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イベントレポート

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2013年11月7日(木)19:00~21:00

小堀 貴亮(こぼり たかあき) / 共栄大学国際経営学部観光ビジネスコース専任講師

温泉通になろう!!
~温泉の正しい知識と効果的な入り方~

3,000以上もの温泉地が分布する温泉大国・日本。泉質や地域によって療養・保養・美容などでさまざまな効能や恩恵を授かることができる一方で、泉質や効能の正しい知識、効果的な入浴法を知っていないとせっかくの恩恵を授かることができない。温泉のフィールドワークで多くの温泉を調査、実際に入ってきた小堀氏に温泉通になるための知識や日本国内外のおススメ温泉地などを紹介いただいた。

古代ギリシアからはじまる温泉の歴史

「今日は温泉についてみなさんと楽しく共有できればと思います」
 こんな言葉からスタートしたこの日のセミナー。講師の小堀貴亮氏がまず見せてくれたのは「世界の温泉」。分布図を見ると、地球上の温泉は太平洋沿岸をはじめ各大陸の内陸部などに広く分布していることがわかる。もちろん、その中でいちばん多いのは日本。日本には3,200か所の温泉地があり、独特の温泉文化が発達している。「温泉学者」である小堀氏の仕事のひとつはその温泉文化を伝えていくことだ。では記録に残る世界最古の温泉はというと「日本ではなくギリシア」。かの地には紀元前500年頃に硫黄泉に入湯したという記録が残っている。温泉入浴施設としてもっとも古いものはローマのカラカラ浴場。映画『テルマエロマエ』でも知られるように古代ローマ人は「温泉大好き民族」。版図を広げたローマ帝国は、イギリスの「バース」やベルギーの「スパ」など、ヨーロッパ各地の温泉地に公衆浴場を造ったという。
 一方、温泉はイスラム圏にも存在する。人々は「ハマーム」と呼ばれる浴場で硫黄泉に入っていた。ここで生まれたのが「石鹸」。「これは想像ですが、硫黄泉は匂いがきついのでそれを落とすために石鹸がつくられたのではないかと考えられます」

日本の温泉の原点は「療養目的の湯治場」

 次に紐解いてみたのは日本の温泉の歴史。日本中に数ある温泉はそもそも誰が発見したものなのか。言い伝えによくあるのが「鳥獣」によるものだ。日本最古の温泉と言われる愛媛県の道後温泉には「足を折った白鷺が入った」という伝説が残されている。他にも猿や鶴、鹿、熊、馬、狼、蛇など、「鳥獣発見伝説」は至る所に見られる。「地域のブランド化」という視点で見ると、こうした伝説は温泉の価値を上げるオプションとなる。甲州や信州に多い「武田信玄の隠し湯」などもそうしたオプションのひとつだ。ちなみに小堀氏が挙げる「温泉好き武将四天王」は、武田信玄に上杉謙信、真田幸村、徳川家康の4人。彼らはそれぞれ温泉を「発見」している。僧侶では行基と空海。また7世紀頃には天皇の温泉行幸も行われている。ここで選ばれたのが有馬温泉、道後温泉、白浜温泉。この3つの温泉は「日本三大古湯」として知られている。こうした古い温泉はそのすべてが療養目的の湯治場。江戸期以前は基本的に身分の高い人間か、戦で傷を負った将兵のためのものであったが、江戸時代に入ると庶民も湯治に出かけるようになったという。その後、明治時代になっても温泉といえばイコール湯治場。実は現在のように温泉地が観光地化したのは高度成長期に入ってからだ。そしていまや日本の温泉地の96パーセントは観光地。昔ながらの湯治場は全体の4パーセントしか残っていない。だが、「温泉通」の間では最近はこの湯治場が「ブーム」なのだという。
「原点回帰といいますか。書店に行っても湯治場を紹介する本をよく見かけます」
 セミナー前半の最後は「日本初の計画的温泉都市」である伊香保温泉の紹介。伊香保の特徴は茶色い湯。いまや日本全国で見られる茶色い温泉饅頭は、この伊香保温泉にある勝月堂が開発したものだ。ここで小堀氏と勝月堂から参加者全員に温泉(湯乃花)饅頭をプレゼント。拍手とともに前半が終了した。

やっぱり温泉は体に良くて気持ちいい!

