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イベントレポート

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2013年10月22日(火)19:00~21:00

堀 直人(ほり なおと) / NPO法人北海道冒険芸術出版代表理事

まちを編集する
~『北海道裏観光ガイド』から考える地域問題の解決~

札幌時計台、洞爺湖、旭山動物園など多くの有名観光地がある一方で、観光地以外は過疎化が急速に進んでいる北海道。しかし、その過疎地域に光をあててみると秘境駅、秘湯、絶景などこれまでの北海道のイメージとは別の魅力を持っていることに気づかされます。「過疎化するまちを編集し、その良さを紹介することでまちに希望が生まれる」と語る堀氏に、これまでとは違った視点からの北海道の魅力をお話しいただきました。

北海道の観光をゼロからとらえなおした「北海道裏観光ガイド」

 もともとは広告のグラフィックデザイナー。現在はそのスキルを活かしつつ、地元北海道で「まちを編集する」という活動に従事している堀直人氏。セミナーは、まず著作である「北海道裏観光ガイド」についての話からスタートした。
「この観光ガイドは、まず北海道の観光を0にしよう。いったん白紙にしてみようというところからつくってみた本なんです」
 北海道の観光のイメージというと、「海鮮丼とラベンダー、キタキツネ、クラーク博士、そして札幌時計台」。だがこれらはすべてイメージ化された「上澄み」だ。実際に住んでいる人にとっての北海道は雪景色に代表されるようなモノトーンの世界だったりする。「行ってみたい場所では1位にランクしても、行ってよかったというランクだと7位に落ちてしまうのが北海道」だという。そこで堀氏は北海道の観光についてあらためて考えてみた。メジャーな観光地にはやはりメジャーになるだけの魅力がある。そこは否定しない。ただ、これまで光が当たっていなかったものも「見方」を変えることで観光地として捉え、それらを「裏」観光ガイドとしてまとめてみた。本の中で紹介したのは、大自然の中にぽつんとたたずむ製紙工場の夜景、襟裳岬近くの覆道、一風変わった千歳市の温泉、羽幌の山中にある廃鉱など。最近注目を集めている「産業遺産」と言われる新しい名所は、まさに「裏観光」といった言葉が似合っている。場所によっては映画やゲームのような異世界に入り込んだような錯覚も味わえる。メジャーな観光地における観光客はあくまでも観客だが、裏観光の観光地では観光客は「場」の共演者になりうるのではないか。
「観光の動機というのは知らないものを見たいという好奇心ですよね。と同時に、観光には自分の感覚を通して実感することが必要だと思うんです」

見方を変えれば、今あるものに価値が生まれる

 では、どうすれば「見方」は変わるのか。
堀氏が見せてくれたのは奈良公園で撮ったシカの写真。それだけなら何の変哲もないスナップだが、「煎餅くれないなら知らん!」といったフレーズをつけると、途端にシカがそう言っているように見えてくる。
「写真にフレーズをつけるなど、方向性を与えることで見方が変わる。これも『編集』の一つです」
コンテンツは同じでも、伝え方次第で見方は変わる。コーラのボトルも、コーヒーではなくコーラだとわかるのはラベルがついているから。フレーズひとつ、ラベルひとつで物の「見方」は変化する。これは観光資源にも言えることだ。
「編集とは何か。目的は物事を最適化し、価値を最大化することです」
ここで言う「編集」とは、雑誌や書籍の編集という専門職ではなく、広義な意味での「編集」。そう捉えると、「人は自分に対して常に編集者である」という。たとえば意中の相手に告白しようというとき、人は必ずその告白が最大の効果を生むように無意識のうちに「導線」を考える。その作業は「編集」そのものだ。ただし、無意識であるうちは、それはまだ「技術」ではなく「仕草」と言った方がいい。これが自覚的なものになったとき、編集は無意識の「仕草」から意識的に使う「技術」となる。
「見方を変える」は、観光資源だけではなくあらゆるものに適用できる。堀氏が最近取り組んでいるのは籾殻からつくったバイオマス燃料の事業。これまでは産業廃棄物だった籾殻も、資源と考えてみれば燃料に変わる。北海道ではどこに行っても邪魔者扱いされている雪も、道央の沼田町では米の低温貯蔵に利用するなど産業に活用している。こんなふうに見方を変えれば、今あるものにさまざまな価値を見出すことができる。
「人口減少で過疎化が進み、縮小していく時代に「新しいもの」をつくることは難しい。でも、見方を変えることはできるはずです」
 もちろん、どう見方を変えるかが重要。いくつもある可能性を取捨選択し、磨き上げていくこと。これが「編集」の技術だ。

社会課題が「最先端」の田舎は、解決策も「最先端」

セミナー後半は、堀氏の地域づくりに関わる活動を紹介。4年前から行われている「札幌ブックフェス」。このイベントは「札幌の地域性を本で楽しもう」というものだ。碁盤の目状につくられている札幌の街は「便利だけど街歩きを楽しみにくい。だが街の各所にチェックポイントがあれば散策が楽しくなると考え、イベント期間中『ミセナカ書店』というショップ内書店の設置を企画した。こうして「まちを編集」し、自分たちのまちを楽しもうというのが主旨だ。
現在取り組んでいるのは、「景観を活かした市民参加による地域課題の解決」の枠組みづくりを行う、『好きです。さっぽろ(個人的に。)』というプロジェクトだ。まずは、これまでは「有識者」により評価されていた都市景観を、市民の「好き」を見える化することで評価されていく仕組みに変える。そこで堀氏たちが作ったのが子どもたちに人気のトレーディングカードゲーム。市民のおすすめスポットを公募して作られたこのカードゲームを通して、子どもたちは知らず知らずのうちに自分たちの街を学んでいく。当然、そこには自分の街に対する愛着が生まれる。
「次に考えているのは『日本編集株式会社』の起業。北海道だけではなく日本全国を対象に『まちを編集する』会社をつくります」
30年後の日本を考えると、そこには限界集落の問題などいくつもの社会的課題が横たわっている。そして、「北海道はその最先端」に位置している。ポイントとなるのは、都市部と過疎地の双方をつなぐ事業を生み出すこと。都市部にはなくて過疎地にはあるもの、あるいはその逆。こうした不一致をうまく利用することが課題を解決するひとつの方法になる。
ただし、実際のところNPO法人や民間企業で仕事として地域に関わるには、「採算性」という観点が切っても切り離せない。仕事として地域づくりへ関与するには、「ビジネス」を通した間接的なかたちに限られる。
「やはり地域に直接関わるには役所で働くのがいちばんです。といって公務員になるには年齢的に遅い。そのことに気付くのが遅かった。もはや公共に直接的に関与する仕事をするには、市議会議員や市長になるしかないですね」
「夢」は「地方政治に関わること」。そのとき、堀氏が培ってきた「まちを編集する」技術はおおいに役立つに違いない。

講師紹介

堀 直人(ほり なおと)
堀 直人(ほり なおと)
NPO法人北海道冒険芸術出版代表理事
1981年北海道江別市生まれ。デザイン事務所、広告代理店などでデザイナーとして勤務。2010年に多様な選択肢を見いだし、最適な組み合わせを考える編集集団「NPO法人北海道冒険芸術出版」を設立し、代表理事に就任。「本でつなぐ、まちのカタチ」をテーマに、2010年「札幌ブックフェス」の実行委員長を務める。出版物に「北海道裏観光ガイド」(NPO法人北海道冒険芸術出版)などがある。