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イベントレポート

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2013年7月2日(火)19:00~21:00

遠藤 秀一(えんどう しゅういち) / ツバル環境親善大使

海抜1メートルの島国
ツバルからのメッセージ

南半球の赤道近く、南太平洋上にある小さな島々が連なってできた国ツバル。このツバルは近い将来、海中に沈んでしまうと言われている。その理由は「海抜1メートル」。いま進行している地球温暖化による海面上昇が、ツバルの自然、伝統、文化、そこに寄り添うように暮らしてきたツバルの人々の生活スタイルを崩壊させようとしている。ツバルを10年間見てきた遠藤氏の写真を見ながら、この裏側にあるエネルギー問題とツバルから学ぶ持続可能な社会について考える2時間となりました。

ツバルを知ることは未来を見ること

 南太平洋に浮かぶ島国ツバル。地球温暖化による海面上昇で著しい被害を受けているため、数年前まではトピックになることが多かったこの国だが、日本では震災以降、原発事故のニュースに隠れてほとんど取り上げられることがなくなってしまった。しかし、この間にも地球上には二酸化炭素が排出され、温暖化を含む気候変動と環境の変化は着々と進行している。講師の遠藤秀一氏は「その最前線にいるのがツバルです」と訴える。遠藤氏は写真家。1998年以来、ネットビジネスやNPO法人『Tuvalu Overview』の活動を通じてツバルの支援に取り組んできた同国公認の「環境親善大使」だ。現在は「ツバルに生きる1万人の人類」プロジェクトを推進中。ツバルに住むすべての人々にインタビューを試みるといった活動をつづけている。
 9つに分かれた環礁と島からなるツバルは国全体の平均海抜が2メートル。面積は全部の島を合わせても伊豆七島の新島程度。最近は海岸侵食が進み、海面上昇がこのままつづけば水没しかねない危機に見舞われている。
「ツバルを知ることは私たち自身の未来を見ることになります。今日はツバルの紹介を通して、自分たちにどういうことができるのかを考える時間としたいと思います。」

自然と共生し自給自足の生活をつづけてきたツバルの人々

 前半はツバルの自然や文化、人々の暮らしを紹介。後半は気候変動によって何がツバルに起きているのか、それを見ることとした。
 ツバルはフィジーから飛行機で約2時間15分。1978年に8つの部族が一緒になって独立を果たした若い国だ。人口は全島合わせても1万人。そのうちの約半数が首都のフナフチに住んでいる。公用語はツバル語と英語。独立前はイギリスの統治下にあったため、国民のほとんどはキリスト教徒だ。独立以来、首都は消費経済が進んでいるが、首都以外に住む人々の生活は自給自足が基本。とれる食材は魚にタロイモ、プラカイモ、ブレッドフルーツ(パンの実)、ココナッツ、パパイア、バナナなど。その他、食用に豚を飼育したりもしている。人々がここに暮らし始めたのは800年~2,000年前。ツバル人の先祖はサモアからカヌーに乗ってやって来たといわれている。人々は先祖代々自給自足の生活をつづけ、それが現在でも受け継がれているのだ。
 遠藤氏の解説を聞きながら、ツバルの島々をモニターで見てゆく。珊瑚でできた島々はどれも本当に美しい。海は非常に澄んでおり、海中には世界でも珍しいエダサンゴの大群生が見られる。陸上の森は貴重な植物の宝庫。面積が狭く淡水も雨水に頼らねばならないので人間が暮らすにはけっして恵まれているとはいえない環境だが、ツバルの人々は自然と共生し長い間穏やかに暮らしてきた。
 モニターには波のないラグーン(内海)に胸まで浸かって魚を食べている男性の写真。「世界でもツバル人だけ」という食事風景だ。 「とった魚を家で洗うと真水がもったいない。だからこうして海水で洗ってかじるんです。」
 食べるときはココナッツも一緒。ココナッツの油分が魚の臭みをとってくれる上、海水の塩分がほどよくしみて「おいしい」のだという。男性の職業は公務員。海水がシャワーの代わりにもなるし、こうして朝食をとってさっぱりしたところで出勤する。
 盛り上がることが大好きなツバルの人々はよく集まって大宴会を開く。そこでは何年もかけて育てた芋や豚肉がふるまわれる。歌や踊りなどの芸能も盛んだ。わずか1万人という人口のため、国民はひとつのファミリー。軋轢もあるが人々は助け合って生きている。フィジーからの飛行機は週に2便。その他の使われない時間、空港の滑走路はサッカーやバレーボールを楽しむ遊び場となる。これだけを見ると、楽園としか言いようのない国だ。

