スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2013年6月11日(火) 19:00~21:00

滝村 雅晴(たきむら まさはる) / パパ料理研究家・株式会社ビストロパパ代表取締役

オヤジの味を文化に
~パパ料理研究家の挑戦~

男の料理は、自分のお腹が減ったときに自分の食べたいものを自分の都合で作る趣味の料理。一方でパパの料理は、自分のお腹が減っていなくても、家族のお腹が減ったことに気づいて作るお父さんの家庭料理。自分のためか、家族のためか。「誰かのために料理をつくることで、人はさまざまなことに気づくことができる。」という滝村氏。7年以上も毎日欠かさずパパ料理に関するブログをアップし続ける、日本で唯一のパパ料理研究家が伝えたい、料理を通したワークライフバランス、そしてオヤジの味を文化にする活動についてお話しいただきました!

長女の誕生を機に「パパ料理」の世界へ

「みなさん、これはなんでしょう?」
 セミナー冒頭、滝村雅晴氏が取り出してみせたのは100円ショップで買ったという計量スプーン。いわゆる「大さじ」「小さじ」のスプーンだが、なぜかサイズが2種類ではなく3種類ある。
「この大中小のうち、どれが本当の大さじでどれが小さじかわかりますか」
 参加者の中で2つともぴたりと当ててみせたのはわずかに1名だけ。ほぼ全員が、大さじと小さじのどちらかを間違えた。正解は、大きなものから順に「大さじ」、「小さじ」、そして「小さじ2分の1」。参加者の料理経験を確かめてみたところ、多くは「家で自分で料理をする」といった人たち。そうした人たちですら、計量スプーンの見分けができなかったりするのである。これが仕事中心の生活を送っている世のお父さんたちともなれば、料理や調理器具に関する知識がどれほどのものかは想像に難くない。現在は「パパ料理研究家」として活躍している滝村氏にしても10年ほど前までは「外食ばかりで料理などしたこともない」、そうした「パパ」の1人だったという。
「その僕がどうして料理をするようになり、それを仕事にするまでになったのか。きっかけとなったのは10年前、長女が生まれたことでした」
 子育てのために外食ができなくなったため、自分で料理を作ってみると、そのおもしろさに気が付いた。レシピ通りに材料を揃えて、書いてある作り方に忠実に作ってみた。例えば「鯛のカルパッチョ」。料理の経験がまったくない人間には、いったいどんな味になるか想像がつかない。だが、できたものを食べてみると「プロの作ったレストランの味」が見事に再現されていた。
「目から鱗でした。レシピ通りに作るとこんなものができるのかと。これが僕が料理にはまったいちばんの理由でした」
 それからは凝る一方。大量のレシピ本を買い込み、道具にもこだわった。レパートリーはどんどん増えていった。その先に待っていたのは「苦い経験」と「気づき」だった。

「パパ料理」は家族を笑顔にする料理

「当時、僕が作っていたのは趣味的な男の料理でした。できるまでに時間はかかるし、後片付けもろくにしなかった。妻にはかえって負担になることばかりだったのです」
「男の料理」が「自分軸」の料理だとすると、「パパ料理」は家族のために作る「他人軸」の料理だ。家族の誰かがおなかを空かしていたら、たとえ自分は減っていなくても作ってあげる。「パパ料理」にはそうした思いやりが不可欠だ。
 ひとりよがりだったことに気がついた滝村氏は、「男の料理」とは違う、家族に喜んでもらえる「パパ料理」の方程式を編み出していった。「時間をかけすぎないこと」、「道具にお金をかけすぎないこと」、「食材にお金をかけすぎないこと」、「買い物、片づけ、ゴミ捨てまでできること」、「料理は美味しいこと」。これが「パパ料理の掟だ」。
 モニターに流されたのは2年半前に滝村氏を取材したテレビ番組。映像の中では長女の優梨香ちゃんが滝村さんの握った「ゴマ油に塩をまぶしただけ」のおにぎりを美味しそうに頬張っている。「パパ料理」はこんなふうに家族が笑顔になる料理だ。こうして家族に料理をつくっていくうちに、滝村氏の胸には「これをもっと世の中に広めたい」という思いが募っていった。「ビストロパパ~パパ料理のススメ~」というブログを開設。男性が家族にふるまう「パパ料理のレシピ」をどんどん紹介していった。やがて思いは溢れ、ついには14年間在籍していたデジタルクリエイターの養成学校をやめて「パパ料理研究家」として独立・起業することを決意する。
「僕は養成学校の創立時のメンバーでしたし、まさかやめるとは自分でも思っていなかった。でも生きているとこういう予想だにしないことってあるのです。」
 いうなれば「パパ料理研究家」という新しい職業をつくったようなものだった。起業後はテレビ、ラジオなど数多くのメディアに出演。ブログでの発信、書籍の刊行などと並行して男性向け料理教室を開催、京都の一澤信三郎帆布とコラボレーションしてのエプロンやトートバッグ、子ども用エプロンの販売などを通じて「パパ料理」の普及に努めてきた。

