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イベントレポート

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2014年10月8日(水)19:00~21:00

大川 恒(おおかわ こう) / 組織開発コンサルタント

〈コミュニティの孵化器〉としてのワールド・カフェ

東日本大震災などの非常時や災害時、また地域における企業の社会的責任において、企業間で相互に助け合える関係作りが求められている。そこで今回は、日ごろ働いている企業の外の方と"これからの企業間における協力の可能性"について、ホールシステム・アプローチの第一人者である大川氏をファシリテーターに「ワールド・カフェ」という手法を用いたワークショップを開催。ワールド・カフェとは、リラックスした雰囲気の中でメンバーの組み合わせを変えながら、4~5人の小グループでの話し合いを続けることにより、新しい知恵やアイデアを生み出す会話の手法である。組織の垣根を越えたオープンな話し合いを楽しみながら、〈新しいネットワーク〉構築のきっかけをつくる機会となった。

「アイデア」の孵化器であり、「コミュニティ」の孵化器でもあるワールド・カフェ

「第一回企業間コミュニティカフェ」と銘打ったこの日のセミナー。講師の大川恒氏は1980年代にアメリカで開発された「ホールシステム・アプローチ」を導入した人材開発や組織開発を手がけているコンサルタントだ。今回開催していただいた「ワールド・カフェ」は、その「ホールシステム・アプローチ」の手法のひとつ。大川氏がこの「ワールド・カフェ」を初めて知ったのは2006年のころ。それ以前は「問題解決ファシリテーションスキル」の研修、問題解決のチームづくりなどを手がけていたという。
「組織や専門分野、職場を超えた人同士の関係構築、相互理解、アイデアの創造、問題解決ができる場づくりが求められている。しかしながら、そのような場をつくるファシリテーションスキルは簡単には身につかない。そんな時に出会ったのが『ワールド・カフェ』だったんですね」
「ホールシステム・アプローチ」とは、「できるだけ多くの関係者が一堂に集まり、特定のテーマについて話し合うことで、将来の目指したい姿、問題解決策、行動計画などをつくる大規模な会話」の総称。代表的な手法として「フューチャーサーチ」、「OST(オープンスペーステクノロジー)」、「ワールド・カフェ」、「AI(アプリシエイティブ・インクワイアリ)」の4つがある。「ワールド・カフェ」の特徴は参加者同士が「自由な関係性を築くことができる」点だ。
「カフェのようなオープンでリラックスした場の中で、4~5人単位のグループでメンバーを変えながら、テーマに集中した対話を続けることにより、新しい知恵やアイデアを生み出す。これが『ワールド・カフェ』です」
創始者はアメリカ人のアニータ・ブラウン氏とディビット・アイザックス氏。1995年に提唱されたこの会話手法は現在では世界中に広まり、イスラエルでは一度に5,000人もの人が集まって開催されたりもしているという。ひとつのテーマについて少人数で語りあい、さらにテーブルを移動して違う相手と語り合う。そうすることで自分の中に新しい気付きが生まれ、思わぬ発想やアイデアに結びつく。それを手伝ってくれるのが、カフェのようなリラックスした雰囲気の空間だ。いわば「ワールド・カフェ」はアイデアの「孵化器」。同時にそれは「コミュニティの孵化器」でもある。

