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イベントレポート

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2013年8月1日(木)19:00~21:00

森 雅史(もり まさふみ) / 日本蹴球合同会社代表
フットボールジャーナリスト

今だから振り返ろう!
ザッケローニ・ジャパンの歩み

2014年FIFAワールドカップアジア予選、サッカー日本代表は3次予選を3勝1分2敗で突破。最終予選は5勝2分1敗、得点16失点5と見事にB組1位となり、ブラジル行きを決めた。その足跡を今ここで振り返る。各試合の状況とメンバー起用を考察してみると、そこに見えてくるのはアルベルト・ザッケローニ監督の信念と苦悩だった。今回の講師を務めるのは、ナンバー「1」記者の森雅史氏。実際の雰囲気や裏話を踏まえつつ、日本代表の足跡を辿った。

「負け」が少ないザッケローニ・ジャパン

 4日前に決勝が行なわれた東アジアカップで、優勝を飾ったサッカー日本代表チーム=ザッケローニ・ジャパン。6月に行なわれたコンフェデレーションズカップでは3連敗という残念な結果だっただけに、「東アジアカップで勝って、明るい雰囲気の中でこのセミナーができるのは喜ばしい」と冒頭に語った森雅史氏。来年のW杯ブラジル大会出場がすでに決まっている今、サッカーファンの関心は、最終的に誰が代表選手に選ばれるのか、日本代表はどこまで勝ち進むことができるのか、といった点に絞られてきている。本日のセミナーは、フットボールジャーナリストとして長らく日本サッカーを取材してきた森氏に、2010年の監督就任から現在に至るまでのザッケローニ・ジャパンの足跡を語っていただくとともに、そうしたサッカーファンの関心に応えようと開催したもの。一般のファンではなかなか知り得ない情報や日本代表の現状を把握するうえで非常に有意義な2時間となった。
 まずはアルベルト・ザッケローニ監督その人の来歴。イタリア人である監督は1953年4月1日生まれの60歳。現役時代のポジションはサイドバック。怪我のため選手生命が短かったこともあり早くから指導者として活躍、30歳のときには初采配を振っている。その後はミラン、ラツィオ、インテル、トリノ、ユヴェントスなどイタリア国内で13チームを率い、ミラン監督時の1998−99シーズンには優勝を遂げている。2010年には日本代表の監督に就任。多くの人がそう感じているように、森氏の目から見ても「たいへんな親日家」で、現在は全身全霊で代表監督の仕事に取り組んでいる。
 ザッケローニ・ジャパンにはどういう傾向があるか。試しに「期ごとの成績を分けてみた」という森氏だが、「実は何も意味がなかった」と笑う。
「あまり負けていないから、どの期でも成績を出しているんです。」

網を広げて「呼んでは試す」。ザッケローニ監督の選手選考

 実際、2010年からのザッケローニ・ジャパンの戦績を見てみると、あらためて黒星が少ないことに驚く。監督就任後の初戦となるアルゼンチン戦での勝利を皮切りに、16試合、1年以上負けなしという成績。その後も勝利を積み重ね、アジアチャンピオンとしての名声を確立。ワールドカップ予選突破も果たした。最近では海外の評価も高まり、中東などでは「アジアのバルセロナ」と呼ばれることも多くなった。これは記者としても「非常に誇らしい」ことだという。
 ザッケローニ・ジャパンの特徴は「わかりやすさ」。森氏はこれまでの足跡を数試合ごとの「期」に分けて見ている。すると、ある「期」では新しく召集した選手を毎試合積極的に起用し、別のある「期」では絞り込んだメンバーで戦っていることが浮き彫りとなってくる。網を広げて「呼んでは試し」を繰り返すのがザッケローニ監督のやり方。代表経験の少ない選手を集めた今年の東アジアカップなどは、一般の人間の目にも「網を広げた」ことがよくわかるメンバー構成だった。
 ここでセミナー開催にあたって寄せられた質問に森氏が回答。1問目は「岡崎慎司はどうしてブンデスリーガだとゴールが少ないのに日本代表だと点が取れるのですか?」。これは「現在の日本代表の攻撃が左まわりになっている」のが最大の理由だ。例えば遠藤選手が前に出したボールを、後ろから上がってきた長友選手や香川選手が受け取る。そしてコンビネーションで相手を崩してフィニッシュは逆サイドから。その逆サイドに飛び込んで来るのが岡崎選手。このパターンだと得点を挙げるのに「いちばんおいしいのが岡崎選手」のポジションとなる。もちろん、それができるのは岡崎選手が飛び込んでいくタイプの選手だから。そして現在のザッケローニ・ジャパンに課題があるとすれば、この飛び出していくタイプの選手が他に見当たらないことだ。質問の2問目は「本田圭祐と香川真司の共存はうまくいっているのでしょうか?」。答えは2選手の得点データを見ればわかる。2人が一緒に戦った試合は19試合。その中で互いに挙げた得点は合計19点。この結果からも「相性は悪くない」と思っていい。