子どもと一緒に父子料理を

「人気があって盛り上がるのは『パパ子料理教室』。これはパパと子どもが料理を作って、さあ食べようかという頃にママもやって来て一緒に食べるといった教室です」
 滝村氏の教室の特徴は、申込の7、8割がパパ本人ではなく妻によるものだという点。教室に来るパパたちのなかには不本意そうな顔をしている人も少なくない。それが子どもと一緒に料理をつくって食べる段になると笑顔に変わっている。これが「パパ料理」の力だ。
 「料理力は仕事力」。パパたちの中には滝村氏のこの言葉に頷く人も多い。実際、「リソース(食材)を活用」して「クライアント(家族)に最適なソリューション(美味しい!という笑顔)を提供」し、「現状復帰(後片付け)」や「在庫管理(買い出し)」までを行なう「料理」という行為は、ビジネスとよく似ている。同時に、「パパ料理」は家庭で行なうものだけに「子どもと成長する楽しみ」がある。子どもは3、4歳になるといろんなことを自分でしたがるようになる。幼くてまだお手伝いとは言えないような、「子手伝い」をプラスして父子で料理を楽しむ。あるいは一緒に買物に行く。「子どもはあっという間に大きくなる」と滝村氏。それを考えると、父子で過ごすこうした時間はとても貴重なものだ。
 後半は今後のプロジェクトを紹介。「絵本」に出て来る料理をレシピする。交流パーティーやキッズ向け教室、ビジネスクッキングスクールを開く。『日本パパ料理協会』を設立するといった「パパ料理」を広めてゆくためのプロジェクトについてお話いただいた。
 「パパ料理」は「思いやり料理」。家族のために料理を作れば自然と栄養学や食育の知識も身につき、自分の健康にも役立つ。教室や交流会で「パパ友」をふやし、地域ともつながる。みんながそうやってワークライフバランスのとれた人生を送り、家族を笑顔にすることができればいい。これが滝村氏の夢だ。
「大事なのは家族を思いやる気持ち。僕は家族にそれを教わりました。〈おふくろの味〉を語るように〈オヤジの味〉をみんなが語るような、そんな世の中にしていきたいですね。」
「パパ料理で日本は元気になった。」そんな話題で盛り上がれる世の中になることを願いたい。

講師紹介

滝村 雅晴(たきむら まさはる)
パパ料理研究家・株式会社ビストロパパ代表取締役
「パパが料理をすることで、家族が幸せになる」世の中づくりのために活動する、日本で唯一の「パパ料理研究家」。講演、料理教室、NHK「かんたんごはん」、NHK教育「まいにちスクスク」の出演ほか、TV・ラジオ出演、各種メディアでの連載、一澤信三郎帆布コラボエプロン・トートバッグ、子ども用エプロンの企画販売、BistroPapa Online Shop運営など、パパ料理の普及・啓蒙活動を行う。ブログ「ビストロパパ~パパ料理のススメ~」は7年以上毎日連続更新中。著書に「ママと子どもに作ってあげたいパパごはん」マガジンハウス、「パパ料理のススメ父親よ大志を抱け」赤ちゃんとママ社がある。「パパごはんの日」プロジェクト代表、エコ・クッキング推進委員会認定エコ・クッキングナビゲーター、NPO法人ファザーリング・ジャパン会員、NPO法人日本食育協会会員、食育指導士。川崎市小学校PTA会長。京都府出身、神奈川県在住。