日ごろ働いている企業の外の方と“これからの企業間協力の可能性”を探求したい。

大川氏が、同じく「ワールド・カフェ」に感銘を受けた香取一昭氏と共著で『ワールド・カフェをやろう!』を出版したのが2009年。「短期間で必死に書いた」本は7回も版を重ね、今では「ワールド・カフェ」は日本中で開かれるまでポピュラーなものとなった。
「『ワールド・カフェ』は日本的に言うならこたつに集まってみかんを食べながら話すようなもの。日本人は〈白熱教室〉みたいな議論は少し苦手かもしれないけれど、こういうスタイルだったらリラックスして話ができるんですね」
今回の「企業間コミュニティカフェ」はd-laboのある東京ミッドタウンにオフィスを置く富士フイルムの「よしじゅん」こと吉田じゅんいちろう氏との共同企画。開催にあたっての吉田氏の動機は「3・11」。東日本大震災のとき、吉田氏はすぐに家族に連絡をとって無事を確かめることができたという。ただ1人、安否がわからなかったのが、自分の会社のすぐ近くで勤めている娘だった。
「娘の会社のオフィスがすぐそばにあって見えるのに娘がどうしているかがわからない。何かおかしいなと思ったんです」
後になって振り返れば、丈夫なビルに広いスペースを持つ自分の会社は帰宅難民の人々を受け入れることもできたかもしれない。それができなかったのは、「近くにある会社同士がつながっていないから」だということに気付いた。
「企業同士が助け合えるような関係性がつくれたらな。そんな思いもあって今回のコミュニティカフェを大川さんと開催させていただきました」(吉田氏)
カフェの参加者は25名。まず「ラウンド1」では、各テーブル5名ほどに分かれ、講師からの「問い」について語りあう。20分ほど話しあったら、テーブルホストの1名を残して他の全員が別のテーブルに移動しての「ラウンド2」。さらに「ラウンド3」を経て、最後に「全員での振り返り」を行なおうというもの。各テーブルには模造紙が置かれ、各自がペンで自分や人のアイデアや言葉を文字にしたり、絵に描いたりできる。会話の際は「問いに意識を集中して話し合う」、「対等な立場で話し合う」、「あなたの考えを積極的に話す」、「話は短く、簡潔に」、「相手の話に耳を傾ける」、「遊び心で、いたずら描きをしたり、絵を描いたり」等の「カフェエチケット」を守ること。今回の「ワールド・カフェ」の話し合いの前の、自己紹介で社名は言っても、そのあとは「仕事の話は一切しない」で「仕事以外で楽しんでいることを紹介し合った」

全員が「やりたいこと」を発表

大川氏と吉田氏から示された「ラウンド1」の「問い」は、「自分が働いている会社の枠を超えて他の会社の方々と一緒に何をやってみたいですか?」。「ラウンド2」も同じ「問い」で、自分の考えをさらに深めていく。そして「ラウンド3」では「自分なら、こんなことをやりたいな・・・」というものを紙に書く。最後はテーブルから立ち、自分の考えに近い「親和性」を持った者同士でまたグループを形成し、それぞれ話し合う。
終わってみれば、全員が「やりたいこと(つくりたいもの)」を発見。「街歩き」や「東京ミッドタウンでの夏祭り」、「スポーツの集い」、「東京ミッドタウンでSNS」、「持ち回りセミナー」、「学校づくり」、「特技の共有」、「秘密基地」、「居場所」、「ジオラマ」、「未来の街」、「伝統工芸の発信」、「哲学カフェ」、「お見合いパーティー」など、さまざまなアイデアが出された。唯一、全員の「やりたいこと」が一致したグループでは「焚き火」を提案。理由は「焚き火を囲めば本音で話ができそうだから」。人は皆、本音で話せる場=コミュニティを求めているのかもしれない。 
大川氏の「夢」は「地方の素晴らしい場所に仲間とともに、その地域に貢献できる場をつくること」。「ワールド・カフェ」が、その実現を手助けしてくれるに違いない。

講師紹介

大川 恒(おおかわ こう)
大川 恒(おおかわ こう)
組織開発コンサルタント
1961年 北海道生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。シカゴ大学ビジネススクール修了、経営学修士(MBA)。現在、株式会社HRT代表取締役として、ホールシステム・アプローチ(AI、OST、ワールド・カフェ、フューチャーサーチ)を用いた組織開発コンサルティングを手掛ける傍ら、日経ビジネススクールなどでワールド・カフェホスト養成セミナーなどのセミナー講師を務めている。共著に『ワールド・カフェをやろう』、『ホールシステムアプローチ』(以上、日本経済新聞出版社)、『俊敏な組織を創る10のステップ』(ビジネス社)などがある。ワールド・カフェ・コミュニティ・ジャパン(WCJ)代表。