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イベントレポート

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2014年3月17日(月) 10:30~12:00

東 えりか,麻木 久仁子 /

本を語ろう!!
~HONZ女子会~

ベストセラーではないが、丹念に作られた本。有名ではないが個性が光る著者、独特の視点から選び出したブックリスト、そして編集者の想いを紹介する書評サイト「HONZ」。2月10日に新規OPENしたd-labo二子玉川では、同サイトで紹介された本を集めた本棚を設置。今回はそのHONZ本棚の設置記念セミナーとしてHONZを代表するお二人、東えりか氏と麻木久仁子氏に、それぞれの「本」への想いや楽しみ方、そして面白い本などを紹介いただいた。

女性にこそ読んでほしいノンフィクション

d-labo二子玉川における記念すべき第1回目のセミナーとなった『本を語ろう!!~HONZ女子会~』。講師には書評サイト『HONZ』副代表の東えりか氏と、同レビュアーでタレントの麻木久仁子氏を招待。『HONZ』について、そしてそれぞれが薦める本について、対談方式で語っていただいた。
2011年7月にスタートした『HONZ』の特徴は、評論の対象をノンフィクションに限定している点。「ノンフィクション」とは「小説以外のすべての本」。実はとてつもなく広いジャンルを指す言葉なのだ。
「ただ、ノンフィクションというとビジネス書のイメージがあるせいか、どうしても読者が男性に偏りがち。そうではなく、本当は女性に読んでほしいんです」
そう強調する東氏は、日本で唯一といっていいノンフィクションを中心とした書評家だ。
「東さんはプロの書評家だから、読む本もオールマイティー。それに比べると私は偏っていますよね」と麻木氏。実は15名いる『HONZ』のレビュアーは大半がこうした「偏った」本の読み手だという。
「本を紹介するって、実はけっこうリスキーなんです。そこを『HONZ』は果敢に攻めている。レビュアーは、みんな自分の好きな本を自腹で買って紹介しています。みんながつまらないと言っても、自分がおもしろければそれでいいやというスタンス。だから今日はご紹介する本の中で1冊でも気に入ったものがあればラッキーだなくらいに思って、気楽に聞いてください」
まず紹介されたのは『HONZ』編集長の土屋敦氏が書評を担当した『弱くても勝てます:開成高校野球部のセオリー』(高橋秀美著/新潮社)。この本は土屋氏が紹介した途端、ネット書店で売り切れとなったという1冊だ。東氏によれば、「『HONZ』の月間ページビューは今年ついに100万を突破」。そこでの書評はすでに本の売り上げを左右するところまできている。
「サイトを開設した頃は1日200人だったのが、今では1日3万人もの方が見に来てくれています。それだけ世の中には本を読みたいという方がいらっしゃるということですね」

読めばおもしろい歴史関連書

月に一度の「朝会」ではレビュアー全員が推薦する本を持参し、討論にかける。その中で、最近、レビュアーの間で話題となったのが『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(岡田曜平著/幻冬舎)だという。最近の日本で「お金を使っている」のは実は地方在住の若い世代。彼らは内向きで地元からは出ないが、早くに自立して結婚し、家族を大切にする、といった共通性を持っている。家族で過ごすために車を購入し、週末にはショッピングモールで買物をする。好きなアーティストはB'zやEXILE。彼らによって地方の経済は潤っている。読んでみると「えー、そうだったのか」(東氏)という目から鱗の1冊だ。
「歴史が好き」という麻木氏が勧めるのは『三くだり半と縁切寺 江戸の離婚を読みなおす』(高木侃著/講談社)。「三くだり半」といえば、夫が妻につきつける離縁状。だが、実はそれは女性にとっても「アホ亭主と別れて再婚するためのパスポート」であった。そこには積極的に生きた江戸時代の女性の姿がある。この本が江戸時代の夫婦の在り方を教えてくれるのに対し、『歴史人口学で読む江戸日本』(浜野潔著/吉川弘文館)からは、江戸時代の家族が見えてくる。この本を読むと、江戸時代の日本人が想像以上に各地を移動していることが窺える。家に縛りつけられるのは長男だけ。次男以下は生きていくために見知らぬ土地へと行き、そこで身を立てていた。そして土地によって家族構成や嫁入りの時期などにも隔たりがあった。
「世の中には伝統的な日本の暮らしってこういうものなんでしょっていう見方があるけれど、本当にそうなのか。そうではない生き方があったということをこの1冊は教えてくれます」(麻木氏)
続いては近代日本を描いた2冊、『戦争と見世物 日清戦争祝捷大会潜入記』(木下直之著/ミネルヴァ書房)、『詩歌と戦争 白秋と民衆、総力戦への「道」』(中野敏雄著/NHK出版)を紹介。前者は著者がタイムスリップして明治27年の東京で開かれた「祝捷大会」に潜入したという設定で、その様子を活写したもの。清国兵を模した「生首提灯」をぶら下げて勝利を祝う日本人の姿は可笑しく見える。後者は大正デモクラシーを経験していながら戦争=総力戦という暗黒の時代になぜ日本人が突き進んでしまったのか。そのからくりを童謡作家である北原白秋の軌跡を追いながら解き明かしていくという隠れた名著だ。

『HONZ』を参考に、読書を楽しんでほしい

話が歴史で盛り上がったところで、東氏、麻木氏、双方が「買うんだったらこれを買って」と取り上げたのが『仕事に効く教養としての「世界史」』(出口治明著/祥伝社)。著者の出口治明氏は博学なことで知られているライフネット生命保険会社の会長。語り下ろしスタイルの同著では、何の資料も使わずにその博識と公平な視点を披露している。
「この本をハブにすれば日本史も世界史もわかる。私たちは日本というと日本のことだけを考えるけれど、世界はリンクしているんですね。内向きの視線がいかにみみっちいか、痛感させてくれます」(麻木氏)
「視点がすごくフェア。高校の教科書にしてほしい本です」(東氏)
歴史関連書のあとは料理本、さらに『HONZ』の本棚に並んだ本のうちの数冊を紹介。世の中のノンフィクションには明らかに取材不足のものや、特定の団体や組織への利益誘導型のものがあったりするが、「『HONZ』で紹介する本は注意して選んだものばかり」(東氏)、「少なくとも読んで騙されたという本はないはず」(麻木氏)だという。
あとは「自分が何に興味があるか。書評を参考に選ぶといいです」(東氏)
最後は「夢」についてd-laboから質問。
東氏は「70歳までは書評家として本を読んでいたいですね」。麻木氏は「私は病気をしたり波風のある人生でしたので、これからは自分に正直に、好きな本だけを読んだり、つきあいたい人とだけつきあっていきたいですね」。 「本について語るのは楽しい」と両講師。今後の『HONZ』に注目していきたい。 

講師紹介

東 えりか,麻木 久仁子

東 えりか (あずま えりか)
HONZ副代表 ・ 書評家

信州大学農学部卒。動物用医療器具関連会社の開発部に勤務の後1985年より小説家・北方謙三氏の秘書を務める。 2008年に書評家として独立。「小説すばる」「新刊展望」「ミステリーマガジン」などでノンフィクションの書評担当。現在は小説の書評の仕事と半々。「NEWS本の雑誌」の記者でもある。好んで読むのは科学もの、歴史、古典芸能、冒険譚など。

麻木 久仁子 (あさぎ くにこ)
タレント

学習院大学法学部中退。ソファーに寝そべって本を読んでいる時が至福というインドア派。好きなジャンルは歴史物。