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イベントレポート

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2013年6月25日(火) 19:00~21:00

山崎 まゆみ(やまざき まゆみ) / 温泉エッセイスト

こんなにある!世界の温泉

アイスランドにある世界最北の露天風呂からタイのクラビに湧く熱帯ジャングル温泉、イタリアのフィレンツェ近くにある巨大洞窟風呂...。入浴方法や温泉との付き合い方はそれらがある地域の宗教や習慣によってもさまざま。そしてアジア各地には日本人が開発した温泉街や日本人が温泉入浴を伝えた国もある。世界29ヶ国の温泉を訪ねてきた山崎氏に世界の温泉の紹介を通して、日本に湧く温泉の魅力、そして「日本人にとって温泉とは」といった日本の温泉文化についてお話しいただきました。

温泉は「気持ちのいい」者同士が出会う場所

 温泉エッセイストとして15年に渡って各地の温泉を巡って来た山崎まゆみ氏。その活動のフィールドは国内に留まらず海外にまで広がっている。今回のセミナーでは世界各地の温泉を写真で紹介するとともに、伊豆半島の旅館が取り組んでいる「かかりつけ湯」についてお話をしていただくこととなった。日本人がこよなく愛する温泉。山崎氏が温泉エッセイストという魅力的な仕事につかれたのはどういう経緯があってのことか、まずは山崎氏自身の口から語っていただいた。
「私が温泉の取材を始めたのは15年前。最初に行ったのは混浴のお風呂でした。」
 フリーライターだった山崎氏に温泉エッセイストへと転じるきっかけを与えたのはアウトドア情報誌の『BE-PAL』だった。「全国の混浴の温泉を取材してほしい」との依頼に、山崎氏は運命的なものを感じたという。
 モニターに映された最初の写真は「子宝の湯」として知られる新潟県の栃尾又温泉。山崎氏が生まれる前、長岡に住む両親は「子どもを授かりますように」とこの温泉に足繁く通った。いわば自分は「子宝の湯」から生まれた子。その自分が温泉をリポートするのは「自然なこと」のように思えた。
 とはいえ、取材対象は混浴風呂。雑誌には肌をさらした入浴中の写真も載るし、若い女性としては迷うところもあった。
「で、父に相談したら、せっかくの機会だし、減るもんじゃないからやれと言われたんです」
 背中を押されてやってみると、たちまち混浴の魅力にとりつかれた。混浴の風呂というのはたいていが山深い大自然の中にある。そんなところでお互い裸になって言葉を交わすのは「究極のコミュニケーション」といえた。
屋久島の温泉。岩手県の八幡平。紹介されていく写真の中の人々はみんな笑顔だ。
「温泉は入ると気持ちがいい。温泉での出会いは気持ちがいい者同士の出会いなんですね。羞恥心やドキドキもあるけど、忘れられない一期一会があるのが混浴の温泉です」
 この連載を機に、温泉をリポートする仕事がどんどん増えていった。最近は「混浴」の一方、「おひとり温泉」も提唱している。友人同士で行くとおしゃべりに花が咲いて「ああ気持ちよかった」で終わってしまいがちなのが温泉旅行。泉質について考えたり、肌の感触を確かめたりと、純粋に「湯」と向き合うには1人で入るのが一番だからだ。

