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イベントレポート

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2013年10月3日(木)19:00~ 21:00

楠瀬 誠志郎(くすのせ せいしろう),塚田 有一(つかだ ゆういち) /

響会
季節と音を巡る旅「白」

日本の遺したい音を保存し、楽しみ方を皆さんにお伝えしている音遺産プロジェクト。その音遺産プロジェクトが主宰する「響会」という音を五感で楽しんでいただくイベントをd-laboで2回連続でお送りする第二回目。今回のテーマは24節気で白露、秋分、寒露の時期のイメージで「白」。「音色(ねいろ)」という言葉から発想した新しい趣向。同じ波である音と色。色に音を見、音に色を感じ...。春は青、夏は朱、秋は白、冬は玄(黒)...。このように五行説では各方位、四季それぞれに色が割り当てられている。今回は楠瀬誠志郎氏が選んだ「白」や「秋」をイメージさせる音色を2つ聴き比べ、塚田有一氏が「白」や旧暦重陽の節句に因んだ花を生けていただいた。

地から天へ、「縦」につくられている日本の「音」

 d-laboにおける第2回目の『響会』。今回も前回同様、楠瀬清志郎氏が選んだ音を参加者全員で鑑賞し、その音に合わせて塚田有一氏が花を生けるという形で会は進行した。「お響がき」に選ばれた音色は、この日のテーマであり、五行説での秋に割り当てられた色である「白」からイメージされた「月琴和琴」。古典雅楽で使うこの弦楽器の鳴らす音色を、まずはスピーカーを通してじっくりと「肌で感じて」みた。
 繰り返し鳴る和琴の調べ。耳にする者の感覚を低いところから高いところへと運んでくれるようなその音色は、言われずとも「体にいい正しい音」であることがわかる。
「古典雅楽は平安時代に日本で完成した世界でいちばん最初のオーケストラです。」
 いろんな楽器を集めてひとつのものをつくるのが古典雅楽。楠瀬氏は、その中でもとくに大事な「月琴和琴」を選んだ。古典雅楽の特長は「音の中に位がある」こと。「月琴和琴」の音はその中でも「白と呼ばれる上位にある音」とされていて、奏者は先祖代々その音を受け継いできたという。そして、古典雅楽に代表される日本の音は「縦」につくられている。これに対し西洋の音は「横」。ステレオのスピーカーがLとRの横配置なのは「バイオリンからコントラバスまで、フルオーケストラがちゃんと聞こえるようにつくった装置」だからだ。一方、日本では「地上から天」という考え方で上下に音楽がつくられてきた。
 もう一度、今度は「縦」を意識して「月琴和琴」の音色を聴いてみる。ひとつ知識が加わったからか、より音と向きあえている感じがする。何とも言えない、古代的な音。優雅な音のように聞こえるこの音色は、しかし西洋の弦楽器と違ってやすやすと出せるものではない。
「西洋の楽器はギターもハーブも鉄の弦を使っています。日本の雅楽の楽器は馬の尻尾や麻や絹など、動物や植物を用いています。これが普通の人では全然鳴らせないんですよ。」
 白の音色は鳴らし方を知っている家の人間でないと出せない。相当な力がないと鳴らせない。その音を日本人は千数百年に渡って大切に守ってきた。
 第1部の締めくくりは、この「月琴和琴」の音にさらに音を加えるというアプローチを試みてみた。その音色を流しながら塚田氏が花を生ける。わずかな時間のうちにできあがっていく一対の「秋の白」の花。会場に拍手が響く。

「節句」は流れゆく季節に行き会う祭り

 第2部はファシリテーターに建築家の土谷貞雄氏を加えてのフリートーク。冒頭は塚田氏に今日生けた花について説明していただいた。
 左右に2つ生けた花の題材は「山」と「海」。どちらも「依代(よりしろ)」をイメージし、「うつわ」には真っ白な和紙の紙衣(かみこ)を使った。「紙衣はけっこう丈夫な紙で、江戸時代は防寒具や雨具に使用されていました」と塚田氏。もともと白い衣や紙は日に晒したり叩いたり、一手間も二手間もかかるため、位の高い人しか身につけなかった格の高い聖なるもの。今回の生け花の「うつわ」にはぴったりだ。その紙衣を三角に折り上げるように立てて「山」とした「しろ」という作品には榊(さかき)に白いピンポンマムを配置、足もとには日陰かずらを活けた。
もうひとつの「海」は「つゆ」という作品。素材はやはり足下に日陰かずらに菊、七草で知られるおみなえし(女郎花)、メキシコ原産のチューベローズ(月下香)、ヒペリカム紅葉、ほととぎす。紙衣は「海」のイメージに沿って平面とした。「しろ」と「つゆ」は秋気を感じさせる「白露」の意。どちらの花にも(「海」に)菊を使ったのは旧暦九月九日の「重陽の節句」を意識してのことだという。
「重陽の節句は菊の節句。菊には若返りや再生の力があって、昔の人はこの日になると杯に菊の花弁を浮かべて酒を飲み、その力にあやかったといいます。」
 酒だけではない。重陽の節句では前の夜に菊の花に絹でできた被綿をかぶせるのが慣わしとなっている。一晩かぶせた綿は夜霧で湿る。人々はこれで顔を拭く。すると菊の持つ力が体に宿る。ここではその真綿を順々に参加者にさわってもらった。
 節句は流れゆく季節に行き会う祭り。「祭りによって一瞬、時をとめることで、その季節を惜しむ文化」だ。
「いつの間にかなくなってしまったけれど、復活してほしい行事ですね。」 

