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イベントレポート

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2014年9月23日(火)14:00~15:00

新井 文月(あらい ふづき) / アーティスト

フラワープロジェクト東京展
~芸術支援ニューヨーク展 報告会~

2014年6月、在ニューヨーク日本国総領事館にて開催された絵画展『フラワープロジェクト』は大盛況のうちに幕を閉じた。新井氏は2011年の東日本大震災をきっかけに、アートで被災地を支援する団体『フラワープロジェクト』を立ち上げ、ボランティアで仮設住宅の住民の似顔絵を描いたり、仮設住宅の壁をキャンバスに見立て、仮設住宅に住む人やボランティアの人たちと一緒に龍の絵を描いたりするなどの活動を続けてきた。ニューヨークでは、それらの活動を絵画形式にして約1か月間展示し、多くの海外メディアからも取り上げられた。今回d-laboでは絵画展『フラワープロジェクト』の東京展として新井氏の作品を展示するとともに、これまでの活動とこれからについてお話しいただいた。

震災の被災地をアートで支援する『フラワープロジェクト』

アーティストとしてさまざまなタッチの絵画を制作、コンピューターグラフィックスやダンス、太極拳など多彩な表現活動を展開している新井文月氏。『フラワープロジェクト東京展』と銘打ったd-laboでの展覧会最終日であるこの日は、新井氏本人をお招きしてのセミナーが開催された。
新井氏が代表を務める『フラワープロジェクト』は東日本大震災の被災地をアートで支援する団体。これまでに、津波によってアルバムを失った人びとの似顔絵を描いたり、仮設住宅の壁をキャンバスに見立てて長さ70メートルの巨大な龍の絵を描いたりと、アートによって復興を支援してきた。
冒頭、司会の結城しおり氏から紹介された新井氏が語ってくれたのは、「なぜ僕がこういった表現活動をしているのか」だった。群馬県出身の新井氏は、幼い頃に足を怪我したこともあって、ひとり遊びが好きな子だったという。得意なのは空想。群馬県は古くから「アミニズム=精霊信仰」が強い土地柄。そのため「神」や「妖怪」というものの存在を感じることもよくあったという。絵を描き始めたのは2、3歳頃から。「龍や虎、ドラえもんなど何でも模写していた」そうだ。高校卒業後は多摩美術大学に進学。在学中は「足が動くようになったので、ダンスばかりやっていた」そうだ。影響を受けたのはレオナルド・ダ・ヴィンチ。科学者であり、画家であり、解剖学者であり、設計技師でもあり、さらに肉体的にも秀でていたらしいダ・ヴィンチは「全人的で理想の人間」とのことだ。
「あらゆるフィールドで活躍する、そういうダ・ヴィンチを踏まえて、僕も絵画以外にもダンスや太極拳、デザインなどいろいろな表現に取り組んできました」
その中で始まったのが『フラワープロジェクト』。あの震災を見て自分に何ができるかを考えたとき、思いついたのはやはりアートだった。最初はいちボランティアとして被災地入りをした。小林千恵氏が主催する『Tokyo de Volunteer』のビューティーボランティア(被災者にヘアメイクやネイルなどを提供し元気になってもらう活動)で綺麗になった女性の似顔絵を描いたところ、涙を流して喜んでくれた。そこで『フラワープロジェクト』を立ち上げ活動を本格化。似顔絵だけではなく、2012年には石巻市の仮設住宅をキャンバスに見立てて前述した龍の絵を現地の住民・仲間とともに完成させた。

