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イベントレポート

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2013年7月11日(木)19:00~21:00

中竹 竜二(なかたけ りゅうじ) / 日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター

自分と他人のやる気をマネジメントする

ヒトの気持ちはちょっとした言葉のかけ方で動く。当然、個々の性格の違いや、置かれた状況によって言葉のかけ方は変わってくるが、誰にでも共通した「やる気スイッチ」も存在する。そもそもヒトの感情はどのように反応するのかを論理的に理解できれば、他人だけでなく自分自身とのコミュニケーションも、よりスムーズになるだろう。果たして「褒める」「叱る」「認める」など、やる気は何に影響を受けるのだろうか。数々の選手の「やる気」を引き出してきた中竹竜二氏に「やる気」を引き出すコミュニケーションのポイントをお話しいただいた。

専門能力がなくてもリーダーはできる

 2019年に日本で開催されるラグビーワールドカップに備え、日本ラグビー協会のコーチングディレクターとして指導者の育成や指導体制の構築に努めている中竹竜二氏。そのセミナーは「結論」からスタートした。
「他人や自分のやる気をマネジメントするのは非常に難しい。今日の結論はこれです。」
 では、どうすればいいのか。
「まずはやる気とは何なのか、その原点とは何かを考えた方がいいと思います。」
 早稲田大学在学中はラグビー部キャプテン。その後、同部監督を経て日本ラグビー協会U20代表監督、そして現在の日本ラグビー協会における現職と、略歴からはいかにも「リーダー」的な中竹氏。しかし、「本当の姿」を紹介をすると、大学では3年生まで補欠で、監督になる前はコーチの経験もなく、普通のサラリーマンだった。大学で補欠なのだから、当然代表経験も皆無、それにコ−チングディレクターはワールドカップを前にはじめてできた役職。もちろん指導者の経験などなかった。自身の言葉で言うなら「実績も能力もないのにトップになってきた」のが中竹氏だ。
「これが本来の僕の姿。ラグビー部の主将になったときはラグビー専門誌に〈中竹って誰?〉と書かれたくらいでした。監督になったときも、誰からも期待されていなかったんです。当時の早稲田は清宮克幸監督(現・ヤマハ発動機ジュビロ監督)が率いていた日本一のチーム。名監督のあとにド素人が監督になってしまったんですよ。」
 普通なら考えられないことだが、実は専門能力がなくてもリーダーはできる。
「現場の知識とマネジメントは別物。僕はそういう考えでやってきました。」

人のやる気は「言葉」に影響される

 人のモチベーションを上げるには「理論」と「実践」を繰り返すこと。ここで参加者に質問。誰かにやる気を起こしてほしいときは「叱る」「褒める」「無視する」のどれがいいか。答えはもちろん「褒める」だ。これは「理論」。ただし、これをもう少し掘り下げて「どうしてもらったらやる気が出るか」を自分に当てはめて考えてみると、人によって答は変わってくる。「赤いじゅうたんが用意されていて拍手喝采」されるとやる気が出る人もいれば、ノーマークで「誰からも相手にされていない」状態がいい人、あるいは「お前には無理だね」と言われた方が燃える人。こんなふうに「現場は必ずしも理論と一致しない」ものだ。なぜかというと「声のかけられ方やその場の状況で人の気持ちは変わる」からだ。
「単純な話、人は言葉で影響されます。言葉は大切にしてください。」
 例えば、子どもには「よくできたね」ではなく「よくがんばったね」と言ってあげる。何かを手伝ってくれたときは「いい子ね」よりも「うれしいよ」。絵を描いているのなら「上手ね」ではなく「何を描いたの?」。結果や能力ばかり評価していると、子どもはできないことには挑戦しなくなる。代わりにがんばった過程をほめてあげれば、意欲もあがるし未経験のものにも挑戦するようになる。これは大人も同じだ。同じ声をかけられるにしても、「がんばってね」と「がんばってるね」では、人は後者の言葉をかけられた方がやる気になる。前者は未来を指す言葉。そこにはもしかしたら「これまではがんばっていなかった」という意味が含まれているかもしれない。これに対し後者は「現在完了」であり「承認」だ。「がんばって」と「ね」の間に「る」が1つ入るだけで、「がんばってるその人」の存在を認めてあげることになる。やはり言葉は大事だ。
「じゃあ言葉だけかというと、それだけではない。そもそもやる気をあげる前に、下げない努力が必要なんです。」
 よくアンケートなどの対象になる「改めてほしい先輩の言動」。「あいさつをしたらきちんと返してほしい」、「機嫌が悪いと口調が荒くなるのはやめて」など、なにげない一言や態度が人のやる気を下げることはよくある。これらの多くは実は無意識に発生しているもの。意識すれば改善できることだ。

