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2014年3月11日(火) 19:00~21:00

齋藤 茂樹 (さいとう しげき) / エスアイピー・フィナンシャル・グループ株式会社 代表取締役社長

21世紀のカオスのなかで
-テクノロジーの進歩と急速なグローバル化のなかで自立して生きるということを考える-

ベンチャーとはなにか?大企業の歯車になりたくない?一攫千金を目指す?そこには単に表層的で終わらない自分の生き方の革命があり、ベンチャー企業の経営者と付き合っていくと、その経営者の、今の社会・ビジネスのなかで行き着いた人生そのものが見えてくる。激しいテクノロジーの進化と急速なグローバル化の波。この時代のなかでどう自分の人生を生きればよいのか?セミナーは、齋藤氏がなぜベンチャーキャピタルに行き着いたのかということに始まり、新しいビジネスを創っていくためのアプローチやセオリー、キーポイント、さらには新しいビジネスを創るという生き方を目指すことが、この時代に何を意味するかを考える機会となった。

「イノベーションに関わりたい」、熱い思いが自分を動かす

ベンチャーキャピタリストとして世界を股に活動している齋藤茂樹氏。ベンチャー企業というと、ついグーグルやアップルのような巨大化企業を思い浮かべてしまうが、立ち上がったばかりのベンチャー企業は赤字が当たり前。齋藤氏が見ていても「投資先の社長さんは忙しすぎて、心身ともにぼろぼろ」だという。
「しかし、なぜあれほどまでに頑張れるのか。今日は私が日々感じているところも含めて、これからのベンチャーについてお話ししたいと思います」
齋藤氏は1961年生まれの53歳。東京大学経済学部を卒業後、NTTに民営化第一期生として入社し、その後マサチューセッツ工科大学スローンスクールにMBA留学。ブラウザの先達であったネットスケープやデジタルガレージを経て、7年前からは父の篤氏が創業したベンチャーキャピタル=SIPで代表取締役社長を務めている。これまでの「仕事選び」の軸は常に「イノベーション」。東京大学経済学部ならば銀行に就職するのが当たり前だった時代にNTTを選んだのは、この先訪れる情報化社会の「真ん中に入る」ためであったし、NTTを退社してアメリカに渡ったのもインターネットに魅力を感じ、シリコンバレーで働きたいと思ったからだという。「影響を受けたのは岩井克人先生の『ヴェニスの商人の資本論』。ここで先生は資本主義のエンジンは「イノベーション」だとおっしゃっています。例えば、ウォークマンはソニーによるイノベーションでした。『一社が成功すると他社がイミテーションを作り、そしてみんながそれを持つ頃にはテクノロジーが進化し、次の新しい商品が生まれる。こうしたイノベーションとイミテーションの無限の回転運動が資本主義のドライブのひとつである。』この先生の言葉が、私がいろんなことを考える原点になっているんです」

あれば便利なものが、なくてはならないものに

MBA留学時代、そしてその後のIT系ベンチャー企業での勤務経験の間には、ベンチャービジネスの最前線で活躍し、イノベーションを牽引する多くの人たちと関わってきたという齋藤氏。デジタルガレージ時代は、当時赤字だった「価格.com」を黒字化させるという成功体験を得た。そして現在は、ベンチャーキャピタルとしてメディカル関連企業やリチウム電池の部材開発会社などに投資をしている。これらの投資先企業に共通しているのは「クロスボーダー」だという。
「この7年間、ベンチャーキャピタルをやって痛感したのは、日本の市場は力を失っているということ。そこで海外で勝負できる商材を持っている日本企業に投資することにしたんです」
齋藤氏のスタイルは「ハンズオン投資」。自身もその会社の役員になり、一緒に汗をかいていこうというものだ。そこで大切となるのが経営者だ。
「ベンチャーの世界というのは玉石混淆で、なかにはお金を持って逃げてしまうような人もいたりします。やはり投資をするなら、崇高な理念があって、これをやらなきゃ死んでも死にきれないといった思いを持った方と仕事がしたいですね」
ここでちょっとしたクイズ。
「蒸気機関車と大陸横断鉄道。どちらが人類のために役立ったのでしょう?」
答えは「大陸横断鉄道」。蒸気機関車そのものはすごいが、これはまだ「インベンション=発明」の段階。大陸横断鉄道は、このインベンションを使ってアメリカの東部と西部を結ぶというシステムをつくりだした。これにより、東と西に分かれていた経済圏がひとつの巨大な国内経済圏となり、アメリカという国は成長した。現代に例をさがせば、これに相当するのはグーグル。いまやグーグルは単なる検索エンジンの域を超え、人々の生活になくてならないものとなっている。
「あれば便利なものが、なくてはならないものになる。これがイノベーションです。日本は技術志向が強過ぎるけれど、それよりも社会の中のニーズをいかにつかんでプラットフォーム化するか。そっちの方が大事だし、私はそっちで勝負をしています」

