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イベントレポート

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2014年6月3日(火)19:00~21:00

高井 研(たかい けん) / 独立行政法人 海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長 

ワンピースを求めて世界の、宇宙の海へ

「ワンピース」と言えば全世界の累計発行部数が3億4,500万部を超えるというあのモンスター人気漫画を思い浮かべる人が多いと思います。「ワンピース」は海賊となった少年モンキー・D・ルフィが「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」を探しながら人として成長してゆく海洋冒険ロマンのストーリー。「『ええ歳こいたオッサンが若作りしてワンピースっていうんじゃなーい!』とギター侍に斬られそうな勢いですが、ワリと真面目に海には『ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)』があるような気がするんです!」と語る高井氏。アストロバイオロジストでエクスプローラーでもある同氏にとって、一体何がワンピースなのか?世界の、宇宙の海に挑戦し続ける高井氏の軌跡を辿ります!

日本が誇る世界トップの研究機関である「JAMSTEC」

セミナーは、講師の高井研氏が所属する「JAMSTEC(海洋研究開発機構)」の紹介から始まった。
「JAMSTECは海の研究をしている独立行政法人。気候変動のメカニズムを解明したり、マントルなど地球内部の探査をしたり、海の中の生物についての研究をしています」
本部は横須賀。他に横浜研究所や高知コア研究所、むつ研究所を持っている。「何がすごいかと言えば、地球深部探査船の『ちきゅう』や有人潜水調査船『しんかい6500』、支援母船である『よこすか』などの船を8隻も所有していること。他にもROV(遠隔無人探査器)などが多数あります」
充実した研究施設に探査船、それに優秀な研究者を揃えたJAMSTECは世界でも「ぶっちぎり」でトップの研究所だ。こうした機関を持っている日本人は「誇りに思っていい」。
なぜ海を研究するのかといえば、「人間は海の底のことをほとんど知らないから」。いまやスマートフォンでGoogle Earthを開けば地球上の陸地は手にとるように見える。だが、地球の面積の70パーセントを占める海についてはその地形すらすべて解き明かされてはいない。そして、広大に見える海ではあるが、そこには「実は誤解がひとつある」という。宇宙から見ると青い地球は「水の惑星」。しかし実際には「めちゃくちゃ水がない」星だ。水は地球の表面を薄皮のように張っているだけ。海水、淡水を合わせた水の総量は重量比に直すと地球本体の5000分の1程度しかない。地球という星は、この薄皮のような海を40億年の長きに渡って保持してきた「奇跡的な星」。この環境こそが地球を宇宙の中でも珍しい「生命多様性」の星にしてきたのだという。
「この多様性を導いた原因を知りたいから生物に溢れた海の研究をする。実は地球の内側に行けば行くほど、それは宇宙を研究することにもつながる。生命はどこからきたのか。我々の体はどこから来たか。それを知ることになるんです」

土星の第2衛星エンケラドゥスの海には微生物が存在する?

