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イベントレポート

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2013年10月17日(木)19:00~21:00

田中 秀臣,さっちゃん(中島 早耶) /

日本のアイドルから経済最前線を探る

最近よく耳にするキーワードの一つである「クール・ジャパン」。国民的アイドルや地域密着型など、多くのアイドルが誕生している日本のアイドルブームに世界中が注目している。だが、このアイドルブームはどこまで続くのだろうか?という疑問が浮かぶ人や、アイドルの活動は日本経済へどのような影響を与えるのかを知りたいと思う人も多いだろう。そんな疑問に、実際にアイドル経済学の著作を多く出している経済学者・田中秀臣氏と現役アイドルのさっちゃんにブームの持続性や日本経済に与える影響についてお話しいただいた。

デフレ型アイドルの特徴とは

 アベノミクスや消費税増税の問題、日銀法改正など「ハードな経済問題」を論じる一方、「アイドル経済学」の先駆者としても知られている田中秀臣氏。本セミナーでは講師にその田中氏を、そしてゲストに童謡アイドルとして人気の高い「さっちゃん」こと中島早耶氏をお招きし、アイドルと経済成長率の関係や日本のアイドル市場の規模や今現在の状況について語っていただいた。
 冒頭は日本を代表するアイドルである「AKB48」について。実は3年前、田中氏が「初めて会って一緒に仕事をしたアイドル」は、現在、「AKB48」のセンターを務める指原莉乃だったという。「そういう意味では非常にラッキーなスタートだった」と田中氏。
「一緒になったのは報道関係の番組。彼女はへたれとか言われているけど、全然そんなことはなくてすごくしっかりしていました」、その前年、田中氏は『AKB48の経済学』を上梓していた。そこから現在に至るまで、「アイドル経済学」の調査や研究がつづいている。
 「AKB48」のデビューは2005年。最初のライブは数名の観客しかいなかったという話は有名だ。ブレイクしたのはリーマンショックが起きた2008年。その後、人気はどんどん高まり、今では「ひとり勝ち状態」となっている。その間、日本経済はというと不況で長くデフレがつづいていた。ここで田中氏がさっちゃんに「ライブに人が来なくなって事務所を解雇されたらどうする?」と質問。
「そうしたら自分で路上ライブをやります!」
 この答えに田中氏は「さすがですね」。
「今の答えはデフレ型アイドルの特徴ですね」
 ネットが普及した現在、アイドルは自分でライブをやり、自分で動画を流し、コアなファンを獲得することが可能となった。そうして生まれたコアなファン層は、応援しているアイドルをほかのアイドルへ変えること、つまり「推し変」することなくついてきてくれる。マス層までは届かないがコア層には強く支持される、それがデフレ型アイドル。さっちゃんのようなライブアイドルやローカルアイドルの大半はこのデフレ型アイドルだ。

不況に強い「アイドル」というビジネスモデル

 実はアイドルは以前から不況に強いと言われてきた。田中氏が配布した資料の図には「経済成長率の推移とアイドル」の関係がはっきり示されている。日本のアイドルの第一世代は、1970年代に脚光を浴びた麻丘めぐみ、南沙織、小柳ルミ子、天地真理の4人。その後につづいたのが山口百恵や桜田淳子、森昌子の中3トリオやキャンディーズ。彼女たちは皆オイルショックなどで経済成長率が落ちたときにブレイクしている。そしてアイドルとしての寿命はだいたい2年間と意外に短い。その理由を田中氏は「70年代後半になると日本はふたたび好景気となったから」という。80年代に入るとふたたび景気が下がる。そこに登場したのが松田聖子や、小泉今日子、石川秀美などの「花の82年組」。85年にはおニャン子クラブが大人気となる。が、おニャン子クラブも活躍の場であったテレビ番組「夕やけニャンニャン」の終了とともに姿を消す。そこからしばらくは「アイドル冬の時代」。世間はバブル景気に浮かれ、正統派アイドルのかわりにレースクイーンやグラビアアイドルなどセクシー系アイドルが人気を呼ぶ。だが、バブルがはじけ、日本は銀行や証券会社が破綻するという金融危機を迎える。そんな時代に大ブレイクしたのが「モーニング娘。」だった。21世紀に入ると低成長ながらも経済は安定。「モーニング娘。」は苦戦を強いられる。そして起きたリーマンショック。日本経済は大打撃を受けるが、「AKB48」は大躍進し、アイドルが不況に強いことを証明してみせる。
「なぜそうなるのか。実はすごくわかりやすい。男性は不況のときはアイドルに、好況のときはリアル彼女にいってしまうんです」
 単純な話、お金があれば彼女と豪遊できる。バブル時代がそうだった。しかし不景気のときはその余裕がない。まして昨今のようなデフレとなると余計に動きがとれなくなる。そこで人々は500円払えばチェキで一緒に写真が撮れるライブアイドルのもとに行くというわけだ。その「会いに行けるアイドル」を始めたのが「AKB48」だ。しかも最近のアイドルは歌もMCもはじめからは完成してはおらず、ともに「成長物語」を共有できる。これがファンにはたまらない。ちなみに田中氏も人気グループ「ももいろクローバーZ」についてはその改名時に共演したこともあって「特別」で「特殊」な存在だという。やがて「AKB48」は女性層やファミリー層まで人気が浸透。現実には会えないアイドルになってしまうと、今度はその隙間を埋めるようにライブアイドルやローカルアイドルが続々誕生。いまや日本のアイドルは全国で5,000人にものぼるという。

