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イベントレポート

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2013年11月14日(木)19:00~21:00

白木 朋子(しらき ともこ) / 認定NPO法人 ACE 事務局長

社会貢献を仕事にする

「働くってどういうこと?」「自分のやりたいことって何だろう?」など仕事について悩んでいる人も多いのではないか。私たちはいったい何のために働くのか。お金のため、自分のため、会社のために、それとも・・・。会社の構造や個人の価値観が多様化し、私たちが向き合っている「働く」というテーマにも変化が起きている中で、今回のセミナーは自分らしい仕事や人生のカタチについて考える機会となった。

チョコレートの原料はアフリカの子どもたちが生産している

「遊ぶ、学ぶ、笑う。そんなあたりまえを、世界の子どもたちに。」
 白木朋子氏が事務局長を務める『ACE(エース)』は、このキャッチフレーズのもと、「世界の子どもを児童労働から守る」活動に取り組んでいる国際協力NGOだ。海外での主な活動の場はインドとガーナ。インドではコットン、ガーナではカカオの栽培で、多くの子どもたちが学校に通うことができず苛酷な労働を強いられている。そこで今回のセミナーでは、白木氏が前週まで滞在していたというガーナでの話を中心に活動を紹介していただいた。
「ガーナというと、みなさんチョコレートを想像されると思います」
 西アフリカにあるガーナは人口2,300万人。面積は日本の本州程度で、チョコレートの原料であるカカオ豆の生産では世界第2位。経済成長率は2012年で約14パーセントと、アフリカ諸国の中では「優等生」と言われている国だ。しかし経済的に豊かなのは都市部だけで、農村との格差は非常に大きい。カカオ栽培をしている農家は家族単位の零細農家が大半。下草の草刈りひとつとっても重労働で、こうした農村では平均して3人に1人の子どもが児童労働を強いられて学校に通えずにいる。資料として上映した白木氏の活動を追ったドキュメンタリー番組を見ると、子どもたちがサンダルで毒蛇やサソリのいる森の中で働いている。現在13歳だという少年は白木氏の問いかけに「10歳のときから働いている」と答える。親からは「働くのが当たり前」と言われ、学校には行っていない。また14歳と11歳のある兄弟は「学校に行かせてやる」と雇い主に言われ親元を離れて農場に来たというのに、実際には1日中働かされていて奴隷のような生活を送っている。もちろん、これはガーナ政府の定めた法律にも違反する行為だ。白木氏たちはこの兄弟を郡の知事に直談判して救い出したという。

「教育」は貧困からの脱出に不可欠なもの

 白木氏たちのガーナでの活動拠点はカカオ栽培の中心地であるアシャンティ州にある4つの村。番組ではモデルプロジェクトの最初のケースであるクワベナ・アクワ村を紹介。 ここで白木氏たちは地元の団体や村人と協力して学校環境の改善に取り組んだ。それまで吹きさらしだった校舎に壁を設け、雨でも授業ができるようにした。この村でも児童労働は当たり前のように行われていたが、啓発活動を続けた結果、幼稚園から中学生まで、子どもたちの全員が学校に通えるようにした。制服も地方政府にかけあい「無償支給」を実現。3年間のプロジェクトを通して子どもたちの中には郡で1位の成績を取って高校に進学する子も出てきた。ただ一方で、カカオの収穫期になると長期に渡って学校を休む子が現われたりもする。番組の中で、白木氏はその子の住む集落を訪問する。出会った母親は「離婚して11人の子どもを女手ひとつで育てている」という。生活は厳しく、兄弟のうち5人は学校に行っていない。これが農村の厳しい現実だ。
 こういう活動をしていると、よく言われるのが「先進国の常識を押しつけているだけじゃないか」という意見だ。だがけっして「押しつけ」はしない。
「まずは人生相談をするみたいに相手を訪問して話を聞くことにしています」
 子どもに義務教育を受けさせるのは国際的な規範であると同時に、ガーナを含む各国の国内法でも規定されていることである。家事の手伝い程度ならともかく、幼いうちから負担の大きな仕事をすると将来に渡ってダメージを受けたりする。読み書きや計算ができなければ、大人になっても貧困からはなかなか抜け出せない。教育はこうした悪循環から脱するための基礎であり、もっとも有効な手段だ。
「子どもたちを学校に行かせるには親が豊かにならなければなりません」
 そのためのひとつがより効率的にカカオの収穫量を上げるための「ファーマービジネススクール」。ACEではこの他にもカカオ豆を適正価格で買い上げるフェアトレードや製菓会社と提携して売り上げの一部を生産地の子どもたちの支援に当てるキャンペーン、ガーナ産カカオ豆が8割を占める日本のチョコレートの消費者に向けたイベントやワークショップなど、さまざまな活動を通して児童労働撲滅に邁進している。日本人が食べている「安くておいしいチョコレート」は、実はガーナの農村の子どもたちとつながっている。そういう意味で児童労働は日本人にとってけっして無関係ではない問題といえる。

NPO、NGOを「働く場として確立したい」

 白木氏が児童労働に関心を抱いたのは大学時代。ゼミのフィールドワークで訪れたインドで児童労働に従事する子どもたちに出会い「衝撃を受けた」。同時に「大人たちは何をしているのか」と怒りも感じた。そうするうち、世界中の人々に児童労働の実態を知ってもらうために各国でデモ行進を行う「グローバルマーチ」の活動を知った。仲間たちとACEを立ち上げ、日本での受け入れ先となった。そのときは大学を卒業するまでの「期間限定の活動」だった。その後、イギリスの大学院に進んだ白木氏は、帰国してODAのコンサルタント会社に勤める。会社ではフィリピンの森林プロジェクトなどに参画。責任ある仕事を任される一方、同時に国益重視のODAの限界も知ることとなる。
「ODAの援助は本当に困っている人々までは届かない。やはり児童労働に取り組むにはNGOとして活動した方がいいと気づきました」
 インドに本部を置くグローバルマーチからの働きかけもあり、仲間たちとACEを再結成。2005年にはNPO法人化。会社を退職した白木氏は「児童労働撲滅」に特化することとなる。そんな白木氏の「夢」は「世界の子どもたちに教育を与え、しっかりと自立していける社会をつくること」だ。
「日本や他の先進国にもかつては児童労働はあったけれど今はなくなりました。ガーナやインドでも強い意志をもって力を合わせていけばそうした社会の実現は可能なはずです」
 「夢」はもうひとつある。それは「NPOやNGOを社会の中で働く場として確立すること」だ。日本ではNPO法人やNGOの活動はいまだに「無償のボランティア」と勘違いされているところがある。が、それは違う。
「給与や労働条件などが保証されればもっといい人材が入ってくるし、より社会に貢献できるようにもなる。いい循環ができていくのではないかと思っています」

講師紹介

白木 朋子(しらき ともこ)
白木 朋子(しらき ともこ)
認定NPO法人 ACE 事務局長
1974年宮城県仙台市生まれ。学生時代にインドを訪れ、児童労働を余儀なくされる子どもたちに出会う。1997年ACE設立に参画。ガーナの海外事業の立ち上げ・運営管理、森永製菓との連携を進めた。その他、講演や組織運営に従事。明治学院大学国際学部を卒業後、英国サセックス大学・文化環境開発研究所、開発人類学修士課程修了。民間企業を経て2005年4月より現職。共著に「わたし8歳、カカオ畑で働きつづけて。」(合同出版)、「児童労働撤廃に向けたステークホルダー連携の意義とNGOの役割」、中村まり・山形辰史編「児童労働撤廃に向けて-今、私たちにできること」(アジア経済研究所)がある。