スルガ銀行 Dバンク支店

SURUGA d-labo. Bring your dream to reality. Draw my dream.

イベントレポート

イベントレポートTOP

2014年10月23日(木)19:00~21:00

牧野 武文(まきの たけふみ) / ITジャーナリスト

ビッグデータ社会とのつきあいかた
-ビッグデータで、私たちの暮らしはどう変わるのか?-

最近、よく耳にするようになった「ビッグデータ」。「ビッグデータ」と聞くと「すべてがデータに基づいて決められ人間性は否定される」、「個人のプライバシーが丸裸にされる」、「監視社会になる」など、SF小説にでてくるデスパラダイス(暗黒の未来)のようになるのではと不安に思っている人もいるだろう。しかし、それは大きな誤解。どんなテクノロジーにも言えることだが、どのように使っていくかで私たちの未来は変わっていくのだ。今回のd-laboセミナーでは、ビッグデータの核心をITジャーナリスト牧野氏にわかりやすく解説していただき、私たちの暮らしへの影響、そしてビッグデータ社会のメリットとデメリットについて考える機会となった。

ビッグデータとは「ありとあらゆるデータを使って分析するもの」

ITジャーナリストとして、常に「企業の視点ではなく消費者側からITやテクノロジーの話を書いている」という牧野武文氏。今回のセミナーでは、最近よく耳にする「ビッグデータ」について、それがどんなものか、またどのように人々の生活を変えていくのか、いくつかの実例とともに解説していただいた。
そもそもビッグデータとは何か。多くの人が漠然と抱いているのは、「ネガティブなイメージ」だという。
「ビッグデータと聞くと、何となく気持ち悪い。データ至上主義になって人間性が否定される。監視社会になってプライバシーが侵害されるのではないかと想像する人がいます。それを回避してうまく使いこなすのが人間の知恵というものです」
ビッグデータの特徴は「未来予測」と「意外な関連性が発見できること」。この言葉を人々が口にしはじめたのは1990年代。最初に言い出したのは、ヒトゲノム計画に取り組んだアメリカの科学者たちだったという。人間のDNAの配列を読み解くのに膨大な計算が必要となる。この作業の中からビッグデータという用語は生まれた。その後、ICカードやスマートフォンの普及で、企業などに顧客のデータが大量かつ自動的に集まるようになり、ビッグデータはさまざまな分野に波及、ビジネスの世界で活用されるようになった。それぞれの分野で意味合いは微妙に違うというが、ここでは「ビッグデータとは、予断を持たず、ありとあらゆるデータを使って分析するもの」と定義してみた。

