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イベントレポート

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2014年4月10(木)19:00~21:00

坂本 文武(さかもと たけふみ) / Medical Studio代表理事
立教大学21世紀社会デザイン研究科准教授

「良医」の条件
-診察室を飛び出すお医者さんたち-

現代は慢性病の時代といわれ、病院で治す医療から、自宅で完治の難しい病気と長くつきあっていく医療に移行しつつある。病院の「名医」に加えて、地域で患者さんの健康や暮らしに伴走する「良医」がかつてないほどに求められており、往診をしながら健康なまちづくりに関わるお医者さんも増えている。セミナーでは選りすぐりの63人の「良医」の生まれ育ちから仕事ぶりや資質までを詳しく調べた研究結果を参考に、現代版「良医」の条件を考える機会となった。

急性期医療から慢性疾患医療へ

本日のセミナーは一般的に「かかりつけ医」と呼ばれる「町のお医者さん」がテーマ。講師の坂本文武氏は立教大学准教授であると同時に、「持続可能なケアを地域主体で創り上げる医療者を教育で支援する」ための非営利法人『Medical Studio』の代表理事として活動している。
「今回は、『これからのお医者さんはどうあるべきか』、『こういうお医者さんがいたらいいよね』という話。『Medical Studio』の活動を通して気付いたことをお話ししたいと思います」
まずは医療現場の現状を解説。いままでの日本の医療は急性期医療が中心。患者は「病院に入院し、治療を受けて自宅や地域に戻るもの」であった。が、最近では少子高齢化で人口構造が変わり、慢性疾患がクローズアップされている。慢性疾患の特徴は、緊急性は薄いものの、「なかなか治らない」、そして「特効薬がない」こと。ただし、うまく付き合えば入院せずに自宅で過ごすことができる。国民が高齢化すれば慢性疾患の患者は増えるのが当たり前。これに対応し、国は病院のベッドは増やさずに自宅で病気と「付き合っていく」ための政策を進めている。日本は医療の質は世界の中でもトップクラスだが、他の先進諸国と比べると人口あたりの医師の数が少ない。しかも専門分化が進んでいるため、日本人の1年間あたりの医療機関での受診回数はOECD加盟国の平均値が6.5回なのに対し、14回と多い。医療機関の「パンク」を防ぐためにもこの政策は推進すべきだろう。

地域医療に求められる「ジェネラリスト=良医」

「パンク」の原因のひとつは、実は「日本の医療の素晴らしいところ」でもある。日本の医療は「フリーアクセス制度」。患者はどの病院にかかるか、自分で自由に選択することができる。例えばイギリスやフランスでは、病気になると、まず定められた地域のドクターのもとへ行かねばならないが、日本では小さなクリニックでも大学病院でも、好きなところで受診が可能だ。
「日本の医療機関は主に一次から三次まで、3つに分かれています。一次医療は小さな町医者。二次医療はいわゆる普通の病院。救急車で運ばれるのはだいたいこの二次医療の病院です。そして三次医療は、高度医療機関である大学病院です」
患者は風邪ひとつでも、自分が望めば大学病院で診察を受けられる。実際、慶應義塾大学病院や東京大学病院でも来院患者の3割は風邪の患者だという。その結果、何が起きるかといえば、「60分の待ち時間で3分診療」という事態。これは「医療システムとしてはあまり健全ではない」。ここで注目したいのが一次医療=プライマリーケアに携わる「町のお医者さん」だ。世の中に病気は数知れずあるが、実際に多くの人がかかる病気は40種ほどに限られている。もし一次医療機関にこの40種の疾患に対応できる医師がいれば、たいていの健康不安はその医師のもとへ行けば解決できる。坂本氏も子どもの頃は、「祖父から私まで、家族全員で一人の先生にかかっていた」という。自分の専門だけでなく、頭痛や腹痛から外科的なことまで領域横断できる医師=ジェネラリストであれば、そうした診療は可能だ。そして、慢性疾患への対策や国家予算の30パーセントという医療費の削減が急がれる今の日本にとっては、こうした医師こそが求められている。しかし、日本の医療は専門分化が進みすぎたため、ジェネラリストの医師が諸外国に比べて少ない。これからは高度な専門性と技術を持つ大病院の「名医」だけではなく、地域の人々を対象にしたジェネラリスト=「良医」が必要。しかも高齢化が進む現在、福祉介護などの分野との連携や、地域の医療従事者同士のチームプレイが求められる。昔で言う「赤ひげ先生」は確かに頼りになるが、もし先生自身が倒れてしまったら持続可能な医療は実現しない。そのためにも、ちょっとした病気から看取りまでを支える「多職種連携」のシステムの構築が大切だ。