 後半は「よくある質問」に答える形で「そもそも温泉とはなんぞや」について説明。こうした講義をすると、必ず出てくるのが「源泉かけ流しは本当にいいのか」という質問だという。結論から言うと答えは「イエス」。
「源泉かけ流しの湯というのは地中から湧出したお湯をそのまま湯舟に流している湯のことです」
 「源泉かけ流し」の対義語は「循環濾過」。加水や加熱したお湯も、むろん源泉かけ流しとは言えない。濾過したり、加水したお湯はその時点で成分が変わってしまうからだ。こうしたお湯は天然温泉としては価値が半減する。「ただ、源泉のお湯の中には殺菌が必要なものもあるし、湧くお湯の量には限界があるので循環濾過して一回使ったお湯をまた使わなければならない温泉も少なくありません」
 「源泉かけ流し」の湯が比較的多いのは東北。小堀氏が温泉学で学位を取ったときの研究も東北からスタートしたという。
 温泉に入る際に絶対にやってはいけないのは飲酒だ。あまり知られていないが、国内で入浴中に死亡する人は年間1万4,000人。そしてその大半は「お酒」と絡んでいる。
「入浴中の飲酒は脳溢血や脳梗塞を起こす可能性が高い。致死率は交通事故以上です」
 また蒸気風呂などの一部例外を除けば、温泉入浴は体に負担をかけ疲労をもたらすので、感染症や癌、白血病の人などは避けるに限る。そしてもうひとつ注意したいのがお湯の温度。健康であっても子どもや高齢者には高温の湯は危険だし、長く入浴してリラックスしたい場合はぬるめの湯を選ぶなど、目的や体の状態にあった温泉選びが必要だ。
 ここで紹介されたのは「奇跡の温泉」と呼ばれる山梨県の増富温泉。冷泉浴ができるこの温泉には病気が快方に向かったという実例が数多くある。よく言う「美人の湯」も「即効性はない」が、肌がつるつるになるアルカリ泉には確かに「美人を作り出す効果が備わっている」という。入り方さえ間違えなければ、やはり温泉は体にいいものなのだ。
「じゃあ温泉はどうして体に効くのでしょう」
 いちばんリアルな答えは「気」だ。現代風に言うと「HSP=ヒートショックプロテイン」。人間が体内に持つ細胞質はストレスを感じると傷がつく。これが多くなると病気になる。それを修復してくれる「ありがたいタンパク質」がHSPだ。このHSPは体を温めると増えることが実証されている。
「HSPを気持ちよく効率的に増やしてくれるのが温泉。昔から言う〈病は気から〉とはこういうことなのかもしれませんね」
 この他、講師の口からは「白や黒、青などのお湯の色は実は太陽光の質や角度がもたらす目の錯覚」、「源泉かけ流し風呂の見分け方」、「この秋おすすめの温泉」など、「温泉通」になるための話が盛りだくさん。締めくくりには「夢」について語っていただいた。
「夢は温泉地に暮らすこと。そして博士号を取るときにお世話になった東北の復興を温泉学者としてお手伝いすること。温泉で日本を明るく元気にしていきたいですね」

講師紹介

小堀 貴亮(こぼり たかあき)
小堀 貴亮(こぼり たかあき)
共栄大学国際経営学部観光ビジネスコース専任講師
1973年埼玉県生まれ。2006年千葉大学大学院自然科学研究科人間環境デザイン科学専攻より博士(学術)の学位取得。別府大学専任講師、大阪観光大学専任講師を経て現職。(社)日本温泉協会・非常勤研究員、日本温泉地域学会幹事を兼任。主な著書に、「房総の地域ウォッチング-おもしろ半島千葉県の地理散歩」(大明堂)、「観光地域社会の構築-日本と世界-」(同文舘出版)、「温泉-自然と文化-」(日本温泉協会)、「図説・新日本地理-自然環境と地域変容-(原書房)、「観光地理学-観光地域の形成と課題-」(同文舘出版)などがある。