ビッグデータが可能とした未来予測、そこから見えてくる「意外な関連性」

牧野氏が実例として挙げたのは、「グーグルインフルトレンド」。これはグーグルが提供するインフルエンザ予防のサービス。いつどこでインフルエンザが流行するのかを予測して教えてくれるサービスだ。グーグルは5,000万語にも及ぶ検索ワードから得たデータを使って情報を提供している。具体的には、過去にインフルエンザが流行した時期に多く検索された言葉を抜き出し、それが増えてきたらインフルエンザが流行するという未来を予測する。インフルエンザの流行となると、当然検索ワードの上位に出てくるのは「風邪」や「発熱」といった言葉。ただ、おもしろいことにその中にひとつだけ「高校バスケットボール」という用語があったりするという。一見すると病気と関係のないこの言葉がなぜ上位に出てくるのか。
「もしかしたら冬にインドアで行なうスポーツですから、試合会場で人々がインフルエンザに感染するのかもしれない。こうした意外な関連性が発見できるのがビッグデータのおもしろいところなのです」
そうした意外な関連性が実証されたのが「ハリケーンとポップターツの話」だ。ポップターツとは、アメリカで子どもたちに大人気の甘いお菓子。母親たちにとってはあまり食べさせたくないものだが、これがなぜかハリケーンが襲来したときにスーパーのウォルマートで「バカ売れ」した。普通、スーパーではこういうときに懐中電灯や災害用品、保存食料などが売れるものだが、同時に甘いお菓子もよく売れた。母親たちの心理を想像すると、おそらくは「家に閉じこめられるのだから、ハリケーンのときくらいは食べさせてもいいか」という思いが働いたのだろう。
日本でも阪神淡路大震災のときには援助物資の化粧品が被災者の女性の心を癒すのに役立ったという。これまでもビジネスの世界には統計情報やPOSシステムなどのテクノロジーや手法があったが、このような「意外な関連性」というものまでは、なかなか発見することが難しかった。ここが「ありとあらゆるデータ」を使うビッグデータの優れた点だ。
世論調査などにあるように一部の人にだけ質問する標本調査と比べると結果に誤差がなく、また国会議員選挙のような全数調査と比較しても調査費用ははるかに安い。そのうえ時間もかからない。それが可能となったのは、やはりテクノロジーの進化。
「嘘でしょうという人も多いのですがスマートフォンは、1秒間に30種類から50種類のデータをアプリやブラウザの開発元に送っています」
そのデータ活用例の1つとしてグーグルは、クラウド上にある無数のコンピューターをつなげることで膨大なデータを処理するシステムをつくった。グーグルでは世界中の都市で渋滞情報を提供し、最適ルートを検索するサービスを行なっているが、それに従事している人間は「3人から5人程度」だという。なぜこんな少人数で世界の都市がカバーできるのかといえば、スマートフォンのユーザーから送られてくる「位置情報」のおかげ。人々の移動速度を見れば、どこで渋滞が発生したのかたちまちわかってしまう。それを見分けるアルゴリズムの発見が驚くべき低コストのサービスを生み出した。

どんなテクノロジーにもメリットと危険性がある

ではビッグデータは大企業だけのものかというと、そんなことはない。一例は兵庫県の城崎温泉。外国人も多く訪れるこの温泉街では、携帯に登録できるカードを発行して、1か月に10万件を超えるデータを収集し、外湯巡りをする観光客の利便性の向上に貢献している。10万件というと膨大に聞こえるが、実質的な利用者の数は1日150人から300人程度。その利用者からのみデータ収集を行なっている。
「ビッグデータは規模ではなく、あらゆるデータを分析するもの。他の地方自治体には城崎温泉から、ビッグデータを使った町おこしについて学んでもらいたいですね」
ビッグデータの活用は小売業では当たり前の時代。医療や保険でも然り。アメリカのある町では効率的に警官を配置することで窃盗の件数を減らすことに成功している。誰がいつどこで何をして、何を買い、どこへ移動するか。そのデータが「無駄のない、みんなに恩恵がある社会」をもたらしてくれる。
セミナー後半ではビッグデータにまつわる個人情報漏洩などのリスクとメリットを解説。データ悪用の可能性は「怪しい企業には個人情報を与えない」といった対処はもちろん、「個人情報保護法を厳罰化するなどの法整備」を急ぐべきだという。一方、メリットの面では「情報のパーソナルカスタマイズ」や「定価破壊」、「定額契約の増加」、「自動車や家のクラウド(共有)化」などの未来を予測。
牧野氏の「夢」は、「若い人も高齢の人も新しいテクノロジーにチャレンジしていく時代になること」。
「どんな新しいテクノロジーにもメリットとデメリットがある。それを批判ばかりせずに、もっとポジティブに捉えていただけたらと思います」

講師紹介

牧野 武文(まきの たけふみ)
牧野 武文(まきの たけふみ)
ITジャーナリスト
東京生まれ。電子デバイスからデジタル社会論まで、生活者の視点で、わかりやすく解説することに定評がある。著書に『進撃のビッグデータ』、『Googleの正体』(共にマイナビ新書)、『ゲームの父・横井軍平伝』(角川書店)、『インターネット社会の幻想』(アルク新書)など。現在は、テクノロジー史上の偉人を紹介する『レトロハッカーズ』シリーズを、アマゾンの電子書籍キンドルストアで刊行中。