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イベントレポート

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2014年5月29日(木)19:00~21:00

内藤 克(ないとう かつみ) / 税理士・税理士法人アーク&パートナーズ 代表

知っておきたい相続・遺言のお話
~相続大増税にそなえて~

近年クローズアップされてきた相続。とくに相続税は来年からの税制改正により課税対象となる人が2倍になると言われている。この改正により「うちには相続税なんて関係ないよ」から「うちは相続税いくらかかるの?」という時代になり、今まであまり意識しなかった法定相続分や遺留分について向き合うようになる。相続対策というとアパート経営などの節税策を考えがちだが、相続対策の基本は①モメない遺産分割②納税資金の確保③生前贈与を中心とした節税の3要素のバランスを取ることが大切。今回のセミナーでは、相続税の仕組み、税務署に否認されない生前贈与の仕方、モメない遺産分割(遺言)を中心に、どこの家庭でも起こりうる例を用いながらわかりやすくお話しいただいた。

来年から課税対象者が増える相続税

来年の1月1日から基礎控除額が引き下げられる相続税。これによって今は全国平均で100人に4人と言われている課税対象者が100人に8人となるという。今日のセミナーは、税金の中でもとくに相続税をテーマに、弁護士や司法書士と協力して活動をつづけている内藤克氏が講師。内藤氏によれば「基礎控除額の引き下げ」は「実のところ税率のアップ」。たとえば妻1人、子ども2人の場合、現行は8,000万円の基礎控除額が4,800万円となる。もし「山手線の内側に持ち家がある」としたら、100人に20人程度は課税対象となる計算。都市部に住む人間にとってはけっして他人事ではない話だ。
「そこで今日は難しい税金の話ではなく、日常の中で起こりやすい事例を中心に、相続税対策についてのお話をしたいと思います」
まず言いたいのは「相続税計算は簡単ではない」ということ。相続税に関して税理士事務所に相談に訪れる人は、たいていの場合、「自分にどれだけ相続税がかかるのか」を知りたがる。これが相続する資産がすべて把握できていて法定相続人の人数が1人しかいない、といった単純なケースならいい。しかし、ほとんどの場合、わかっているのは「自分がもらう予定の財産」だけ。法定相続人の人数と、現金や不動産などの財産がどれだけあるのか。その情報がなければ税額の計算は難しい。
さらに事を複雑にするのが生前贈与などの「特別受益額」だ。遺産分割は、死亡時の財産のみを分割するのではなく、生前贈与分も加味して考えることが基本。兄弟が3人いるとして、うち2人が何らかの形で親から生前贈与を受けていた場合、その分の額は差し引かれて然るべき。とはいえ、人間は「もらったものは忘れるもの」。ここでトラブルが起きたりすることは珍しくない。

「相続対策の3原則」とは

「よく聞くのは、うちは大丈夫、という言葉です」
「うちはみんな仲がいいから」、「たいした財産はありませんから」、「長生きの家系ですから」、「すでに話はついていますから」、相続税について語るとき、多くの人はこんな言葉を口にする。だが、事例を見ると仲がいいはずの兄弟に骨肉の争いが起きたり、相続財産を巡って揉めたり、親の介護の問題で家族に不平等感が生まれたり、あるいはまとまっていた話が配偶者の一言でひっくり返ったり、そういった例は溢れるほどある。遺産相続のトラブルというと莫大な金額を巡っての争いというイメージ。だが、東京地裁の司法調停に持ち込まれるケースの大半は4,000万円から6,000万円程度の額が多いという。これが現金ならば分割しやすいのだが、家一軒となると大変だ。分けることのできないものは誰かが取得して、残りの相続人にはお金を払うしかない。払う現金が遺産の中になければ「代償分割」という形で自分自身の財産を分けることとなる。それができなければ、家は売るしかない。もちろん、この他に相続人全員に対し「もうひとりの相続人」である国税庁から相続税がかかる。「たいした財産ではない」方が実は苦労が多かったりするのだ。
こうした相続を巡るトラブルが起きるのは全体から見れば1割程度だ。相続人同士で揉めるよりは、一致団結して相続税対策に取り組んだ方が賢いのは言うまでもない。ここで着目したいのが「相続対策の3原則」だ。
「大切なのは〈納税資金の確保〉、それに〈モメない遺産分割〉、そして〈生前贈与などによる節税〉です」
相続税の申告は「相続が発生したことを知った日の翌日から10か月以内」と定められている。納税資金を確保するには「生命保険の加入」や「不良資産の売却」、「延納・物納の準備」、「住宅ローンの繰り上げ返済はしない」等の準備をあらかじめしておくことが大事だ。遺産分割で揉めないためには公証人役場を介しての遺言づくりや、相続人同士の十分なコミュニケーションが必要。また養子縁組をして基礎控除額を増やしたり、教育資金の贈与や建物の修繕、土地の評価額の低いタワーマンションの購入などの生前贈与による節税対策を行なうことで相続税は軽減する。

