スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2014年3月28日(金) 19:00~21:00

向谷 実 (むかいや みのる) / 音楽プロデューサー、音楽家、会社経営者

知られざる鉄道音楽の世界

鉄道は音に溢れている。駅に近づくと、券売機の電子音や自動改札機の開閉音とチャイムの音が聞こえてくる。改札を抜けると構内アナウンスや電車の走行音に発車メロディも。数多くの音がサラウンドで迫ってくる。鉄道の音は身近であるが、それぞれの音にどんな意味があるのかまではあまり知られていない。今回は、自身も発車メロディを作曲した向谷氏をお招きし、鉄道の音の深い世界をご案内いただいた。

音楽と鉄道、少年時代に魅了されたもの

講師の向谷実氏は、フュージョンバンド『カシオペア』のメンバーとして長く活躍してきたミュージシャン。現在は音楽家、音楽プロデューサー、会社経営者として活躍中。また同時に、「熱狂的な鉄道ファン」でもあり、駅の発車メロディの作曲や演奏、運転シミュレータの開発、製造などで知られている。
では、なぜミュージシャンになったのか。鉄道に興味を持ったのか。まずは「4歳のときには譜面を見てモーツァルトを弾いていた」という自身の軌跡から語っていただいた。
「僕がピアノを始めたのは父親の影響。音楽好きだった父は、学徒動員で戦争に行き、戦後はシベリアに4年間抑留されるという苦労を積みました。そんな父にとって息子に音楽をやらせる時間は、自分がいちばん平和を感じることのできる時間だったのだと思います」
生まれ育ったのは世田谷の二子玉川。遊園地や映画館のある街は、そこに育った少年をエンターテイナーに導いた。また、鉄道が交差し、第三京浜道路や東名高速道路のインターチェンジにも近い二子玉川は、日本のモータリゼーション、高度経済成長を肌で感じる場所でもあった。「駅が地上になったり地下になったり、地上を走っていた電車が地下を走るようになるのを見ているうちに鉄道に興味を持ったんです」
ことに大ファンとなったのが『SL=蒸気機関車』だった。中学のときにはカメラ片手に遠出をして「SLの追っかけ」をした。D51などのSLは重厚かつ勇壮なその姿も魅力的だったが、何よりも惹かれたのは「音」だった。汽笛や「ポッポッ」という「ドラフト音」、レールから響く「ジョイント音」……SLにはそうした何種類もの「音」があった。
「もっと小さい頃は、運転席の真後ろでガラス越しに聞く運転士の声や指さし確認が気になっていました」
「出発進行」などの合図や確認。向谷氏によれば「民営鉄道の中では東急と京急と小田急が比較的聞きやすい」。「熱狂的な鉄道ファン」ならではの観察に、会場には笑い声が響いた。

こだわりに満ちた「D51運転シミュレータ」

参加者を湧かせたところで「本業の話」。埼玉県の大宮にある『鉄道博物館』。ここには向谷氏の経営する会社が製作した電車やD51の運転シミュレータが設置してある。来館者に大人気なのはD51のシミュレータ。これはD51の運転室を忠実に再現。ほぼいっさいの手順を省略せずに、機関士の乗務が体験できるという本格的なものだ。シャベルを使っての火室への投炭は、赤外線センサーでどう石炭がくべられたかを確認。機関士は汽笛を鳴らし、逆転機や加減弁、ブレーキを操作して機関車を発進させる。SL独特の狭い窓を流れるのは実際に撮影したJR釜石線の景色。走行中は動揺装置による振動が発生。10箇所に備え付けられたスピーカーからは左右の動輪やボイラー内部、コンプレッサー、給水ポンプ、インジェクター、ブレーキ、汽笛などが奏でる音が響く。余談だが、これを見たイギリスの王立鉄道博物館の館長からは「君たちは気が狂っている」という「最高の褒め言葉」をもらったという。
「モノ作りはこだわればこだわるほど商品価値が上がる。3万人が見て3人しか気付かないようなものを作ることがコツです」
ネットが普及している今は、そのたった3人の目利きが「こんなことをやっているよ」とSNSなどで拡散すると、「たちまち50万人に知れ渡る」。1回500円のD51シミュレータには指導機関士が常駐。初めての人でも気軽に楽しめる。が、そこは人気の『鉄道博物館』。「土日は秒殺」で予約が埋まる。狙い目は平日の早い時間だ。
いくつもの運転シミュレータを世に送り出してきた向谷氏。その最新作が大阪府枚方市の「くずはモール」における旧3000系のデジタル動態保存だ。これは「テレビカー」として人々に親しまれた京阪特急の車両を展示したもの。通常の車両展示と違うのはモーター音や発電機、コンプレッサーなどの「音」が鳴るところだ。前方のスクリーンには実際の線路を走る映像が。横の窓にもそれに同期した映像が流れる。電車は時速105kmまで加速。そこで味わえるスピード感は、引退した車両をただ置いてあるだけの他の展示とはまったく違う。これが向谷氏の「こだわり」だ。