日本から世界へ出ていく企業をつくりたい

イノベーションを起こすには、まず「プロダクトが本物であること」。ただし、ここで忘れないでおきたいのは、「いちばんいい技術が勝つとは限らない」ということだ。ウィンドウズは必ずしもベストのOSではなかったが、販売システムなどの優位性でマーケットでは勝った。ベンチャー企業が成功するには、巨大な販売システムを持った大企業と提携するのが早道。そして、その鍵となるのが海外の複数マーケットを攻めていく姿勢とプロダクトのローカライゼーションだ。
「世界中で人気のある日本のアニメにしても、ローカルの声優を使った吹き替えが最低限必要になりますよね。基本は同じプロダクトでも、その国の国民所得や国民性に対応したものを売っていかねばなりません」
狙いどころは、中国など新興国の中間層。人口が多い国が成長してくると、やはりその中間層が購入するプロダクトが伸びていくという。それが目に見えてわかりやすいのがスマートフォン事業だ。昨年、齋藤氏がシンガポールに設立したグート(gooute)は、アジアの優秀なODMメーカーと提携。日本製のスマートフォンと同等のパフォーマンスを持つ端末を、より安く提供することができる。高品質かつ低価格ならば、新興国でも歓迎されるのは間違いない。
「今は幕末と似ている」と齋藤氏。
「あの時代は『士農工商』という階級があって『武士』の無生産階級が偉そうにしていた。現代に置き換えると武士は国の組織や大企業。全然働いていないとは言いませんが、必要以上にコスト高で、みんな高いものを買わされているんです」
士農工商の時代は、外国からの圧力を受けて明治維新へとつながった。現在の日本もまた、グローバル化の中で変化を迫られている。そのためにはまず年功序列から脱却し、女性や若者、日本在住の外国人などが起業をするような社会に変えていかねばならない。
齋藤氏の「夢」は、「あと10年以内に海外で勝負できる日本企業をつくること」と「英語で日本人論を書くこと」、そして「海外に留学しようという若者たちを支援すること」。
「あとはできるだけ長生きしたいですね。ヨガでもやろうと思っています」

講師紹介

齋藤 茂樹 (さいとう しげき)
齋藤 茂樹 (さいとう しげき)
エスアイピー・フィナンシャル・グループ株式会社 代表取締役社長
1961年生まれ。東京大学経済学部卒業後、85年に民営化一期生としてNTTに入社し、94年退社。97年、米国マサチューセッツ工科大学(MIT)スローンスクールにてMBA取得。その後、米国ネットスケープ・コミュニケーションズに入社し、日本市場でのポータル・ビジネスを統括。(株)デジタルガレージでは、公開期の中心メンバーとして参画。2004年~2011年までデジタルハリウッド大学大学院教授としてデジタルコンバージェンス論及びベンチャーキャピタルビジネス論で教壇に立つ。現在は、エス・アイ・ピーの代表として、投資先企業の成長のためにさまざまな角度からのハンズオン支援を実践中。著書に「イノベーション・エコシステムと新成長戦略」、「デジタル・コンバージェンスの衝撃~通信と放送の融合で何が変わるのか」、「世界は君を待っている!MBA留学とグローバルリーダーシップ」(共著)がある。