはなぜなのか。
 答えは簡単だ。「国語の先生も読み方を知らないから」だ。質問はまだつづく。「全然大丈夫」の「全然」はこの場合正しい使い方だろうか。答えは「イエス」。「ひとびと」は正しくは「人々」なのか「人人」なのか。こちらの解答は後者。普段、当たり前に使っている言葉もその意味を問われるとうまく答えられないのが日本語だったりする。深谷氏が提唱している「辞書引き学習」はこの「当たり前の言葉」を引くところからスタートする。
「基本的な言葉を調べてみると意外な発見があったりする。そこが『辞書引き学習』のおもしろいところなのです。」
 現在の学習指導要領では辞書に関する指導は小学校3年からとなっている。これに対し「辞書引き学習」は小学校1年から始まる。
「小学校のカリキュラムは1位が国語で1,461時間。2位が算数の1,011時間。これからわかるように小学校では国語がいちばん大切な科目なのです。」
 そこで効果を発揮するのが1年生からの「辞書引き学習」だ。辞書を使えば語彙力が伸びる。語彙力が伸びれば語彙活用力、読解力、文章力が伸びる。実際にある小学校でデータを取ってみたところ、「辞書引き学習」をしている子たちはしていない子よりも基礎的国語力が10ポイント高く、図書館で借りる本の数も多かった。ただ辞書を引くだけでこれだけ学力や勉強に対する意欲が変わるのだから、その効果のほどがわかるというものだ。

付箋のついた辞書は「がんばった自分」の分身

 映像で紹介されたのは教室の光景。付箋が何千と貼られた花束のような辞典はもはや「オブジェ」。「すごい子は3か月で4万枚もの付箋を貼った」という。付箋の数は、もちろん調べた言葉の数を表わしている。
 「辞書引き学習」のポイントは「引き方から教えない」ことだ。普通の指導では辞書は「あいうえお」順の配列から教えていくが、これでは辞書の魅力を伝えていることにはならない。だから子どもたちは辞書が嫌いになる。結果、学級文庫に辞書があってもブックエンドがわりに使われたりして開かれなくなる。
 タイトルにもある通り、深谷氏が開発した「辞書引き学習」は「カンタン」だ。まずは「あ」からでいいのでページを開いて知っている言葉や字を見つける。見つけたら付箋にその言葉や字を書いてぺたりと辞書に貼る。このとき大事なのは付箋に番号をつけること。番号がつくと子どもたちは「静かに燃える」。数を増やそうと、どんどん辞書を引いていくという。深谷氏がこの指導を始めたときの周囲の反応は「1年生や2年生では早過ぎる」といったもの。が、やらせてみれば子どもたちは自然と辞書の構造を理解し、使い方を体得していく。付箋がついた辞典は「がんばった自分の分身」だ。だからとても大切にする。映像で見ると児童たちの辞書はそれぞれの個性が窺えて興味深い。付箋を色分けしている子、給食の時間でも辞書を机に置いている子、こうなると「三度の飯より辞書が好き」と言っていい。二児の父親である深谷氏はもちろん自分の子どもにもそうした「辞書引き学習」を体験させている。
「うちの娘が始めたのは5歳のとき。最初はやる気がなかったけれど、すぐにおもしろくなって言葉をさがすようになりました。」
 現在の小学生向け国語辞典にはすべて「るび」が振ってある。ひらがなさえ読めれば幼稚園児でも「辞書引き学習」は可能だ。
「大人から見るとおもしろいのは子どもたちが選ぶ言葉です。え、そんな言葉を知っていたのか、と驚かされることがよくあります。」
 ある小学2年生が調べた言葉は「五月病」。別の幼稚園児は「ストレス」を引いた。子どもたちは意外に高度な言葉を操っているのだ。

言葉を知るうちに身についてゆく「自学自習」の姿勢

 深谷氏の提案する「辞書引き学習」は3段階。まずは前述したように「知っている言葉」から選んでいく。この点において「辞書引き学習」は「コロンブスの卵」だ。辞書というと一般には「知らない言葉」を引くものというイメージだが、「知っている言葉」を引く方がアプローチしやすい。辞書を引くものと考えず、読物として与えればいいのである。
 付箋が1,000枚に達する頃には第2段階に入る。調べたい言葉が増えるとともに、「辞書にはない」言葉があることに気がつく。子ども用の辞書の収録語数は平均して3万から3万5,000語。固有名詞などはなかったりする。
 第3段階となると、大人向けの国語辞典や漢字辞典やことわざ辞典、四字熟語辞典などいろいろな辞典を使うようになる。成果が現われるまではだいたい3か月から半年。成功のポイントは「好きなところから入ること」だ。そして「子どもの引き方にケチをつけない」こと。こうやっていくうちに子どもたちには「自学自習」の姿勢が身につく。中には辞書の間違いを発見する子どももいる。
「辞書に書いてあることは絶対ではない。当たり前の言葉を引くことによって当たり前のことを疑うことの大切さ、批判的リテラシーが備わるのです。」
 高い金を払って塾に行かせなくても、辞書1冊あれば子どもは自学自習ができる。「辞書引き学習」はいまや国内だけでなく外国でも注目されている。実際、売上の減少している紙の辞書の中にあって、小学生向けの国語辞典は増えているという。世の中には電子辞書というものもあるが、「辞書引き学習」の魅力は付箋をつけての「ナンバーリング」や、「知らない言葉との出会い」。その点ではやはり電子辞書よりも紙の辞書の方が「辞書引き学習」には向いているという。
 深谷氏の夢は「教育で子どもを元気にする」ことだ。
「子どもが元気になれば大人も元気になる。世の中を元気にしたいですね。」
これまでは主にブックエンドとして活用されてきた辞書。深谷氏の学習法はそんな辞書に希望の光を当て続けていくのだろう。

講師紹介

深谷 圭助(ふかや けいすけ)
深谷 圭助(ふかや けいすけ)
中部大学 准教授
1965年愛知県生まれ。1989年愛知教育大学教育学部卒業。愛知県公立小学校教諭時代に「辞書引き学習法」を開発し、1988年愛知県教育論文最優秀賞受賞。2002年に名古屋大学大学院博士前期課程修了。2005年立命館大学小学校設置準備室室長補佐。2006年立命館小学校教頭。2007年名古屋大学大学院博士後期課程満期退学。2008年名古屋大学より博士号(教育学)を授与され、立命館小学校校長に就任。2010年から中部大学准教授、現在に至る。主な著書に『7歳から辞書を引いて頭をきたえる』(すばる舎)、『7歳から「漢字辞典」を読む子は学力が伸びる』(すばる舎)、『なぜ辞書を引かせると子どもは伸びるのか』(宝島社)、『立命館小学校メソッド』(宝島社)、・『深谷式辞書・図鑑活用術』(小学館)、『深谷式辞書引きガイドブック』(小学館)、『読解力を劇的に伸ばす大人の「思考ノート」のつくり方』(宝島社)などがある。