「白」という色の持つ力

 話はテーマである「白」へ。
「白って本当に日本の色だなと思います」と楠瀬氏。白には「空白」や「余白」などたくさんの意味がある。そして白には神様を呼ぶ力がある。穢れをぬぐい、洗い流してくれる色が白だ。
「白は何でも受けとめて支えてくれる色なのかもしれません。」
 太陽光自体はもともとは白いもの。地球上ではそれが大気の影響でさまざまな色をつくる。そして音。日本の「縦」の音にも「白」は含まれている。「パン」という柏手や拍手の音。漢字を見れば、そこには「白」がある。人がこうした音を鳴らすとき、そこには隙間が生まれる。その隙間に神様が下りてくる。いわば「リセットする」感じ。日本の「縦」の音にはそんな力があるのかもしれない。
 「響会」の最後は3人に「夢」を聞いてみた。
「僕はどこかに行きたいといったような夢ではなく、眠っているときにいつもいい夢を見たいですね。日常の中でそれを感じていたい。夢は到達するものではなく、日常をすごく質よく感じるもの。そこに夢の楽しみがあるんじゃないかと思います。」(土谷氏)
「震災後、被災した方々に花を贈る『花綵列島プロジェクト』というものを立ち上げました。いろいろな土地に出かけて行って、その地方の旬のものを摘ませてもらい、みんなで作品をつくる。そういう活動をいろいろなところでしていると、花綵列島みたいなものが具体的に見えてくるんじゃないかという気がします。それと、今日のように花を生けていると自分がまわりの人につくられているような感じがするんです。花が咲くように放つことでみなさんから返ってくるものが大事で、それによって前に進める。表現させていただけること自体が夢だと言えます。」(塚田氏)
「夢を叶えるというよりも、僕の場合はずっと夢のなかにいるような気がします。みんな夢という自分の思いを胸に生きている。夢というのは持っていると嬉しいものです。それが変わらず透き通ったまま、ずっとつづくといいなあと思っています。」(楠瀬氏)
2週連続で開催した『響会-季節と音を巡る旅』。普段の生活の中で忘れがちな「音」を五感を研ぎ澄まして聴き、味わう貴重な時間となった。

講師紹介

楠瀬 誠志郎(くすのせ せいしろう),塚田 有一(つかだ ゆういち)
楠瀬 誠志郎(くすのせ せいしろう),塚田 有一(つかだ ゆういち)

楠瀬 誠志郎(くすのせ せいしろう) 写真左
発声研究家・ミュージシャン

1986年CBSソニー(現Sony Records)より「宝島」でデビュー。TBS系ドラマ「ぽっかぽか」主題歌「しあわせまだかい」、TBS系ドラマ「ADブギ」主題歌「ほっとけないよ」が70万枚の大ヒット。これまでに13枚のオリジナルアルバム、21枚のシングルを発表。本田美奈子、沢田研二、米良美一、SMAP等、多数のアーティストに楽曲の提供もしている。2000年、ヴォイストレーニングアカデミーAcademy of INTERNALCUBeを設立。アーティストとしての活動の他、現在も表参道のBreavo-paraスタジオで「声」、「表現」の素晴らしさ、楽しさ、気持ちよさを伝え続けている。Breavo-para


塚田 有一(つかだ ゆういち) 写真右
ガーデンプランナー

1991年立教大学経営学科卒業。草月流家元アトリエ、株式会社イデーを経て、2005年に有限会社温室を設立。世田谷ものづくり学校(IID)にて「学校園」を開始。2007年株式会社limbgreenを設立。2009年には東京大学「こまみどりプロジェクト」や赤坂氷川神社「ともえ会」でのワークショップを開催。2011年世田谷ものづくり学校グリーンディレクター/花綵列島プロジェクトを始動。2012年にはOKAMURA Design Space R で企画展“Flow-er”を開催した。