世界の温泉をまわるなかで知った日本人の足跡

 もちろん、人と一緒に入るのは温泉の大きな楽しみだ。「世界中の人たちと温泉に入れたら楽しいかも」と考えた山崎氏は、海外の温泉にも足を延ばすようになる。アジアやヨーロッパなど、その数はすでに29ヶ国。行く先々で、その国の温泉文化に触れてきた。スイスでは水着で泳ぐ冷鉱泉の温水プールに、アイスランドには「温泉に入りながらオーロラを見る」という目的で行った。イタリアの温泉施設も訪れたし、アメリカでも山に囲まれた野天風呂に入った。そうした活動はテレビや雑誌を通して人々の知るところとなった。
 東南アジアでは、よく現地の人に「この温泉は日本人が教えてくれた」と言われた。大戦中、ボルネオやバリ島など南方に進出した日本軍の兵士たちは現地で温泉を見つけると喜んで入ったという。ただですら暑い東南アジアでは温泉に入るという習慣はなかった。地元の人々から見ると「なんで日本人はこんな臭いお湯に入るんだろう」と不思議に思えた。だが、日本軍が去ったあとに試しに入ってみると「気持ちがいい」ことがわかった。
「かつて、私は戦争や歴史に詳しくなかったので、最初はふーんという感じだったのですが、戦地だった地域の温泉に行くと必ずこんなふうに日本人のエピソードに出くわす。これは無視できないなと思うようになっていきました。」
 そうしたなかで2005年に訪れたのがパプアニューギニアのラバウルだった。ここは日本軍が「花吹山」と名付けた活火山(タブルブル山)の地熱で湾の海水が温泉になっている。大戦中は多くの将兵がこの温泉を楽しんだ。そこで耳にしたのがジャングルの奥にあるという「宇奈月温泉」の存在だった。
「宇奈月温泉といえば富山の温泉です。それがなぜラバウルにあるのか。」
 日本に帰った山崎氏は解散した戦友会の名簿を辿って通称「温泉遊撃隊」と呼ばれた部隊の元隊長に出会った。戦争中、「宇奈月温泉」に入ったという元隊長から話を聞いたあと、ラバウルを再訪問。テレビクルーとチームを結成し、ジャングルの中の「宇奈月温泉」を訪ねた。現地の人々に歓待されて入った温泉は、どこか宇奈月温泉の源泉である黒薙温泉に似ていた。日本人は外国に行くと故郷を思ってか、そこに日本の地名をつけることが多い。名付け親がこの温泉を目にして何を思ったか、想像するのは難しくなかった。

自分だけの「かかりつけ湯」を持とう

 セミナー後半では、中伊豆の温泉旅館『船原館』の館主である鈴木基文氏と『井上靖文学館』館長の松本亮三氏をゲストに、「かかりつけ湯」を紹介。伊豆の旅館約50軒が加盟している「かかりつけ湯」とは何なのか、その取り組みを説明していただいた。
「伊豆の温泉は一時は宴会目的の団体客で潤いましたが、そうではなく温泉本来の体にいいという原点に立ち返ろうということで始まったのが『かかりつけ湯』です。(鈴木氏)」
 良質な温泉を基本に癒しと健康増進を提供する。それが「かかりつけ湯」の概念だ。
「加盟している旅館にはカロリー控え目の料理や健康増進プログラム、運動、文学散歩の案内など、それぞれに特徴があります。お風呂の泉質も場所によって違う。自分に合った温泉を見つけて通うといいです。(松本氏)」
 『船原館』ではリラクゼーションのひとつとして「天城流湯治法」やアクアセラピーの「ワッツ(WATSU)」を導入、一般客にはもちろん、脳梗塞などでリハビリ中の人にも好評だという。おすすめは「2泊以上の湯治」。それも「混み合わない平日がいい」という。
「大事なのはマイ温泉と呼べるような『かかりつけ湯』をさがすこと」と山崎氏。「かかりつけ湯」をいくつか持っていれば、「そのときの自分の心理状態や体調に合わせて最適な湯に浸かることができる」
 山崎氏の夢は2つ。「世界中の温泉に入ること」と「この仕事をつづけること」だ。
「日本人にとって温泉というのは幸せになれる場所です。だから私もみなさんに幸せになっていただける仕事がしていきたいですね。」
温泉での一期一会の出会い。そんな出会いを求めて山崎氏の世界温泉巡りは続いていくのだろう。

講師紹介

山崎 まゆみ(やまざき まゆみ)
山崎 まゆみ(やまざき まゆみ)
温泉エッセイスト
新潟県長岡市生まれ。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)、にいがた観光特使、越後長岡応援団武雄温泉大使、日本旅行作家協会会員、新潟県観光地満足度調査検討委員。日本だけでなくこれまで世界29カ国の温泉を訪問し、「温泉での幸せな一期一会」をテーマにテレビやラジオ、雑誌、新聞などでレポートをしている。近著に『おひとり温泉の愉しみ』(光文社新書)、『恋に効くパワースポット温泉』(文藝春秋)、『ようこそ!! 幸せの混浴温泉へ』(東京書籍)などがある。
公式サイト: 「山崎まゆみのいい湯だな」