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2014年4月24日(木) 19:00~21:00

小林 啓倫(こばやし あきひと) / 経営コンサルタント

2064年のメディアを予測する
‐マーシャル・マクルーハンと『メディア論』‐

いまから半世紀前に、ソーシャルメディアやビッグデータ、ネット炎上を予想していた理論家がいた。その人の名はマーシャル・マクルーハン。英文学の研究者でありながらメディア論の大家として一世を風靡し、嵐のように去って行った人物である。今年はマクルーハンの主要著作のひとつ『メディア論』が出版されてから、ちょうど50年の節目の年。メディアの本質を捉えた彼の理論は50年経過した今でも色あせず、現代のメディアを理解する上で、大きく役に立つ内容になっている。今回は、『メディア論』を中心にマクルーハンの理論を分かりやすく解説した『今こそ読みたいマクルーハン』の著者・小林氏をお招きし、これから50年先、2064年のメディアについて考える機会となった。

50年後のメディアを予測してみる

セミナーの最初に小林啓倫氏が見せてくれたのは、アメリカの『MUSEUM OF MEDIA HISTORY』という組織が制作したとされる映像=『EPIC2014』。2014年現在からメディアの歴史を振り返るといった内容は、1994年のアマゾン設立から始まり、グーグルとマイクロソフトの覇権争い、2014年のニューヨークタイムズの「記事情報を流用されることに対抗して、すべてのコンテンツをオフライン化する」といった動きまでをモノローグで追っている。途中、小林氏からは「おやおや、と思っている方がいたら正しいです」といったコメントが。確かに見ていると、2000年代初めまではともかく、半ば以降は「あれ?」と思うような話がつづいている。
「実はこの映像は、10年後のメディアの未来を予測して2004年に制作されたものです。現実にはニューヨークタイムズはオフライン化などしていないし、ここにはフェイスブックの登場も予想されてはいない。たった10年先を見通しただけでも、かなりのことが間違っているんですね」
では、メディアの未来を予測するのは難しいのか。「そんなことはない」と小林氏。
「メディアの根本的なところを考えれば、未来はある程度想像できるはずです」
そこで参考となるのが、メディア論の大家であるハーバート・マーシャル・マクルーハンの考え方だ。「メディアはメッセージである」、「あらゆるテクノロジーがメディアである」、「メディアは我々の身体を拡張する」といった独特なメディア論は、1960年代から70年代にかけて「マクルーハン旋風」を引き起こした。今年はその代表作『メディア論』の刊行50周年。
「今日のセミナー『2064年のメディアを予測する』は、『メディア論』の刊行50周年に合わせて、それなら50年先はどうなるのか一緒に考えてみましょうというのが趣旨です」

