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イベントレポート

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2013年9月10日(火)19:00~21:00 

中村 周平(なかむら しゅうへい) / ダイビングインストラクター

世界の海につながる駿河湾

最深部の水深は2,500メートルにもなり、カラフルな魚や大きな回遊魚だけでなく深海生物も見ることができる駿河湾は、ダイバーにとって最高のフィールド。今回のセミナーでは駿河湾で見られる魚や素晴らしい海中景観を案内し続けている駿河湾の達人の中村氏をお招きし、プロダイバーから見た駿河湾の魅力をお話しいただいた。

海の中にも「四季」がある

 本日の講師はダイビングインストラクター歴25年の中村周平氏。大田区蒲田でダイビングショップを経営する中村氏はダイバー認定機関SSIのインストラクター試験官であり、インストラクターの教育や震災被災地での海中残置物の引き揚げなどの復興支援に取り組んでいる。 7年前には西伊豆の田子にダイバー専用宿泊施設をオープン。今回のセミナーではダイバーとしての視点で、東京近郊に暮らす人々にも馴染みがある伊豆半島の海の魅力についてたっぷりと語っていただいた。
 東京からだと2、3時間、百数十キロの距離にある伊豆半島はダイバーにとっても身近なダイビングスポットだ。ダビングスポットは、東伊豆、南伊豆、西伊豆などを合わせると約20か所。ダイバーは季節やその日ごとの「風や波など海の機嫌」によって潜るスポットを選ぶ。そしてその海の中にも地上と同じく四季がある。中村氏によれば、「春の海はさびしげな海。夏の海はエネルギッシュな海。秋は成熟した海。冬は全力を尽くしたあとの海」だという。
「水温が低い春の海は魚が少ない。けれど海草が育ちはじめると魚たちはそこに卵を産みつけます。ここで生まれた魚たちが夏になると大きくなります。」
 その大きくなった魚を狙って、さらに大きな魚がやってくる。こうして海の中が賑やかになる。そして秋になると「成熟」を迎える。
「ダイビングというと夏のイメージかもしれませんが、実際は秋のスポーツなんです。」
 秋になると、伊豆の海には台風や黒潮に乗って南方系のカラフルな魚たちがやって来る。これらは水温が低くなると死んでしまう「死滅回遊魚」だ。ほんの短い期間ではあるが、秋の伊豆ではこうした本来いないはずの魚たちまでも見ることができる。
「冬は水温が下がって魚が減る。そのかわり、透明度がよくなります。水の澄み具合は沖縄と競えるほどです。」

世界でもめずらしい神子元島の海

 伊豆半島はもともとはフィリピン海プレートに乗った火山島だった。それが約60万年前、日本列島にぶつかって半島となった。そのときできたのが駿河湾だ。伊豆半島の西側に位置するこの湾の特徴はその深さにある。最深部で約2,500メートルという水深は日本一。このため、駿河湾にはさまざまな魚が入ってくる。その数およそ1,000種。深海魚もいれば、マッコウクジラやイルカの大群もやって来る。この魚種の多さは、もちろんダイバーにとっても大きな魅力だ。
 なかでも中村氏が「みなさんにお伝えしたい」と強調するのが南伊豆に浮かぶ神子元島(みこもとしま)の海だ。石廊崎沖9キロにあるこの無人島は世界レベルの魚影の濃さを誇っている。
「いちばんの名物はハンマーヘッドシャーク(シュモクザメ)の大群。毎年、夏から秋にかけて200匹から300匹の群れが神子元島にやってきます。」
 体長2メートルあまりのハンマーヘッドシャークの大群が泳ぐ様は壮観の一言。「ハンマーヘッド」の名のとおり、頭がハンマー型になっているこのサメはどこか宇宙人を思わせるユニークな姿をしている。それが悠々と、青い海の中を何百匹も移動していく。これを見られるのはダイバーの特権だ。このハンマーヘッドシャークが集まるにはもちろん理由がある。それはエサが豊富なこと。神子元島では彼らのエサとなるワラサ(ブリの子ども)や、カンパチなどの回遊魚、タカベやイサキなどの大群に出会える。春には外洋性のマンボウもやって来る。タイもいるしメジナもいる。イシダイやテングダイなど岩礁に暮らす魚も多い。海亀やエイもいる。ときには世界最大の魚類であるジンベイザメも姿を見せる。ここではそれらを写真と映像で紹介。東京からわずか百数十キロの場所にこんな世界があるとは……。見ていてため息しか出てこない。
 興味深いのは神子元島に来るハンマーヘッドシャークはほぼすべてがメスであること。実はこのサメにはメスだけで子どもを産む「単性生殖」という能力がある。その事実が究明されたのはつい数年前のこと。外貌だけでなく、中身も不思議なサメなのである。

