スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2014年4月15日(火) 19:00~21:00

日本顎咬合学会 (にほんがくこうごうがっかい) / 夏見 良宏・河原 英雄・増田 純一・上濱 正

口から始める健康づくり
- 世界で一番幸福な超高齢社会ニッポンを目指して -

「夢」を持ち、実現に向けて行動するには、何よりも「健康」が大切。しかし、現在、我が国では健康寿命と平均寿命には10年程度の開きがある。高齢社会の中で、夢や活力が失われつつあると言われるニッポン。私たちは世界の誰もが経験したことのない「超高齢社会」を、どのように生き、暮らしていくのか。そして「世界で一番幸福な高齢社会」をどのように創造していくのか?世界中が注目する高齢社会に対する、答えのひとつが「口」の中にあった。

口は「命の入口」

「『日本顎咬合学会』。聞き慣れない名前かもしれませんが、歯科の団体です」
セミナー冒頭、登壇したのは同学会監事の夏見良宏氏と理事長の渡辺隆史氏。この日のセミナーは学会のメンバーが順々に講演するというスタイル。内容はタイトル通り「口の話」。人間にとって「よく噛んで食べる」ことがいかに大切か。現場で患者と向きあう臨床医から生の報告を聞く貴重な機会となった。
「世の中にはさまざまな健康法があります。その中で、今日はいちばん安くて健康になる方法をお伝えします。それが噛むことなんです」(夏見氏)
当たり前のことだが、人間は「生きるために食べる」。口は「命の入口」だ。食べるとき、人は「目で見て、匂いを嗅いで、口に入れて、それが過去の経験で安全かどうかを脳が判断し、咀嚼し、嚥下して胃に入れる」。その間、脳は活発に動いている。この脳の働きが健康に役立つ。だから、食べるための歯は大事にしなければならない。ここで登壇したのは大分県の佐伯市で歯科医院を営む河原英雄氏。河原氏の地元では、歯を失って総入れ歯になっている高齢者が少なくない。なかには歯周病(ペリオ)を患う人も多い。歯周病は単にそれ自体に留まらず、「ばい菌が血管を通って脳や臓器にまわるといろんな病気を引き起こす」という。
「いわゆるペリオシンドローム。こうなると噛めない、話せない、笑えない、の三重苦。脳血管に障害が出て寝たきりの生活になったり、認知症の症状が現れたりもします」
モニターにはそうした患者の様子を映した動画が。最初は寝たきりで「要介護5」の患者が河原氏の医院を訪れ、入れ歯を使い始める。それまでは食べることができなかった固い食べ物を口に入れ、忘れていた咀嚼を思い出す。すると食が進み、短い年月のうちに失っていた身体の機能を回復させ、ついには自分で車を運転して来院するようになった。歯医者に通っただけで、なぜこうも劇的に変化するのか。その答えは「噛む」ことにある。

離乳食の時期に教えたい「よく噛んで食べる」こと

「人間の脳は噛むことによって刺激を受けます。その刺激は感覚野や運動野、海馬、前頭前野、線条体などに伝わります」
刺激を受けた脳はドーパミンを出し、「やる気」や「意欲」をもたらす。ちゃんとした食事がとれれば、栄養状態も改善する。こうなると身体は機能を取り戻し始める。
ここでポイントとなるのが「噛みあわせ」だ。入れ歯を作っても噛みあわせが悪ければよく噛んで食べることはできない。歯科医はこの点に注意して、噛みあわせが正しくできる入れ歯を患者に提供しなければならない。
「調整すれば健康保険が適用される安い入れ歯でもしっかり噛むことはできます。これは歯科医の責任です」
ちなみに総入れ歯は「寝ているときでもしていること」。入れ歯をはずすとバランスが崩れて転倒しやすくなるからだ。
「元気でいたい人は口の中を清潔に。もし歯をなくしたら噛みあわせのいい入れ歯を作ること。それが健康長寿の秘訣です」
次いで登壇したのは佐賀県の武雄市で小児歯科を経営する増田純一氏。常日頃、子どもの歯を診ている増田氏が着目しているのは0歳から3歳までの離乳食。まだ乳歯の生え揃っていないこの時期からでも「噛む」ことは大切だ。子どもの脳はどんどん発達して神経回路をつくっていく。まだ歯が1本も生えていない無歯期でも、正しい食べ方をさせている子どもの脳はすこやかに成長する。離乳食の初期段階、1歳児ならば口唇を使うことが肝心。スプーンで食事を与えるとき、よく口の中へと運んでしまう親がいるが、それはNG。スプーンで与えるときは口の前に持っていき、唇を動かすことを覚えさせる。この「唇を鍛える」行為がその後の「よく噛む」につながっていく。前歯が出てくる頃になったら、その前歯で噛むことを教える。この前歯期は脳の前頭前野がいちばん発達する時期にあたる。そして奥歯が生えてきた時点で咀嚼が始まる。このときに役立つのが奥歯の下にある歯根膜だ。この歯根膜は脳幹につながっていて、前述した脳の各部位に刺激を与える。この刺激が多い子は脳が発達するため、しっかりした思考能力を持ち、理性的で感情のコントロールができる、「人間力があって笑顔のきれいな大人」に育つ。そして食べ物を飲みこむときは「舌を上あごにくっつける」ことも忘れてはならない。舌をしっかり上げきらないと歳をとったときに誤嚥の原因になるし、睡眠時無呼吸症候群も起こしやすくなる。
「よく噛める、いい飲みこみができる子は意欲や集中力の備わった立派な若者になります。そのスタートは3歳までにある。お子さんにはできるだけ、しっかり噛むという習慣をつけてあげてください」

口腔ケアは健康維持と機能回復の第一歩

最後の講演者は次期理事長である上濱正氏。「健康を山にたとえるならできるだけ高く、2,000メートル級にしましょう」と訴える上濱氏が注目しているのが口腔と脳を結ぶ三叉神経などの脳神経。全部で12ある脳神経のうち口腔につながるものは6つ。それだけ口は脳とつながっている。もとは製薬会社に勤務していた上濱氏によれば「脳に薬を取り込んで健康にすることはかなり難しい」。だからこそ、脳に刺激を与えることのできる口腔機能は健全な状態に保たれなくてはいけない。
「食べる喜び、話す喜びといった生活の質を向上させるには口が元気でないといけない。そのためにも子どもの頃はコンビニ弁当などに頼らず、おいしいものをたくさん食べさせて、よく噛んでよく味わう習慣をつけましょう。元気な身体をつくって健康貯金をする。日本が世界でいちばん幸せな国になるためには、口から健康になることが必要です」
最後は「3年間寝たきり状態だった人」が口腔ケアによって身体機能を回復させていく姿を動画で紹介。
『日本顎咬合学会』の会員は全国の臨床医。
「歯医者さんはこれまでは形態の修復に特化していましたが、いまは身体全体の機能回復を意識するようになりました。歩けなくなった人に歩行機能を回復させ、なおかつ咀嚼を取り戻すことができるのは歯科医だけです」
登壇者全員の「夢」は「健康でいきいきした社会をつくること」。まずは口の中を清潔に。幸福の元は毎日の口腔ケアにある。

講師紹介

日本顎咬合学会 (にほんがくこうごうがっかい)
夏見 良宏・河原 英雄・増田 純一・上濱 正
7,000人余りの歯科開業医、約1,000人の歯科技工士・歯科衛生士で構成されている国内最大規模の臨床歯科医学学会。「噛みあわせの重要性」を訴える活動を各地で積極的に展開している。