参考にしたいマクルーハンの「物の見方」

半世紀経った今も古さを感じさせないマクルーハンの理論。それはなぜか。「メディアの本質を捉えているから」と小林氏は語る。メディアというと日本人はつい新聞やテレビなどのマスメディアを想像しがちだが、ここで言うメディアはもっと広い意味を持つ。メディアとは「媒体」。すなわち「人とその周囲の世界との間にあるもの」と思えばいい。そういう意味では、マスメディアはもちろん、電話も言語も携帯電話も車の車輪もライフル銃も、すべて「メディア」だ。マクルーハン的に考えれば、「あらゆるテクノロジーはメディア」。そして「メディアは人間の身体を拡張するもの」でもある。例えば「車輪」は人間の足が「拡張」したもの。獲物を狩るライフル銃とその弾は「目と歯」を「拡張」している。さらにマクルーハンは「身体を拡張することによって人間の感覚は変わる」と主張している。
「わかりやすく言うと、車を運転しているときの感覚。慣れてくると車体の大きさを感覚で捉えて運転できるようになりますね」
感覚の変化は世界認識の変化、社会の変化にもつながる。
「マクルーハンは人類の歴史の中で、人間はふたつの大きな変化を体験したと語っています。ひとつは『文字』の登場。もうひとつはグーテンベルクの『活版印刷』です」
文字を持たぬ石器時代、人類は目や耳からの情報に頼っていた。そこではさまざまな情報が同時多発的に全方位から入ってくる。ところが、文字が発明されてからは、「書かれている文字を順序立てて読んで情報を得る。同時多発的に情報が入る世界から、ある方向に従って情報が流れる世界へと人間の意識が変わった」。文字による情報は、やがて教育やマスメディアの普及とともに共有化され、18~19世紀には国民国家が形成された。こうして眺めてみると、人類の進歩は常にメディアによる身体の拡張と感覚の変化、世界認識の変化、そして社会の変化とともにあったことがわかる。
最後の著書の中でマクルーハンは「テトラッド=4つ組」という理論を唱えている。
これはメディアの効果や影響を「強化」、「回復」、「反転」、「衰退」の4つの面で見るというもの。小林氏が「実例」として挙げたのは「ワイン」。ワインという多くの人に愛されている酒が「強化」するのは、食事やイベント。「回復」させるのは、人間的な会話や陽気なコミュニケーション。食事を楽しくし、素晴らしい時間を与えてくれるワイン。しかし飲み過ぎた場合は「反転」し、人に無礼な態度をとらせたり二日酔いになったりする。またそうした場合は理性や抑制力が「衰退」する。こんなふうにメディアというものは優れた面がある一方で、必ず副産物を生み出す。こうしたマクルーハンの理論は、未来を予測するときの手助けとなってくれる。
「マクルーハンが残してくれたものでいちばん役立つのは物の見方。実用的なことは何も言っていないけれど、50年後の私たちに新しい視点を与えつづけてくれているんですね」

バックミラー=過去は見ずに目の前のものに向き合う

セミナー後半は未来の予測。ここでは「自分の身体に近づくウェアラブル技術」と「逆に身体から遠ざかる技術」、「3D技術」の3つの立脚点から2064年の未来を予測してみた。1つ目のウェアラブル技術の代表例は万歩計や時計、眼鏡、コンタクトレンズ、小型カメラなど。これらの「メディア」がデバイスとして進化し多機能化すれば、料理や医療などの分野で素人が専門家並のスキルを持つことも夢ではない。2つ目は、ロボットやテレプレゼンス技術の発展により、「あたかも地球の裏側に自分の肉体を置けるかのような時代」になるというもの。3つ目は3Dプリンターの進歩。直接触れられる3次元の物は2次元よりも人間の理解力を高めることができる。50年後の世界では3Dでコミュニケーションすることが当たり前になっているかもしれない。
「マクルーハンは言っています。〈われわれはバックミラーを通して現代を見ている。われわれは未来に向かって、後ろ向きに進んでゆく〉と。しかし彼自身は過去にあったものから新しいものを類推せずに本質を見ていました。スマートフォンのようなものが出てくると、人はつい過去の経験からそれを理解しようとしますが、なるべくそうしたバックミラーは見ずに、ちゃんと目の前のものに向き合って考える必要があるでしょうね」
小林氏の「夢」は「多くの外国語を学ぶこと」。「マクルーハンは言葉もメディアと捉えていました。確かに日本語以外の言語、つまり別のメディアで考えると出てくるアイデアが違う。新しい言葉を学んで、新しいことを想像したいですね」

講師紹介

小林 啓倫(こばやし あきひと)
小林 啓倫(こばやし あきひと)
経営コンサルタント
1973年東京都生まれ。筑波大学大学院修士課程修了。システムエンジニアとしてキャリアを積んだ後、米バブソン大学にて経営学修士号を取得。その後外資系コンサルティングファーム、国内ベンチャー企業を経て、2005年から国内コンサルティングファームに勤務する。著書に『災害とソーシャルメディア』、『今こそ読みたいマクルーハン』(マイナビ)、訳書に『3Dプリンターが創る未来』(日経BP)など多数。個人ブログ「POLAR BEARBLOG」は2011年度のアルファブロガー・アワードを受賞している。