気候変動による種々の問題が顕在化

 だが、気候変動へと目を向ければ、その影響で人々の暮らしが変わりつつあることがわかる。海面上昇の最大の理由は地球温暖化による海面の熱膨張。
「一般には極地の氷がとけて海面上昇が起きると思われていますが、実は海面上昇の要因の60パーセントは海水温が上がったことによる熱膨張なんです。」
 熱膨張に満潮が重なると海水面はますます上昇する。そこに台風などの低気圧が加われば海は波立ち、海岸をどんどん侵食していく。とりわけ毎年1~3月頃にやってくる「キング・タイド(大潮)」は思わぬ場所に被害をもたらす。海面が上昇して冠水するのは波打ち際だけではない。満潮になると地下水脈に強い圧力がかかり、海水が地面から湧き出て水たまりをつくる。気がつけば辺りは水浸し。こうなると先祖代々育ててきたタロイモやプラカイモなどの農作物にも被害が出る。かつては飲み水をまかなってくれた井戸もいまでは塩分が強くなり、使えてもせいぜい洗濯くらいになってしまった。こうしたことが目に見える形で起き始めたのは1990年代。しかし、辿っていくと変化はもっと以前、人類が石炭や石油を燃料として使いはじめた産業革命の頃から起きていたのではないかと考えられる。
「地球の気温が上がったことで起きたのは海面上昇だけではありません。気候の変動による種々の問題がツバルでは顕在化しています。」
 2011年、ツバルは大干ばつに襲われ非常事態宣言が出された。作物がとれないことは人々にとっては死活問題だ。そうなるとどうしても缶詰や加工品などの輸入食材に頼らざるを得なくなる。そこで生まれるのはゴミの山。ゴミ処理施設を持たないツバルでは不燃性のゴミはたまる一方だ。もはやツバルが直面している問題は「海面上昇」だけという単純なものではない。温室効果ガスがもたらすさまざまな悪影響。人口1万人の国家がその諸々を受けているのである。
 やるべきは、やはり世界全体で二酸化炭素の排出を減らすこと。最近の日本では節電やエコカーへの乗り換え、火力発電の天然ガスへの切り換えなどを進めていることで石油への依存度が低くなってきている。この動きをさらに加速化させることが大事だ。
 ツバルの人々の「自給自足」を実践しようと、3年前から鹿児島で自然農の暮らしを始めた遠藤氏。夢は「笑って死ぬこと」だという。
「そのためにはいつでも満足して死ねるような生き方を自分に課さなければならないですね。」
 ツバルに尽くす。それはおそらく「笑って死ねる生き方」になってくれるはずだ。

講師紹介

遠藤 秀一(えんどう しゅういち)
遠藤 秀一(えんどう しゅういち)
ツバル環境親善大使
写真家・ツバル環境名誉大使・NPO/NGO Tuvalu Overview 代表理事。1966年福島県生まれ。大阪芸術大学芸術学部建築学科卒業。南の島々、特にツバル国を中心に写真を撮影し、新聞、雑誌、教科書などに提供。同国を紹介するテレビ番組の制作にも携わるほか、写真展、講演会などさまざまなメディアを通してツバルの文化や生活、そして同国が直面している地球温暖化による海面上昇の被害を紹介する活動を続けている。2005年4月に同国にてNGO Tuvalu Overviewを開設。2006年1月には東京都より特定非営利活動法人認定を受け、両団体の代表を務める。同年、その活動がTBSの番組「夢の扉」で紹介され、2010年にはツバル国政府より環境親善大使に任命される。共著・写真集に「笑顔の国、ツバルで考えたこと-ほんとうの危機と幸せとは」(英治出版)、「ツバル」(国土社)がある。