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イベントレポート

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2014年8月26日(火)19:00~21:00

菅山 明美 (すがやま あけみ) / プロジェクトデザイナー
株式会社NHKエンタープライズ 事業デザイン 部長

プロジェクションマッピングの共感体験が生み出すもの
~メガ映像をきっかけに地域文化を起こす~

会津若松の鶴ケ城で毎年3月に行なっているイベント「鶴ケ城プロジェクションマッピング はるか」。雪で閉ざされた閑散期に約38,000人の観覧客を呼び、映像を使った地域活性化の代表例として注目を集めている。映像がPCやスマホを使って1人で観るものに変化しつつある中で、そこに居合わせた全員と感動を共有するという新しい潮流を作り出しているプロジェクションマッピング。メガ映像を使った共感体験が生み出すものとは何か。数々のプロジェクションマッピングを手掛けてきた菅山氏に事例を交えながらお話しいただいた。

東京駅からスタートした日本のプロジェクションマッピング

既存の建築物などに、あらかじめ立体的に作った映像を、プログラムで調整してその形にぴったりと合わせて投影するプロジェクションマッピング。ヨーロッパでは10年以上前から盛んに使われるようになったこの技術が、日本で注目されたのは2012年9月のこと。復元工事を終えたばかりの東京駅丸の内駅舎に投影された『TOKYO STATION VISION』が大盛況のうちに幕を閉じ、以来、国内各地でプロジェクションマッピングによるメガ映像が見られるようになった。本セミナーでは事例の映像を見ながら、プロジェクションマッピングという「技術」がもたらすメガ映像、そしてそこから生み出される「共感」や「文化」、「地域振興」について体験をもとにお話しいただいた。
まずは代表例である『TOKYO STATION VISION』を上映。約11分半の映像は、クリエイティブディレクターの森内大輔氏が、5人の映像作家と作り上げたもの。東京駅の周囲は明るいビルばかり。その明るさに負けずに、駅舎全体にプロジェクションマッピングを行なうには2万ルーメンのプロジェクターが大量に必要だった。それだけの性能を持つプロジェクターとなると、当時日本にあるものでは足らず、海外からレンタルする必要があったという。

メガ映像で「感動を共有」する

当日は46台のプロジェクターを設置。普通の投影と違うのは映像を建物の形に合わせてしっかりと「マッピング=配置」すること。建物にぴったりあった映像がリアルな臨場感を生み出す。また、色補正し建物そのものの色の影響が出ないようにも調整をしている。こうした作業は専門の技術者たちがプログラムを駆使して行なう。結果、生まれるのは、あたかも建物そのものが放っているかのような巨大で緻密な光の映像。『TOKYO STATION VISION』はその圧倒的なスペクタクル映像が話題となった。
d-laboのモニターで上映されたのは、駅舎の映像とともに観覧した人々の表情を撮ったもの。大人も子どもも、初めて見るプロジェクションマッピングに感動をあらわにする。メガ映像を大勢の人が一緒に観て、そこで感動を共有する。菅山氏はここにプロジェクションマッピングの可能性を感じたという。
「昔は映像というと映画館で大勢で観るものでした。それが、テレビができてお茶の間で家族で観るものに変わり、現在はポータルデバイスで個人で観るものになりました」
それにともない、コンテンツの尺は短くなり、小さな画面で見てもわかるアップの多い映像が増えた。いわば映像が矮小化しているわけだが、「メガ映像はその流れに逆行している」。
プロジェクションマッピングのようなイベントで観るメガ映像は、たいていの場合、その場に行かなければ体験できず、また二度と観ることはない。その貴重な体験は何かの牽引力となるはずだ。
ここ2年で事例が増えているプロジェクションマッピングだが、技術自体が開発されたのは四十数年前に遡る。始まりはアメリカのディズニーランドで1969年に公開されたホーンテッドマンションと言われている。このときは白い像に8ミリで撮った映像が投影された。以降、大学などで技術研究が進み、やがて建物のような巨大なものにも投影できるプロジェクターが開発される。2002年のエリザベス女王戴冠50周年記念式典ではバッキンガム宮殿をスクリーンに大々的な上映を実施、これを機にヨーロッパでの流行が始まった。ロンドンオリンピックでは新技術のLEDマッピングを使用。そして今年2014年は「レーザーマッピング元年」と言われている。レーザーを使ったマッピングは、離れた距離からも光量を落とさずに投影できる点が魅力。現在はまだ解像度が低く単色であるという欠点があるが、将来的にはさらなる進化が期待されている。菅山氏たち作り手側は「この技術を使ってどんな映像を演出すべきか」を考えるのが仕事。ヒントとなるのは映像を上映する「土地」や「建物」。「その場所と映像をシンクロさせる」ことがプロジェクションマッピングでは大切だという。

会津若松で生まれた「地域文化」

場所と映像がうまくシンクロしたのが2013年から始まった「鶴ヶ城プロジェクションマッピング はるか」だ。東日本大震災の復興を願って桜を全国に植樹する活動をしている『fukushimaさくらプロジェクト』が主催したこのイベントでは、会津若松市の鶴ヶ城を舞台にプロジェクションマッピングを上映した。鶴ヶ城は戊辰戦争の際に会津藩士たちが籠って戦った城。地元の誇りでもあるこの城にふさわしい映像は何か。悩んだ結果、上映したのは大河ドラマ『八重の桜』の音楽を使ったメガ映像。新種の桜「はるか」をテーマに制作された映像は会場に入れない人が続出する大人気ぶりで、イベントは翌年も開催。2年目となった今年は民謡『会津磐梯山』に登場する「会津の伝説のヒーロー、小原庄助さん」を主人公に『庄助の春こい絵巻』を上映。キャラクターは影絵作家・藤城清治氏のデザイン。BGMはNHK朝の連続テレビ『あまちゃん』で音楽を担当した大友良英氏、Sachiko M氏が制作。観光的には閑散期の3月の開催にも関わらずホテルや旅館は満杯。メガ映像が地域の文化として認められることで経済効果が生まれることが証明された。会津若松では来年も『はるか』を企画。現在、菅山氏等スタッフは準備に追われている。
菅山氏の「夢」は「教育に携わる」こと。
「私のようなアマチュアの先生に接することで、学生たちがプロの先生たち以外にこんな大人もいるんだと知る。それが未来の何かにつながればいい。そういう教育の仕組ができればいいなと思っています」
共感体験の創出が地域の文化となり、その結果として地域に経済的利益をもたらす。
プロジェクションマッピングの可能性を大いに感じるセミナーとなった。

講師紹介

菅山 明美 (すがやま あけみ)
菅山 明美 (すがやま あけみ)
プロジェクトデザイナー
株式会社NHKエンタープライズ 事業デザイン 部長
NHK契約アナウンサーになったのをきっかけにメディア制作を始める。株式会社NHKエンタープライズ入社後は、テレビディレクター/プロデューサーとして、NHK+円谷プロ初コラボドラマ「怪奇大作戦セカンドファイル」、元素教育アニメ「エレメントハンター」、番組参加型の子供向けNスペ「NHKジュニアスペシャル」などの企画・制作に携わる。その後、企画デザインの範囲をテレビ番組以外の映像・イベントにまで広げ、近年は、プロジェクションマッピングなどのメガ映像を活かした地域活性事業を手がけている。2004年児童文化福祉賞奨励賞、2009年環境省政策提言準優秀賞、2013年科学技術映像祭優秀賞、グッドデザイン賞などを受賞。