「発車メロディ」づくりの極意は「曲を終わりきらない」こと

休憩を挟んでの後半は、2004年の九州新幹線開業時から始まった「発車メロディ」づくり。向谷氏が最初にJR九州から依頼されたのはゲームソフトの制作だったという。
「そのとき、なにげに発車メロディはどうなっていますか、と担当の方に訊いたんですね。聴かせてもらうと平凡なものだったので、翌日、自分で作ったものを送ってみたんです。」
これが「発車メロディ」の作曲者としての第一号の仕事となった。九州新幹線に始まり、阪神電車や京阪電車、相模鉄道、東急東横線……今では向谷氏の演奏する「発車メロディ」は大都市を中心に至るところで耳にすることができる。
発車メロディを作曲するとき、一貫しているのは「曲を終わりきらない」こと。
「電車を利用するお客さんは、仕事に向かったり、家路についたり、旅行に出かけたりと、必ずこれから何かがあるから乗るんですね」
だから、「音楽が勝手に終わらせてはならない」。また、ここで大事なのは奇数の拍子を使うことだ。偶数の拍子、とくに4拍子の音楽は動きが安定するが、ワルツなどに見られる3拍子は「落ち着かない」。ただ、その方が人間は「リズムを感じエモーショナルに動ける」。聞き惚れる音楽ではなく、「乗りましょう」と促す音楽が発車メロディには求められる。例えば京阪電車の一般(通勤用)の場合は、上り下りで曲は変えたが、拍子は3拍子に統一した。博多ー鹿児島間で開通した九州新幹線では「8分の5拍子を3回繰り返して4回目に8分の6拍子が来る」、初の「変拍子発車メロディ」に挑戦した。ジャズフェスティバルが開催される相鉄線の二俣川駅では徹底的にジャズ風に。地下の渋谷駅から地上へと出て行く東横線では「ぐーっと上がって行くのを表現しました」。
「発車メロディは、乗っていただくみなさんに、『あ、今日はいい一日になるな』と思ってもらえるようなものにしたいですね」
毎日が「わくわくしている」という向谷氏。『夢』は「世界で国内で、いろんなジャンルに挑戦する熱い男として生きていくこと」だ。
「みなさんも一緒に熱くなりましょう」という向谷氏のメッセージとともに、2時間のセミナーは幕を閉じた。  

講師紹介

向谷 実 (むかいや みのる)
向谷 実 (むかいや みのる)
音楽プロデューサー、音楽家、会社経営者
1956年 東京都生まれ。ネム音楽院(現:ヤマハ音楽院)のエレクトーン科卒業。 日本を代表するフュージョンバンド「カシオペア」に20 歳のときにキーボーディストとして加入。2010 年よりインターネットでの動画配信を積極的に行っている。熱狂的な鉄道ファンであり、世界初の実写版鉄道シミュレーションゲーム「Train Simulator」を株式会社音楽館の代表として開発。多くの媒体で延べ30タイトルを発売。各地の発車メロディや車内BGM の制作も担当。コラムの連載(日経ビジネス・オンライン)や、情報番組のコメンテーターとして出演するなど、活躍の場を広げている。