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イベントレポート

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2013年8月6日(火)19:00~21:00

孫 大輔(そん だいすけ) / 東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター講師
みんくるプロデュース代表

地域の健康問題を解決するカフェ型コミュニケーション

地域のカフェに住民と医療専門職が集い、健康・医療の問題に関して対話を行う「みんくるカフェ」という活動をご存知でしょうか。この活動では、単に専門家が非専門家へ教育するのではなく、健康増進・終末期ケア・介護など一義的解のないテーマについて、参加者同士が真摯に対話することで、お互いのコンテクストを深く理解し、問題解決へ向けての前進が図られています。地域特有の健康問題を解決する可能性も有した同活動を3年前から始めた孫大輔氏に活動への想い、そして「カフェ型コミュニケーション」の将来性についてお話しいただきました。

医師と地域住民がフランクに話せる「場」を

 カフェや喫茶店のようなオープンな場所で医師や看護師といった医療従事者から普段は聞けない健康に関する話を聞く。それだけでなくフラットな関係でフランクに語りあう。それがカフェ型コミュニケーションの「みんくるカフェ」だ。医師である孫大輔氏が休日などを利用してボランティアでこの活動を開始したのは3年ほど前。現在では全国規模で広がりを見せつつある活動だが、もともとは孫氏自身の「病院以外のところで患者さんは何を考えているのだろうか」という個人的な疑問から始まったものだという。
「ヒントになったのはフランスやイギリスで流行っていたサイエンスカフェやオランダ発祥のアルツハイマーカフェ。専門家と一般の人がカフェに集ってお茶を飲みながら科学技術や認知症について考える。それを日本でやってみたらおもしろいかもしれない、と思ったんです。」
 背景には「ここ10年間の医療現場における変化」がある。一時期目立ったのが、医療訴訟や医療ミスの問題。こうした問題が顕在化するにともなって、以前よりも医師は患者を見下さず大切に扱うようになった。ただし一般の患者にとって医師はまだまだフランクに話がしにくい存在。医師である孫氏自身、過去に自分が虫垂炎で受診したときにそれを感じたという。一方でインターネットの普及によって医療情報が簡単に手に入るようになったのもこの10年。ただ、ネット上の情報には不正確なものも多い。そんなこともあって「病院外で医師と患者が会える中間的な場所をつくれたら」と始めたのが「みんくるカフェ」だった。テーマは「そのときそのとき、自分の中でのホットなテーマ」が中心。傾向としては医療の中でもとくに地域の人に広めたい「予防医学」や「ヘルスプロモーション」が多いという。日本の病院はどこも糖尿病などの生活習慣病の患者で溢れ返っている。医師も看護師も目の前の患者に対応するので精一杯。超高齢化社会を迎えようとしている今、必要なのはいかに病気にならないか、病院にかからないかという健康増進への取り組みだ。それを参加者みんなで話しあう。

越境性が気づきを与えてくれる

「みんくるカフェ」のスタイルは、最初にその日のテーマの専門家であるゲストに10分ほど話をしてもらい、そのあとはテーブルごとにスタッフが1名つき、4、5人のグループに分かれてテーマについて語りあったり、模造紙に自分の考えを書き込んだりしていくもの。ある程度時間がたったところで、今度はメンバーを変えてまた話をする。議論を尽くして結論を出したり解決したりするのが目的ではなく、「意見の多様性を楽しむ」のだ。参加者にはそれを各自持ち帰ってもらい、考えたり行動につなげたりしてもらう。
「みんくるは、みんながくる、の略。カフェ型コミュニケーションのいい点は、死生観や認知症など割と重いテーマの話でもオープンな感じで話せる点です。」
 1回の参加者数は平均すると10数人。参加費は会場費や飲み物、お菓子代などを含めて500~1,500円程度。この「小規模感」がフランクに意見を交わすのにちょうどいい。一般の人は病院では遠慮して聞きにくいことを質問できるし、医師の側もまた患者の側の本音がわかる。介護関係者と医療関係者という、「つながっているように見えて、実は全然別のところでやっている」専門職同士が意見を交換する場ともなる。そこで生まれるのは「自分を相対化する学び」だ。医師の中には「みんくるカフェに参加する前と後では患者さんに対する話しかけ方が変わった」という人もいるという。病院というのは、医師同士ですら科が違うだけで言葉を交わさない職場。縦割りの組織の中に閉じ籠っていることが多い医療従事者にとって「みんくるカフェ」のような越境的な出会いが得られる場は貴重だ。

「みんくるカフェ」が秘める可能性

 最初はあくまで趣味的に、知人や友人、その知り合いを集めて始めた「みんくるカフェ」。しかし日が経つにつれソーシャルネットワークなどを通じてその存在は知れわたり、活況を呈するようになっていった。「自分たちでもやりたい」と地方から参加する人たちも現われた。孫氏もこれに応じて「みんくるファシリテーター育成講座」を開催。ここで運営の仕方を身につけた人々がそれぞれの地域で活動をはじめ、現在では全国に「野火」的な広がりを見せつつある。長野県の原村で開催された「ずくだせカフェ」には行政も参加。そこで話しあわれたことは村の健康政策にそのまま反映されている。このようにカフェ型コミュニケーションには「地域の健康問題を解決する可能性がある」。島根県の出雲市で開かれている「みんくるcaféイズモ」では「健康づくり」だけではなく同時に「町づくり=地域活性化」についても話し合われている。これもまたカフェ型コミュニケーションの可能性を感じさせる話だ。
 セミナーは「みんくるカフェ」のスタイルに準じて、講師の話だけではなく参加者の意見も、という主旨で質疑応答の時間を多めに設定。後半は延べ20人あまりの参加者からの質問に受け答えしていただいた。参加者の1人から出されたのは「よくある市民講座や健康講座との違いは?」。また他の参加者からは「どのようなモチベーションでやっているのか」、「結論は出さないというが健康に対する疑問に対しては正解に近いものがあってもいい」、「認知症がテーマの会はやっているのか」、「この活動に企業を巻き込んでいくのはどうか」、「医師は予防医学をどう考えているのか」といった質問や意見が寄せられた。
 市民講座と違うのはやはり双方向の対話型であること。モチベーションはあくまでも内的な動機づけから。いろいろな人と出会える「みんくるカフェ」は単純にやっていて「楽しい」ものでもある。病気の知識も学べる会や認知症がテーマの会も今後は開催を検討。企業については、いずれソリューションまで持っていくようなワークショップを開催したときに協力してもらう機会があるかもしれない。そして予防医学に関しては、「医師も看護師も、予防は大事と全員が考えている」。
 孫氏の夢は「地域の住民とお友達のような関係で新しい市民参加型の医療を作り、健康になっていく」こと。
「希望的観測ですが、全国の『みんくるカフェ』がスターバックスの店舗数くらいまで増えたらおもしろいと思っています。」
医療従事者と患者のフラットな関係で話し合える「みんくるカフェ」。
d-laboも銀行員とお客さまという関係ではなく、フラットなコミュニケーションを図り、次世代の銀行の在り方を模索し続けていきたい。

講師紹介

孫 大輔(そん だいすけ)
孫 大輔(そん だいすけ)
東京大学大学院医学系研究科医学教育国際研究センター講師
みんくるプロデュース代表
2000年東京大学医学部卒業。医師(家庭医)。腎臓内科医から、医療福祉生協連家庭医療学開発センター(CFMD)を経て現職。臨床研究および医学教育に携わりながら、家庭医としての勤務も続けている。2010年8月より市民・患者と医療従事者がフラットに対話できる場「みんくるカフェ」を毎月主催している。