「目の前にいる部下は必ず成長する」

 セミナー後半は中竹氏自身の早稲田での監督時代の経験。選手とスタッフ合わせて150人の「やる気」をどうマネジメントしてきたかをお話ししていただいた。
「実績のない自分が組織としての成果を挙げる。考えてみると手段は2つしかない。すごいシンプルだということに気がつきました」
 2つのうちの1つ、手段Aは「チームとしての統一性や連携を生み出す戦略的マネジメント」。もう1つの手段Bは「個を伸ばす(人材育成)」だった。天才的な指導者ならこの2つを「同時にやれる」。が、凡人の場合はこれを「分けなければならない」。早稲田のラグビー部の場合、手段Aは週一回の「選手選考」。手段Bは年に2回の個人面談。中竹氏はこの2つで選手のやる気とを引き出していった。むろん、「日本一オーラのない監督」だから風当たりは厳しい。不満も反発もあったし、失敗も成功もあった。4年間の在任中のとりわけ1年目はそうだった。その中で中竹氏は選考については「優勝するのに必要な人」を優先し、その基準を「スキル」ではなく状況に影響されにくい「スタイル」に置いた。選手には「自分で考える」ことを奨励した。面談の際は「上から目線」ではなく「信頼できるパートナー」であろうと心がけた。あるときはなかなか上にあがれない選手から「死ね、やめろ」と暴言を吐かれたこともあった。だが話を聞けば、それは「なんで僕のことを見てくれないんですか」というメッセージだったということがわかった。監督として無理もしなかった。怒ることは自分に似合わない。それを知っていたから選手たちが気の抜けた試合をしても怒らずに、逆に「気合いを入れてやれなくてごめん」と謝った。すると選手たちは「監督にあんなことを言わせてはいけない」と奮起するようになった。結果は、大学選手権2連覇。選手が「やる気」になって「自分で考えて」くれたおかげだった。
 リーダーは「目の前にいる部下は必ず成長する、と思うこと」。これが中竹氏の信念だ。
 「夢」は「ワールドカップの成功」。
「それと、ラグビーだけでなく、これからは違う業界でも同じようなことに挑戦してみたいですね。これが僕の夢です。」
会場からは2019年のラグビーワールドカップの成功を願う参加者からの盛大な拍手で幕を閉じた。

講師紹介

中竹 竜二(なかたけ りゅうじ)
中竹 竜二(なかたけ りゅうじ)
日本ラグビーフットボール協会 コーチングディレクター
1973年 福岡県生まれ。早稲田大学人間科学卒業後、単身渡英。レスタ―大学大学院社会学部修了。三菱総合研究所でコンサルティングに従事した後、早稲田大学ラグビー蹴球部監督、ラグビーU20日本代表監督を務め、「監督の指示に従うのでは無く、自ら考え判断できる選手を育くむ」という自律支援型の指導法で『日本一オ―ラのない監督』として多くの実績を残す。現在は、日本ラグビー協会、初代コーチングディレクターとして、指導者の育成、一貫指導体制構築に尽力している一方、ラグビー界の枠を超え、民間企業、地方公共団体、教育機関、経営者団体を始め各方面から、分かりやすく結果を出す講師として講演会・研修・セミナーなどへの出演依頼多数。日本における「フォロワーシップ論」の提唱者のひとりとして、次世代リーダーの育成・教育や組織力強化に貢献し、企業コンサルタントとしても活躍している。