アイドルファンの中心は中高年層

 では、そのアイドルの市場というのはどの程度の規模なのか。それを調べるために田中氏は福岡のアイドルグループ「QunQun(キュンキュン)」のライブ入場料やイベント出演料、CD、グッズなどの物販の売上を、ある種の仮定をおいて推計した。福岡は「HKT48」や「LinQ(リンク)」などのローカルアイドルがひしめく激戦区。そこで田中氏は「QunQun」で得た結果をもとにして、福岡アイドル市場だけで69億1,160万円の推計値を得る。これを人口比で全国に当てはめると約1,700億円。デフレで物が売れない時代とはいえ、ライブの入場料や物販中心だけでもこれだけの規模がある。さらに言うなら、それを支えるアイドルファンの中心は40代から50代の中高年層だ。さっちゃんのライブでもこれは同じ。少子高齢化という側面もあるが、田中氏によれば「日本のアイドルファンは息が長い」。天地真理に夢中になった少年が、今は「さっちゃんとチェキで一緒に写真を撮っている」のである。さっちゃんの名言「おじいちゃん(高齢アイドルファン)は推しを変えない」という言葉も印象的だ。ここでの「推し」とは、ファンのアイドルに対する支持の強さを意味する用語だ。
 アベノミクスで日本経済が上向いてきた今、「AKB48」をはじめとする日本のアイドルはどうなるのか。田中氏は「『ももクロ』のような少人数のユニットや『さっちゃん』のようなライブアイドルはサバイブできるでしょう」と分析している。そのさっちゃんの夢は、「アイドルアイドルせずに女性版志村けんさんみたいになって人々を笑顔にできればいいなと思っています」。田中氏は「日銀法改正をめざし、日本経済を立ち直らせたい」。アイドルについて言えば「今注目している『さんみゅ~』をメジャーにしたい。さんみゅ~族を増やす。それが夢です」
アイドルと経済。一見すると関係ないように見えることも、注意深く見ていくことで相関関係を発見できたりする。そんな新たな気づきを得ることができた有意義なセミナーだった。

講師紹介

田中 秀臣,さっちゃん(中島 早耶)
田中 秀臣,さっちゃん(中島 早耶)

田中 秀臣(たなか ひでとみ) 写真左
経済学者

1961年生まれ。上武大学ビジネス情報学部教授。早稲田大学大学院経済研究科博士課程単位取得退学。日本経済論、日本経済思想史専攻。アイドル経済学についても論著が多く、『AKB48の経済学』(朝日新聞出版)、『日本経済復活が引き起こすAKB48の終焉』(主婦の友社)などを執筆。

さっちゃん (中島 早耶 なかじま さや) 写真右
童謡アイドル

全国各地でライブを頻繁に行うほかに、グラビアや舞台などで活動中。童謡をはじめ、オリジナル曲「CHA CHA CHA」は多くの人に愛されている。クロスミュージックエンターテイメント所属。