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イベントレポート

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2014年7月3日(木)19:00~21:00

河村 奨 (かわむら つとむ) / 合同会社リブライズ

すべての本棚を図書館に
~リブライズの挑戦~

カフェやコワーキングスペース、大学の研究室など、街に点在している本棚。どこに何の本があるのか? どこに行けばどの本が読めるのか? 知る方法がない中、ソーシャルメディアを使って、人々が気軽に本の検索や貸し借りを行える無料サービス「リブライズ」を開始した河村氏。「図書館での本の貸し借りとはまた別の、本を介在した出会いがリブライズでは発生する」と語る。世の中の本棚を図書館にする活動を通じて見えてきたソーシャルメディアとリアルの融合の可能性とは? 新しい図書館のかたち、そして本を介在した出会いについて一緒に考える機会となった。

本がある場所は全部「図書館」

カフェに居酒屋、美容室、専門店、ホテル、そしてd-laboのようなコミュニケーションスペース、あるいは個人宅の本棚……。
「最近は街中のさまざまな施設で本を見かけるようになりました」
講師の河村奨氏が運営する「リブライズ」はこうした「街の本棚を図書館にしてしまうサービス」だ。リブライズのサイト上で図書館を開設し、貸し出し可能な本を登録すればそれで「図書館」になる。利用者はサイトを見るだけで、どこにどんな本があって借りることができるかを簡単に調べることができる。たとえパッと見では入りにくそうなマニアックなお店や空間であったとしても、そこに読みたい本があれば「最初の一歩が楽になり、その場所に入りやすくなる」。
「図書館というと大きな公共のものといったイメージがありますが、それを僕らは壊していきたいんですね。極端な話、本がある場所を全部『図書館』と言ってしまおうと。それがリブライズの活動なのです」
リブライズのプロジェクトがスタートしたのは2012年の9月。当初は20箇所ほどだった登録図書館は2013年末には380箇所、このセミナーが開催された2014年7月現在では600箇所を数えるまでに至っている。
では、河村氏が言う「図書館」とはいったいどのようなものだろうか。まずはいくつかある特徴的な「図書館」を画像を交えながら紹介していただいた。

誰でもできる「図書館の開設」と「本の登録」

最初に登場したのは東京あきる野市にある『少女まんが館』。ここは主に戦前から1990年代までの古い「少女まんが」を中心に集めた「少女まんが」専門の私設図書館だ。約5万冊という蔵書は「全国からの寄贈で賄われている」。大人にとっては「結婚や引っ越しなどのタイミングで捨ててしまった懐かしい作品」に出会える場所だという。
次の施設は大阪・中之島の『ライフ・クリエーション・スペース OVE』。自転車部品メーカーのシマノが運営する空間には自転車関連の本が所狭しと並んでいる。オリジナルグッズも販売し、年会費を払えばカフェとしても利用できる。岩手県盛岡市にある『フキデチョウ文庫』はデイサービスと一体化した図書館。絵本やマンガの多いこの図書館は、オープン当初より子どもたちから人気を得ていったという。
「最初に子どもたちが来ると大人も来るようになって地域とのつながりが深くなる。『フキデチョウ文庫』の場合はたんなる『図書館』ではなくコミュニティのハブにもなっています」
神奈川県鎌倉市の『テールベルト』は家具職人のオーナーが経営するカフェ。小説やコミック、写真集などを中心とした蔵書に加え、オーナーの手作りグッズなどを販売するカフェは、そこにいるだけで幸せになれそうな空間だ。こんなふうに、個人やグループが運営するリブライズの「図書館」は「エッジのきいた」ものが多い。なかには兵庫県伊丹市の『伊丹市立図書館ことば蔵』のように公共図書館内に市民が運営するコーナーの蔵書がリブライズに登録されている例もある。
図書館の開設と本の登録はいたってシンプルだ。登録には「フェイスブックページ」か「ブックスポットカード」を利用。「リブライズの登録ページにいけば、すぐに登録が可能」だ。参加者の代表に「図書館長」になってもらい、実際に「図書館の開設」と「本の登録」を体験してもらった。作業はバーコードリーダーでカードや本のバーコードを読みとるだけ。「図書館」も「蔵書」も次の瞬間にはリブライズのサイトにアップされ、すぐに貸し出しが可能となった。

1冊からでも開設できる「図書館」はコミュニケーションの場

セミナー後半の冒頭は河村氏が「マスター」を務める『下北沢オープンソースCafe』の紹介から。東京では2箇所目だったというコワーキングスペースは、もちろんリブライズの「図書館」だ。河村氏自身がプログラマーである影響か、「やって来るのはプログラマーが多い」という。他にも学生やフリーランスの社会人、ビジネスマンなどが勉強や仕事で利用している。ゲストを囲んでの勉強会や地域の子ども向けの「プログラミング道場」などが開かれるカフェは、「本が誘発してくれるコミュニケーション」の場となっている。本を共有することで生まれる「無理のないコミュニケーション」は「いろんなところでできるはず」。そうやってリブライズは登録図書館を広げてきた。こうした活動は新聞雑誌などのメディアでも盛んに取り上げられ、いまや登録されている本は18万冊に及ぶという。
リブライズの「図書館」は別名「マイクロ・ライブラリー」。公共図書館に比べると一つひとつ規模が小さいのが特徴だ。
「100冊もあれば立派な図書館。突き詰めて考えると、1冊や2冊であっても本さえあれば図書館を開設することができます」
そして、規模が小さいことは「デメリットではない」。むしろ一分野に特化することで同じ趣味を持つ人が集まったりと、コミュニティが生まれやすくなる。本があればそこに人が集まる。大学の研究室ならば研究関連の本、ペットショップならば犬にまつわる本、「図書館」によっては旅の本ばかりを集めた所もある。本棚を見れば、そこにどんな人たちが集まるかが見えてくる。
現在、リブライズのメンバーが取り組んでいるのは「マイクロ・ライブラリー憲章」作りだ。草案段階での「マイクロ・ライブラリーとは何か?」の定義は以下の通り。
- 本があり、ひとが集まる
- 誰にも妨げられず、好きな本を読める
- 本を共有する・体験を共有する
- 本棚を眺めれば人々が見えてくる
リブライズ自体は「自由に広まってほしい」が「核となるものがあれば今以上にやりやすいのでは」という思いから生まれた。その「憲章」は、「この夏くらいには文面を練り込んで世界に発信していきたい」という。
後半の残り時間はワークショップ。参加者全員をグループ分けし、「自分だったらどんな図書館にしたいか」、「近所にこんな図書館がほしい」といった内容でディスカッション。最後は結果を発表してもらった。河村氏自身が実践しているのは「本以外の物をレンタルするモノライブラリー」。他にも「モンゴルのウランバートルにゲルを直結させた図書館を開設する」という目標がある。
「夢は、すべての本棚を図書館に、です」
その活動は、世界へと広がっていく。

講師紹介

河村 奨 (かわむら つとむ)
河村 奨 (かわむら つとむ)
合同会社リブライズ
千葉大学卒業。在学中にソフトウェア開発とデザインを専門として起業。オープンソース活動に関わる中で、コワーキングとの親和性に気づき「下北沢オープンソースCafe」を2011年オープン。以後、子供向けのプログラミング道場「Coder Dojo」をアジアで初めて開くなど、カフェを拠点とした活動を積極的に行なう。コワーキング協同組合理事、東京都市大学非常勤講師なども務めている。