海、温泉、味覚……尽きない伊豆半島の魅力

 後半のトピックは「ダイバーなら一度は会いたいクジラ」について。中村氏がはじめて海の中でクジラに出会ったのは19歳のとき。アメリカ西海岸のチャネルアイランドでダイビング中、突然背後から全長13メートルほどのザトウクジラが現われた。間近で見た印象は「恐竜」。これでクジラに魅了された中村氏は、この地球最大の生物について知識を深めていく。とくに関心を抱いたのが「クジラの恋愛スタイル」。人間に近い社会性を持つというクジラやイルカには恋愛にルールがある。それを表すのが「ハーレムマスター」という行動だ。繁殖期、求愛してくるオスに対し、メスは「他のオスと戦ってください」と要求する。少しでも強い遺伝子がほしいメスはこうして戦いから勝ち残ったオスの子を産む。勝者となるオスは1頭だけ。そのオスが近くにいるすべてのメスと結ばれる。敗者となったオスたちは、メスの子育てが終わるまでは「エスコート」と呼ばれる護衛となり、次の繁殖期までメスとその子どもとともに行動する。そしてまたメスの要求に従って他のオスと戦う。こうして聞いていると、クジラのオスは厳しい人生を送っていることがわかる。「男性としては辛い話」と中村氏は笑う。
 東京から手軽に行ける伊豆半島。あらためて見るとその魅力は尽きない。温泉は豊富にあるし、タカアシガニやメヒカリなど、駿河湾ならではの味覚も楽しめる。西伊豆の夕日は地元の人に言わせれば「ハワイにも負けない」ほどの美しさだ。日本人が海外に自由に渡航できなかった50年ほど前までは、伊豆は箱根とならんで新婚旅行のメッカでもあった。
 中村氏がとくに気に入っているのは伊豆ならではの「伊豆時間」だ。
「空を見あげたり夕日を愛でたり、星を眺めたりするのは贅沢な時間。伊豆には独特の伊豆時間が流れているんです。」
 その伊豆半島の魅力をさらに深めてくれるのが海の中だ。スキューバダイビングは誰もが楽しめるスポーツ。中村氏の仕事は「ダイビングという冒険」を通してより多くの人にその素晴らしさを伝えていくことだ。
「大事なのは自分が誰かのために役立てるかどうか。自分と出会ったすべての人たちがハッピーになれる、そんな自分をつくることが夢です。」
伊豆半島の魅力満載の2時間が終わり、参加者がハッピーな笑顔で帰る姿が印象的なセミナーとなった。

講師紹介

中村 周平(なかむら しゅうへい)
中村 周平(なかむら しゅうへい)
ダイビングインストラクター
1968年東京都生まれ。12歳から始めたダイビングは主に伊豆半島が中心で、東の相模湾と西の駿河湾に潜った回数は7,000本以上になる。1992年に東京都大田区にダイビングスクールJDAを設立し、2005年には西伊豆に専用クラブハウスを設置。同店は2012年社団法人レジャースポーツダイビング産業協会の優良事業所に認定される。国際的なライセンス認定機関SSI の日本に5名だけのインストラクター試験官としても活躍中。