はるか昔、アリストテレスは「生命は自然発生している」と唱えた。その考えはパスツールがそれを否定するまでの2000年もの間、人類の思考を支配した。それから40年後、スウェーデンのアレニウスは「生命は宇宙から来た」と「ややトンデモ的」に思える説を提唱した。1953年になると、ミラーが原始大気に雷を与えると生命の源であるアミノ酸ができることを証明してみせた。これによりふたたび「自然発生」説が有力となったが、それも束の間、1969年にオーストラリアに落ちたマーチンソン隕石を科学調査したところ、そこに80種類のアミノ酸が含まれていることがわかった。また地球の生物を形成しているL型アミノ酸もわずかに含まれることが判明した。他にも研究の結果、宇宙には思いのほかアミノ酸の前駆体である有機物が満ち溢れていることがわかってきた。こうした有機物を含む隕石などの宇宙の塵は今も地球に1日100トンの割合で降り注いでいる。この宇宙の塵は太陽系が出来た頃となると、現在の1000倍の量だったかもしれない。こうした試算を組み合わせていくと、40億年前の地球では地球で生み出される有機物よりも宇宙から降り注ぐ有機物の方が多かったことが考えられる。つまり、「我々の体は宇宙から来た。宇宙がないと我々は生まれなかったということになります」となると思いつくのは、「地球でなくてもいい」ということ。水や岩石などの条件さえ揃えば、地球外にも生命は誕生する。ここで重要になるのが「熱水のエネルギー」だ。現在の地球のように太陽の光で光合成が可能な星ならともかく、そうした環境を持たない星では生命の誕生や生存には地球の海底にあるような熱水が不可欠だ。事実、地球上の生命も30億年前までは光に頼らず主にこの熱水のエネルギーに頼っていた。太陽系の中で地球以外に水を持つとされている星はエウロパやガニメデ、カリスト、セレス、エンケラドゥスなどいくつかある。なかでも高井氏が注目しているのは土星の第2衛星であるエンケラドゥスだ。探査機のカッシーニによって観測されたこの星の水は、計算上では「羽田沖の海水よりも生命を養うエネルギーに満ちあふれている。1ccでも採取してくれば、そこには確実に微生物がいるはず」だ。
海洋を研究していれば、結局はこうした宇宙の謎に迫ることになる。この地球外の海と生命の探査はNASAでも検討されたという。
「もちろん、できれば日本単独で探査を行ないたい。僕たちはそう考えて動いています」

『しんかい12000』という実現すべき「夢」

海に目を戻せば、現在、JAMSTECが力を注いでいるのは『しんかい6500』の後継となる有人潜水船の建造だ。『しんかい12000』と名付けられているこの新型船は、すでに新聞でも報道されているが、本当のところは「設計図すらない」状況だという。
「今年になってやっと日本学術会議のマスタープランに通ったところ。予算はついていないけれど指針はできたといった状況です」
JAMSTECが考えているのは『しんかい6500』とは違う、まったく新しい技術を用いた画期的な潜水船だ。「12000」という数字はそれを示すスローガンだという。世界でいちばん深い海は水深1万911メートルのマリアナ海溝のチャレンジャー海淵。もし『しんかい12000』が完成すれば「終着点」に到達することとなる。そこで「深さ」の競争は終了。これによって深海の探査は「いかに広く」といった方向にイノベーションが向くはず。それは地球の海を知るという意味でサイエンスにとっても「いいこと」だ。
現実を見れば、『しんかい12000』のような国を動かす数百億円規模のプロジェクトは研究者の「ピュア」な気持ちだけでは実現できない。大航海時代を見てもわかるとおり、冒険や探査は「欲」で行なうものだ。あの時代、人々の欲はまず香辛料に、そして鉱物に、最後は欲よりもむしろ好奇心を満たすための「新生物のコレクション」へと向いた。同様に深海や宇宙を目指す理由はひとつではない。
「欲も好奇心も本能もすべてはひとつなぎの『ワンピース』と捉えるべきでしょうね」
地球外生命の発見に『しんかい12000』、高井氏の夢は「夢を実現すること」だ。
「最後は全世界に向かって、『あれは俺のおかげ』と自慢をする。でも『あなたのおかげじゃないよ』と紙コップを投げつけられる。そういうオチにしたいですね(笑)」

講師紹介

高井 研(たかい けん)
独立行政法人 海洋研究開発機構 深海・地殻内生物圏研究分野 分野長 
1969年生まれ。超好熱菌の微生物学、極限環境の微生物生態学、深海・地殻内生命圏における地球微生物学を経て、現在は地球における生命の起源・初期進化における地球微生物学および太陽系内地球外生命探査にむけた宇宙生物学を研究。1997年京都大学大学院農学研究科水産学専攻博士課程修了。日本学術振興会特別研究員、科学技術振興事業団科学技術特別研究員、米国パシフィックノースウェスト国立研究所博士研究員を経て、2000年独立行政法人海洋研究開発機構(当時 海洋科学技術センター)入所。2005年に地殻内微生物研究プログラムグループリーダーに就任。2014年より現職。第8回日本学術振興会賞(2012年)、第8回日本学士院学術奨励賞(2012年)などを受賞。