復興は「まだまだこれから」

ここで『フラワープロジェクト』のひとりでもあり、現地で活動を続けている『みらいサポート石巻』の西本健太朗氏が登壇。石巻の現状について話していただいた。『みらいサポート石巻』は「まちづくり」、「情報発信」、「コミュニティ」を軸に石巻の復興を支援している団体。西本氏は震災発生以来、メンバーとして今日に至るまで活動を続けている。その西本氏によれば「震災から3年半経った今も、仮設住宅に入った人のうちの85パーセントが出られずにいる」という。
「被災地の外にいる人にとってはすでに終わった災害なのかもしれませんが、現地にいると、今が苦しい時期。まだまだこれからと日々痛感しています」(西本氏)
震災を風化させない。現在もつづく問題であることを訴えるために『みらいサポート石巻』では、外部から来る人のための震災資料の展示や、高齢の独居者をサポートする緊急カードの作成、来年4月から始まる復興公営住宅への移住に際してのコミュニティ形成支援などの活動を行なっている。とくに大切なのはコミュニティ形成。被災者というと仮設住宅に住んでいる人ばかりに焦点が当たる。その一方で同じ被災者でありながら支援を受けられない人びとには「仮設に住んでいる人だけが被災者ではない」といった思いがある。この意識の違いを乗り越えて同じ地区の住民として生きていくためのコミュニティづくりこそがこれからの課題となってゆくという。
新井氏たち『フラワープロジェクト』が「龍の絵」を制作したのは石巻市の「須江糠塚前団地」。仮設住宅に絵を描くには住人や行政の許可が必要だが、このときは自治会長の小野孝雄氏の尽力で住人の総意を取り付けることができた。題材に龍を選んだのは、雨や風を統括し豊じょうな大地をつくる龍を「創造」の象徴としたから。モチーフとしてはボストン美術館に展示されている曾我蕭白(そがしょうはく)の「雲龍図」を参考にした。制作に参加したのは約100人。活力を促す「赤」をキーカラーにした絵は現在も同団地で見ることができる。

「エキサイティングな活動」と評価を受けたニューヨーク展

そしてテーマは「芸術支援ニューヨーク展」へ。絵画展『フラワープロジェクト』をニューヨークで開催したのは、日本での展示は資金がかかるからだった。そこで海外に打診したところ、ニューヨークの日本総領事館が協力を申し出てくれた。実際には輸送費など含め100万円の経費がかかったが、これはインターネットを介してのクラウドファンディングで資金を調達した。2014年6月に予定通り開催することができたが、このとき感じたのは「海外では内容とクオリティを大事にする」ということだった。初めてのニューヨークでの個展には不安もあったが、蓋を開けてみれば大盛況の内に幕を閉じた。ニューヨークの人びとの反応はダイレクトで、「アートで被災地を魅力的にするなんてとてもエキサイティングな活動だね」という評価も得られた。
ニューヨークには新井氏の他に3名の有志が同行した。今回はその中の牧下裕美子氏に現場の様子などを報告していただいた。現在は料理業界で活動中の牧下氏は元ウェブデザイナー。新井氏とは仕事を通じて知り合った仲で、ちょうど自身の転職とタイミングが合ったので、今回の絵画展に同行したという。いちばん不安だったのは誰も現場を知らないことだった。
「現地では学園祭の前のようなドキドキとハラハラ感のなかで、縦に展示するはずだった絵を横にしてみたり、カラーマットを手で塗ったりと、4人で知恵をフル回転させながら準備していきました」(牧下氏)
アートに取り組むときの新井氏の作風は「善も悪もなく、ゼロと1」。あるのは「光と闇」であり「陰と陽」。こうした感覚から生まれる作品からは「宇宙の意志」を感じることができる。自由参加の第2部ではクラウドファンディングで支援してくれた人達への似顔絵贈呈と、展示作品を解説。表現者としての新井ワールドを存分に味わうことができ、『フラワープロジェクト東京展』は盛大な拍手とともに閉幕した。  

講師紹介

新井 文月(あらい ふづき)
新井 文月(あらい ふづき)
アーティスト
芸術家。芸術支援団体フラワープロジェクト代表。人と人とのつながりをテーマに感動体験を共有する絵画制作を続ける。その作品は直感に従い、即興で描く霊的な表現。世界各地の土地を巡り、さらに踊ることで作品の次元を高めてきた。クラウドファンディングサイトでは、個人額においてはトップクラスの104万円を集めた。また年間300冊の読書を実践し、HONZレビュアーとしても活躍。特技はダンス。