チームとしての完成度は高い。ワールドカップでは120パーセントの力を!

 3問目は誰もが気になる「誰が最終的に選考されそうなのでしょう?」。この問いには資料として用意されたこれまでの試合や合宿で呼ばれた選手の一覧を配布。そこにはゴールキーパーの川島選手のようにすっかりお馴染みとなっている選手の名もあれば、1回呼ばれたきりで終わっている選手もいる。
「今のところ、内田、吉田、今野、長友、長谷部、遠藤、岡崎、本田、香川は間違いない。みなさんもそう思われていることでしょう。」
 他にもまだまだ才能のある選手はいるが、メンバーはほぼ固まっている。これは逆に言えばそれだけチームとして完成度が高まっているということを意味する。あとは怪我や調子次第でどれだけ変動があるかだ。
 質問の4つ目は「アジアカップでは選手たちはどうやってまとまったのでしょうか?」。森氏の印象は「まとまってはいなかった」。さらに言えば、「まさか結果を出すとは思わなかった」。それでも優勝できたのは、戦術を理解する能力や状況判断力を個々が同じレベルで共有していたからだ。チームとしてまとまる時間はなかったがコミュニケーションはとれていた。それが優勝につながった。
 セミナー後半は質疑応答。講師と参加者が質問を介してディスカッションする時間となった。懸案である「岡崎選手のバックアッパー」について、「海外組と国内組の違い」、「代表選手の選考は誰が決めるのか?(=スタッフや強化委員長と相談もするが最終的には監督に全権がある)」、「練習ではともかく実戦ではなかなかうまくいかない3−4−3」に関して、「ザッケローニ監督の人となり」、「コンフェデレーションズカップで負けたような強豪国との戦い方は?(=ワールドカップでは互いに様子を窺いあうため勝機はあるが、日本代表は120パーセントの力を出すほかない)」、それに「サッカー界」全体の話や「サッカージャーナリズム」、最近目につく「小中高生のサッカーの汚さ」など、参加者からは次々に質問が投げかけられた。
 セミナーの最後は森氏の「夢」。
「ワールドカップで日本が優勝するところを現地で見ることです。」
 森氏の「夢」は日本人みんなの「夢」だ。

講師紹介

森 雅史(もり まさふみ)
森 雅史(もり まさふみ)
日本蹴球合同会社代表
フットボールジャーナリスト
佐賀県生まれ。週刊サッカー専門誌を皮切りにその後数多くの媒体に関わり編集長などを務める。2011年に朝鮮民主主義人民共和国戦を現地で取材した、ただ一人のフリージャーナリスト。ワールドカップは1990年から現地へ赴いている。試合当日はいてもたってもいられず、早くスタジアムに向かうため、いつもADカードは「1」番。そうやって仕入れた細かいネタを織り込んだ、お笑いトークが持ち味。日本代表組が国内で活躍していたときのスーパープレーをDVDに収めた「Jリーグスーパーゴールズ」をプロデュース。