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イベントレポート

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2014年7月1日(火)19:00~21:00

安藤 隼人(あんどう はやと) / スマートコーチング代表 日本体育協会認定自転車コーチ

宮澤崇史のスプリント、新城幸也のヒルクライム

自転車は誰でも乗れる乗り物だが、速く走るためには技術が不可欠。今回のd-laboセミナーでは、ロードバイクや競輪のトップ選手のトレーニングをサポートしている安藤隼人氏をお招きし、国内トップ選手で海外でも活躍する宮澤崇史選手(ヴィーニファンティーニ・NIPPO・デローザ所属)と新城幸也選手(チーム ヨーロッパカー所属)が、今年初めに行ったタイ合宿での映像をもとに、トップ選手のパフォーマンス分析とトレーニング方法について、一般の方にも分かり易く解説していただいた。

筋肉は使い方で鍛えられていくもの

この日、d-laboに集まったのはロードバイクを愛好する約30名の参加者。ロードバイク歴を聞いてみると、3~5年、あるいはそれ以上という方々が中心。セミナーは講師の安藤隼人氏のプロフィール紹介のあと、「自転車を漕ぐと足が太くなるでしょうか?」という質問からスタートした。参加者からは「細くなった」、「太くなった」といくつかの声が。そこで安藤氏が参考に見せてくれたのが、太腿が極端に太くなったドイツ人選手の足の写真。膝下の太さと比べると倍はあろうかというその太腿は、まるであとから写真を加工したかのよう。しかし、実際にこうした選手は存在する。次に見せてくれたのは、イギリスの女性選手。こちらは自転車選手とは思えないくらいスラッとした足をしている。
「筋肉というのは使い方で鍛えられ、最適化されていくもの。漕ぎ方によって足は太くなったり細くなったりするんです」
参加者の大半は「レース出場経験あり」。少しでも速く、そして効率的に走りたいという参加者に向けて「ちょっとでも役に立てたら嬉しい」という安藤氏。今回は宮澤崇史選手と新城幸也選手という2人の日本人トップ選手が、どういうフォームでどういう漕ぎ方をしているのか、映像を見ながら解説していただいた。

大切なのは体幹を安定させること

解説の前にまず見せてもらったのは、今年の1月にタイで行なわれた合宿の映像。信号のない道路を列をなして走る宮澤選手や新城選手たち。平地を巡航したり、ときどき加速したり、坂を上ったり下ったり、日本人トップ選手のトレーニングは、映像を見ているだけでも迫力がある。安藤氏の仕事はバイクで選手たちと併走したり、車で追いかけたりしながらデータを取り、それを無線で選手にフィードバック。そして選手の主観を聞きながら「コーチングをする」ことだ。
「私の担当は、『ティーチング』ではなく、あくまでも『コーチング』。宮澤選手や新城選手といった選手たちになると私のレベルを超えています。こういう選手たちには、気付きを与えるだけで十分なんです」
ただし、一般の人間となるとなかなかそうはいかない。普通の人がレースに出ると「今日は調子が悪いと思ったのにいいタイムが出た」とか「絶好調かと思ったらタイムが悪かった」ということがよくある。
「自分の感覚と結果が合わないと、たとえ良いタイムが出ても、なぜそれが良い結果につながったかがわからない。そうなると次のレースで再現することはできませんよね」
もちろんプロ選手でも感覚と結果のズレは生じるもの。しかしトップクラスの選手になるにつれて、そのズレは小さくなり安定してくる。
一般の人は、まずは乗車姿勢やペダリングといった基本をしっかり押さえることが大切だ。
次に映像で見たのは「宮澤選手のスプリント」。全日本選手権でも優勝した経験を持つ宮澤選手はゴール前などで一気に加速する「スプリント」がうまい選手だ。ここではその宮澤選手のペダリングや姿勢を検証。「どこでペダルを踏み始めているか」、「頭や身体の位置は」といった点に注目してその走りを見てみた。参加者の1人に感想を聞いてみると「私のスプリントはいわゆるガチャ踏みなのですが、宮澤選手はまず体がびしっと安定している」とのこと。こうした走りはプロなら誰でもできるかというとそうでもない。スプリントをかける瞬間の映像を見ると、プロでも上半身が安定せずに揺れている選手がいる。これでは腕が力んでしまうし、ペダリングも踏むポイントがずれてきてロスが出てしまう。
「大切なのは体幹を安定させることです」
そのために必要なのが体幹を安定させるためのコアトレーニング。今回は参加者全員にバランスボールを配って実践。バランスボールに座りながら自転車の乗車フォームをとることで、ペダルにかけることができる重量が測定できる。バランスボールを使用するのは「自転車は不安定な乗り物だから」だ。足の力がいくらあっても上半身が貧弱な選手の走りは安定しないし、体重も乗らない。こうしてみると、自転車はやはり全身運動だということがわかる。

ストレッチひとつで走りが変わる

つづいては「新城幸也選手のヒルクライム」。去年の全日本で圧倒的な強さを誇った新城選手。同行したタイ合宿では「さすがだなという映像が撮れました」。着目したいのは「踵と腹部と肩甲骨」だ。
「見ていると彼は4回くらい漕ぎ方を変えています」
映像で理解できるのは、「肩甲骨や腹腔の使い方がうまい」こと。また、新城選手は「肩の柔軟性が高い」。低い前傾姿勢からは「腕の力を抜いている」ことが窺える。そして前傾になり過ぎたら体を起こす。かと思えば、再び前傾姿勢に。その間、ペダルはずっと回し続けている。このように漕ぎ方を変えられるのは、自動車のエンジンで言うなら「トランスミッションを何速も持っている」ようなもの。こうした選手は、たとえ1,000ワットの力を出せたとしても、それが必要でない場所では800ワットや900ワットの省エネで走ることができる。
安藤氏が考えているのは「速い選手同士のコラボレーション」。それぞれの選手の良いところを共有することで、選手全体のレベルを上げていくことができる。
映像の解説のあとは「セルフケア」。その基礎となるのがストレッチだ。この日は参加者全員で前屈にチャレンジ。最初はなかなか手が床につかない人も、安藤氏が紹介したストレッチを行なう前と後では、明らかに変化するから驚きだ。
「前屈のストレッチだけでペダリングは変わります。レースの前にはぜひやってください」
さらに肝心なのは体幹を鍛えること。バランスが保てれば体重を最大限ペダルに預けることができる。これがレベルアップの秘訣だ。
安藤氏の「夢」は「自転車の指導者の地位を社会的に向上させること」と「安全に自転車を楽しめる体制づくりをすること」だ。
「他のコーチ陣と協力して、より良い研修内容やレスキューの対応方法を確立したいですね」と語る安藤氏に会場からは大きな拍手が送られ、セミナーは幕を閉じた。

講師紹介

安藤 隼人(あんどう はやと)
安藤 隼人(あんどう はやと)
スマートコーチング代表 日本体育協会認定自転車コーチ
鹿屋体育大学体育学修士。鹿屋体育大学自転車競技部元主将。低酸素環境での運動生理学が専門。冒険家三浦雄一郎主宰ミウラドルフィンズにて高所登山を目指す登山家向けの高所順応トレーニングや、トップアスリートの高地トレーニングの指導を行なう。2013年に四谷で、ロードバイクや競輪のトップ選手を主なクライアントとするプライベートコーチングスタジオ、スマートコーチングを開業。2013年には日本体育協会認定自転車コーチ研修講師も務める。自転車以外にも日本山岳協会医科学委員、日本登山医学界評議員など登山の医学・運動生理学分野にも精通し、イモトアヤコさんの高所登山サポートも行なう。