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イベントレポート

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2014年11月15日(土) 11:00~13:00 / 2014年11月15日(土) 14:30~16:30

金澤 木綿(かなざわ ゆう) / お茶の間創造プロデューサー

d-labo教室 茶農家がおもてなしする農園茶会

いま一度日本のお茶をシンプルに、そして「自然の力・風土を考慮したお茶」を楽しんでいただきたいと考え、静岡県の茶農家と直接交流できる農園茶会を開催。茶畑の新芽が商品になるまでには、作り手の想いや長い歴史の中で育まれた価値観が移り込むため、それがお茶の味としてにじみ出ている。「季候・風土・茶師の技・飲み手の技など」それぞれはとても繊細で柔らかな違い。日本茶の小さな違いと共に歴史や日本人のおもてなしの気持ち、ちょっとした季節感などが感じられたら、私たちの日常や奥深さに穏やかさがひろがり、人との繋がりも日本茶のように奥深く味わえるかもしれない。
登壇される茶農家(敬称略)
山水園(本山茶)茶師:内野 清巳
豊好園(清水茶)茶師:片平 次郎
益井茶園(川根茶)茶師:益井 悦郎

個性豊かな「農園茶」

今回のd-labo教室は「農園茶会」。セミナー当日の11月15日は、午前午後の部に分けて2回の「茶会」を開催した。講師としてお招きしたのは、スルガ銀行の地元でもある静岡県の茶農家の皆さん。司会は「日本茶教育」を通して日本茶の普及に努めている「お茶うけ屋」の金澤木綿氏。一般の人間にとって、日本茶というとペットボトルの緑茶ばかりが思い浮かぶ昨今だが、実は日本茶にはさまざまな種類や味がある。金澤氏によると「もっともおもしろい」のは「農園茶」だという。
「コーヒーやワインがそうであるように、お茶も作り手や産地が細かく分かれていて、それぞれに個性があります。今日はどれが良い悪いではなく、お茶にはいろいろなものがあるということを感じていただければと思います」
会場には3つのテーブルを用意し、参加者は7~8名のグループに分かれて20分ごとに移動。それぞれのテーブルで振舞われるお茶を味わうといったかたちで会は進行した。
静岡市の布沢で『豊好園』を営んでいる片平次郎氏が持って来たのは、甘味たっぷりの「かぶせ茶」。「かぶせ茶」とは「畑に網を張って強制的に日陰をつくる栽培方法」で作られたお茶のこと。一煎目の味は「玉露のようにとろっとした味」。それが「ニ煎目、三煎目になると普通煎茶に近くなる」。淹れる温度は一煎目は60度。急須や器に入れたとき、ちょうど手で持てるくらいの温度が60度だという。玉露やこのかぶせ茶のようなおいしいお茶は、「冷め過ぎる分には大丈夫」。逆に熱湯で淹れると渋くなってしまうので注意が必要だ。

