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イベントレポート

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2014年8月28日(木) 19:00~21:00

小久保 英一郎(こくぼ えいいちろう) / 国立天文台 理論研究部 教授

宇宙の中の地球

命を宿す美しい惑星地球。暗黒の宇宙の中で青く輝く私たちの故郷。地球とはどのような天体で、宇宙の中のどのようなところに存在しているか。また、どのようにして誕生したのか。さらに宇宙には地球のような惑星が他にも存在しているのか。天文学の最新の成果を基にして、これらの根本的な問題について、国立天文台理論研究部教授の小久保氏に解説いただいた。

宇宙の中で生命が存在できるのは惑星だけ

天文学には3つの種類(方法)がある。ひとつは紀元前から続いている「観測天文学」だ。人類は昔から肉眼や望遠鏡で夜空を見あげて星々を観測してきた。もうひとつは「理論天文学」。道具は「紙と鉛筆」。天文学者や物理学者たちはさまざまな数式や理論を用いて「宇宙の物理」について考えてきた。
「20世紀後半くらいまでは、天文学というとこの2つが両輪でした。それが、20世紀も終わりになるとスーパーコンピューターを使っての〈シミュレーション=模擬実験天文学〉というものが可能になってきました」 今回の講師である小久保英一郎氏が国立天文台で行なっているのは、この「シミュレーション天文学」。専門は「惑星系形成論」。スーパーコンピューターという「理論の望遠鏡」を用いて、「地球をつくる実験」を行なっている。無数のテーマがある宇宙の研究の中で、惑星を対象に選んだのは、やはり「海や生命、地球への思いがあるから」だという。
「この広い宇宙の中で生命が存在できる場所というと惑星くらい。それがどうやって生まれたのか。太陽系がどうやってできたのかを調べることが仕事です」
太陽系の惑星は、水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の8つ。他に小惑星や彗星など無数の天体が存在する。こうした惑星は太陽系外でもすでに2,000個以上の惑星が見つかっている。その中には「海を持つ第二の地球」が混ざっている可能性もある。「最終的には研究を通じて、地球外生命とか、そういうところに近づきたいですね」
では惑星とは何か。その条件は「恒星のまわりを回っている」、「丸い」、「その場所で最大」、「自分で光らない」こと。太陽のような恒星は水素を核融合することで自ら光を放つが、惑星は光らない。そして小惑星のようにいびつな形ではなく、自己の重力によって球体を形成しており、その空間において支配的な重力源となっていて、かつ恒星のまわりを回っている。これが木星の13倍以上の質量になると、惑星は核融合を始め褐色矮星となる。天体の中でもある程度小さい天体が惑星だと思えばいい。太陽系の場合、惑星の種類は大別して3つ。水星や金星、地球、火星のような岩石でできている「地球型惑星(岩石惑星)」と、質量のほとんどが水素とヘリウムからなるガスでできている「木星型惑星(ガス惑星)」、それに水やメタンやアンモニアが固まっている「海王星型惑星(氷惑星)」の3つが並んでいる。

地球は、太陽系は、宇宙のどこにあるのか

セミナー前半のテーマは「地球のあるところ」。ここでは国立天文台が無料で公開しているソフトウェア『Mitaka』をモニタ―に映して、「宇宙はどのような姿をしているのか」、「地球は宇宙のどのようなところにあるのか」、「太陽系はどのような姿をしているのか」を見てみた。3DのCGで作られたソフトウェアは、まずこの日の夜8時に東京から見た南の空から始まる。ここだけ見れば普通のプラネタリウムのようだが、『Mitaka』のすごいところは、そこから地球を離れて宇宙の中へとどんどん進んでいける点だ。他の太陽系の惑星を訪ねたり、あるいはサイズを縮小して太陽系そのものを俯瞰することができる。太陽系内で基準とする距離は、地球と太陽の間の1億5,000万キロメートルを「1」とする1天文単位。例えば15億キロメートル離れている土星の場合は太陽から10天文単位ということになる。その土星に「寄り道」してみると、周囲にはタイタンやレア、エンケラドゥスなど60以上もの衛星があることがわかる。ひとつ手前の木星と火星の間には60万個もの小惑星帯が。さらに遠くへ、海王星の外に行くと、冥王星などの太陽系外縁天体が見える。その数は現在発見されているだけでも約1,700個。距離はここまでで約100天文単位。もっと遠く、1万天文単位といったあたりまで行くと「不思議なもの」が見えてくる。他の天体と違い円ではなく球状に太陽を囲んでいるのは彗星の故郷とされている「オールトの雲」だ。太陽系の領域はここまで。そこから先の単位は「光年(光が1年間に進む距離。1光年は9兆5千億キロメートル=6万3千天文単位)」。1光年、2光年と進み、やっと4光年で太陽の「お隣の星」であるアルファケンタウリが現われる。他にも夜空を見上げればお馴染みのシリウスやプロキオンなどが。こうした星々は3,000光年の内側までは正確に地図にすることができる。そして、それらの星が数千億個集まった銀河系。直径は約10万光年。太陽系があるのはその中心から3万光年離れた「オリオン腕」の一隅だ。銀河系の外へ進んでいくと、衛星銀河であるマゼラン雲や、肉眼でも見えるアンドロメダ銀河が確認できる。他にも無数の銀河が銀河団を形成している。青く明るいのは生まれたばかりの銀河である「クエーサー」。『Mitaka』はこのように現在観測できている137億光年先の宇宙までを手に取るように見せてくれる。このわかりやすさは3Dの映像ならでは。パソコンが1台あれば、自分が宇宙のどこにいるかが瞬時に把握できる。

「ダスト=星くず」から生まれた太陽系の惑星たち

後半のテーマは「星くずから地球へ」。小久保氏が見せてくれたのは太陽系の地球型惑星がどうできたかというシミュレーションの結果。46億年前の地球誕生時、太陽系には太陽以外の天体はなく、そのまわりには円盤状にガスとダストが回っていた。ガスとは水素とヘリウム。ダストは太陽が生まれる以前に死んだ星が残したもの、文字通りの「星くず」だ。太陽系の惑星はまずこのダストが集まって「微惑星」となった。100万年ほど経った頃にはこの微惑星の中で「暴走的成長」をしたものがいくつか残って「原始惑星」となる。質量は地球の10分の1程度。この原始惑星が1,000万年ほど経つと、惑星周辺のガスが消えることで軌道がずれ始め、互いに衝突して合体する。そうやって1億年ほどして出来たのが現在の太陽系の地球型惑星。金星や地球は原始惑星が合体したもの。水星や火星は原始惑星の生き残り。木星などは重力でガスを取り込んで成長したものだという。
小久保氏の「夢」は「研究者として現役のうちに第二の地球を見つけること」だ。技術的にはすでにそれは可能となっている。
「生き物がいる天体が見つかったらみなさんの宇宙観が変わる。今はもう一押しの段階。ぜひ実現できたらいいなと思います」
美しい宇宙の3D画像に釘付けとなった観客からは大きな拍手が起こり、セミナーは幕を閉じた。

講師紹介

小久保 英一郎(こくぼ えいいちろう)
小久保 英一郎(こくぼ えいいちろう)
国立天文台 理論研究部 教授
専門は惑星系形成論。理論とシミュレーションを駆使して惑星系形成の素過程を明らかにし、多様な惑星系の起源を描き出すことを目指す。趣味はスキューバダイビング、文化財(特に古代遺跡・寺社・祭)探訪など。