情熱的に活動している「良医」たち

では、現実にそうしたジェネラリストの「良医」は日本に存在するのか。答えは「いる」。セミナー後半ではそうした「良医」に対するアンケート結果の「速報」を紹介。それぞれの地域で活動する63名の「良医」や医療従事者がどういう志をもって地域医療に取り組んでいるのか、その姿を紹介していただいた。
対象となった医師の平均年齢は47歳。男性が8割で女性は2割。その生活は医療行為である「仕事」と、それに関連する「活動」で占められている。取り組んでいるのは地域包括医療。労働時間は週に70時間と、一般的なサラリーマンの約50時間に比べるとずいぶんと長い。この数字からもこうした医師たちが精力的に仕事と活動に向き合っていることがわかる。なかでも「情熱的に取り組んでいること」は、「患者や利用者、その家族から信頼を得ること」。「患者の生活の質向上に貢献したい」、「目の前の患者のために何かをしたい」、どの回答者もそうした想いをもっている。そして「今後取り組みたいことは?」という質問に対していちばん多いのが「まちづくり」という答え。それを行なうにはやはり「持続的な仕組み」が不可欠だ。
アンケート結果をまとめてみると、ジェネラリスト=「良医」に共通しているのは以下の点。
「越境性(仕事だけにとどまらず、ネットワークも広い)」、「外向き志向」、「積極性&柔軟性」、「協調志向、聞き上手」、「(自身の生き方に対する)満足感が高い」、「悩み(課題)は同じ医療従事者との関係、拡大策」。ここから見えてくるのはタフで明るく、熱心で真摯な医師たちの姿だ。
「速報」発表後は質疑応答。会場には『Medical Studio』創始者の野崎英夫氏をはじめ医師など医療従事者も多数参席。現場に向き合うプロの立場から、また患者の立場からさまざまな質問や意見が寄せられた。一般の参加者にとっていちばん気になるのは「良医の探しかた」。これはとにかく試してみて、「相談に乗ってくれる先生」かどうかを自分で見極めるしかない。ただし、地域医療の現場にはそうした熱心な先生が相当数存在する。「良医」に出会える可能性はけっして少なくはないはずだ。
セミナーの最後は坂本氏の「夢」。
「私の夢は野崎と同じ。人が愛する人と暮らして、自分がしたいことをするために、健康の伴走者となるお医者さんに出会える世の中をつくりたい。それを実現させたいですね」
「健康の伴走者」となるのがお医者さん。d-laboは「夢の伴走者」として夢の実現に向けてさまざま価値を提供していきたい。

講師紹介

坂本 文武(さかもと たけふみ)
坂本 文武(さかもと たけふみ)
Medical Studio代表理事
立教大学21世紀社会デザイン研究科准教授
診察室でも患者さんの自宅でも、どんな病気も診ることができ、健康なまちづくりに貢献できるお医者さんの育成を目指す非営利法人Medical Studioの代表理事。立教大学では、コミュニティ(地域共同体)や組織の新しい可能性を大学院課程で教えている。専門は、社会志向性の強い組織(NPOなど)の経営組織論。著書に『NPOの経営』、『ボーダレス化するCSR』、『環境CSR宣言―企業とNGO』など。ガールスカウト日本連盟評議員のほか、厚生労働省や東京都、東京都中野区や神奈川県藤沢市等の行政委員も務める。米国でNPOのためのMBA課程修了。