かぶせ茶、青茶、紅茶……いろいろな味を楽しむ

実際に味わってみた「かぶせ茶」は、片平氏の言葉通りの「甘い味」。口に含んだ感じはまろやかで、「出汁がきいているよう」。そう感じるのは茶葉が持つアミノ酸=旨味成分のおかげだ。見た目は澄んだ薄い黄色。だが味は想像以上に濃厚。参加者からは「普段飲んでいるお茶と全然違う」という声が。一煎目ではまだ茶葉は開いていないから、ニ煎目、三煎目、四煎目と楽しむことができる。こんなふうに『豊好園』が作るお茶は「急須で飲むという文化が好きなマニア」に向けてもの。片平氏の茶畑は急峻な山間の傾斜地。平地と違い大量生産が難しいこうした茶農家が生き残るには、品種や味へのこだわりが不可欠だという。「たとえ売れなくてもいいからマニア心をくすぐるようなお茶を作りたいですね」と片平氏。来年は「静岡でいちばん高いお茶を作ろうかなと思っています」。『豊好園』のファンには楽しみな話だろう。
一方、川根町から来た益井悦郎氏が淹れてくれたのは青茶や紅茶などの発酵茶。最初に試飲したのは「つゆひかり」を水だしにした青茶。香ばしさと甘さが特徴のこのお茶は、日本茶アーティストの茂木雅世氏も気に入ってくれた一品だという。
『益井園』が位置しているのは大井川の上流域。ここで作っているのは「かほり」、「光」、「こまち」、「つゆひかり」といった品種。お茶には米で言うなら「こしひかり」のような「ヤブキタ」というメジャーな品種があるが、「うちではマイナーな存在」。茶農家としての益井氏のポリシーは「誰でも作れるお茶は作らない」こと。そこで着目したのが紅茶などの発酵茶を無農薬で栽培することだったという。今でこそ知っている人は少ないが、実は昔の日本は紅茶の大量生産国。明治維新以降、国家の政策で輸出品としての紅茶の生産が奨励されたという。が、それも1970年の関税撤廃を期に「絶滅した」。理由は「価格と品質で負けたから」だ。益井氏はその紅茶栽培の復活にあえて挑んだ。そうやって生まれた「みらい」という品種を使って作った紅茶は「ミルクの香りがするおもしろい紅茶」だ。緑茶の違いが「微妙でマニアック」なのに対し、発酵茶はその違いが口に含んだだけで「すぐにわかる」。その違いを生み出すのが「土」だ。
「ワインと同じで、隣同士の農家でも管理方法や土が違うと味が変わってくるんです」
そしてその「違い」が農園茶にとっては「ウリ」となる。実際、紅茶業界の人間が飲むとすぐに「これは益井さんのところの紅茶ですね」と言われるという。そして発酵茶は熱湯で淹れるのがいい。紅茶だからといってポットに入れて「ジャンピングで踊らせる」必要はなく急須で十分だという。

お茶の旨味を口の中で感じる

3軒目の茶農家は静岡市の栃沢にある『山水園』。代表の内野清己氏が飲ませてくれたのは今年の全国品評会で2等に入選した「清香」。このお茶を味わうときは「飲んではだめ」。
「まずは口の中に含んでころころと転がしてください」
言われたとおりにしてみると、口の中がふんわりと旨味に満ちる。この旨味は「そもそもこのお茶が持っているもの」。内野氏いわく「陸の昆布」だ。
「魯山人はお茶漬けを作るときにいいお茶を使えと言っていましたが、こういうことなんですね」
お茶うけに出されたのは地元で生産している酒蒸し饅頭。実は栃沢の『山水園』のすぐ近所には鎌倉時代に日本に酒蒸し饅頭の製法をもたらした聖一国師(しょういちこくし)の生家が残っているという。京都東福寺の開祖でもある聖一国師はまた静岡に茶を伝えた人物でもある。そこで地元を紹介するアイテムとして内野氏が和菓子業者に依頼して作ったのがこの酒蒸し饅頭だという。饅頭は「ひっくり返してお尻からパッと割って食べるのが通」。こうした話を聞きながら楽しむ茶会は「大人のおままごと」。内野氏は時間があるときは自宅を開放しての「茶会」をよく開いているという。この日振る舞ってくれた「清香」はすべて手摘みで摘んだもの。プロが摘んでも1時間で200グラムほどしか採れない貴重なお茶だ。
教室で味わったお茶は、もちろんすべて直販での購入が可能。だが、まったく同じ味を再現するのは意外と難しいともいう。日本のお茶は淹れ方や温度で味が変わってくる。そこがまたお茶のおもしろいところだ。「実は淹れ方には正解があるわけではありません」と金澤氏。
「温度を調節しながら味を引き出す。いいお茶は氷を入れてもすごく美味しいですし、自分の好みを見つけるといいでしょう」
日本のお茶はおいしい。その潜在力を舌と喉で感じた農園茶会だった。
 

講師紹介

金澤 木綿(かなざわ ゆう)
金澤 木綿(かなざわ ゆう)
お茶の間創造プロデューサー
25歳で日本茶に興味を持ち、東京から静岡へ移住。問屋・小売を学び2年間農業研修をしながら、業界全体の現場経験を積む。紅茶・中国茶、世界のお茶を学び、ティーセミナーを開催することで世界から見た日本茶という視点を身につける。日本全国各地の農園とパートナーを組み、“農園茶の認知と、お茶する時間の普及活動”の場として、お茶うけ屋を開始。お茶の間トレーナーとして日本の茶文化を活用したコミュニケーションセミナーや現代版茶道コーチングなどを行なう。
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