自筆遺言よりも公証人を通じての公正証書遺言を

セミナー後半は具体的なトラブルの事例をいくつか紹介。遺産分割でよく揉めるのは前述した「特別受益額」が絡む例。これは「法定相続分で分けようとすると必ず揉める」。それと、目には見えない「時間」や「労働」といった「寄与分」を巡ってもトラブルは起きやすい。年老いた親の介護に尽力した子どもが、何もしていない他の兄弟と同じ額しか財産がもらえないのでは、感情的にわだかまりが残る。こうしたことを避けるためには遺言や話し合いで、決めるべきことをしっかりと決めておいた方がいい。その遺言もまた、死亡した当人が書いただけの自筆遺言だと「法務局で却下」されたり、「税務署に目をつけられやすい」という。
「遺言などで、よく妻名義の口座のお金について言及される方がいますが、これは税務署では本人の財産と見なされたりします」
そうなると、当然相続税の対象となってしまう。遺言は、たとえ手間がかかっても「公正証書遺言」とするのがいいだろう。
「あと気をつけたいのは分割協議後の名義変更です。これは課税上は当初の分割内容で確定するため、やり直しなどで名義変更を行う場合は贈与と見なされ、税率の高い贈与税がかかってしまいます」
他に注意すべきこととしては、両親が順に亡くなることで起きる「二次相続」や、自動的に引き継がれると思われがちだがけっしてそうではない「不動産ローン」、兄弟のうちの誰かが納税を怠ることで発生する「連帯納付義務」、相続人の順位が繰り上がって別の人が新たに相続人となる「相続放棄」などがある。
頭の痛い相続税。だが、すべきことをすればこわくはない。「相続人を特定」し、「財産評価と税額試算」を行なう。次に「納税資金を確保」して「遺言で誰にどの財産を渡すかを決める」、その上で問題点を整理して可能な限りの対策を練る。そこで頼りになるのが内藤氏のような税理士だ。
若い頃は「凄腕の税理士」を目指していたという内藤氏。現在の「夢」は「弁護士や公認会計士と連携を図りながら、身近な存在として世の中の人々のお手伝いをすること」だ。

講師紹介

内藤 克(ないとう かつみ)
内藤 克(ないとう かつみ)
税理士・税理士法人アーク&パートナーズ 代表
1962年新潟県生まれ。中央大学商学部卒業。大手税理士事務所勤務を経て1990年税理士登録、1995年独立。その後司法書士、社会保険労務士らと同族会社へのワンストップコンサルティングファーム「アーク&パートナーズ」設立。第一東京弁護士会で相続をテーマに研修会の講師を務めるなど弁護士との幅広いネットワークを活用し相続問題に取り組む。昨年8月、誰でもカンタンに相続税計算ができるスマートフォンアプリ。「スマート相続診断」をリリース。