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イベントレポート

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2014年11月18日(木) 19:00~21:00

大山 顕 (おおやま けん) / フォトグラファー・ライター

「マンションポエム」から見る東京

折り込みチラシや中吊り広告で目にする、高級マンションを形容した華やかなコピー、「マンションポエム」。この「マンションポエム」を収集・分析していくと、人々がイメージしている東京の姿が見えてきます、と語る大山氏。今回はこのほかに首都圏の各路線について何駅までが東京だと"感じるか"をアンケート調査した「どこまで東京?」プロジェクトや、東日本大震災時に帰宅難民になった首都圏住民の記録「帰宅ログ」プロジェクトについてのお話を交えながら、これまでと違う形の東京論をご紹介いただいた。

マンションの「商品性」がよく出ているのが「マンションポエム」

「今日は僕が東京のイメージを語るときに使う3つのネタを持って来ました」
これまでに工場をテーマにした『工場萌え』や、団地の見かたを提案した『団地の見究』といったユニークな著作を世に送り出してきた大山顕氏。今回のセミナーではマンション広告のコピーである「マンションポエム」に、人々がイメージする東京とはどこまでを指すかといった意識調査「どこまで東京?」、そして東日本大震災当日に都内にいた人々がいかにして自宅まで帰ったかを記録した「帰宅ログ」の3つについてお話しいただいた。「身になる話はしません。笑って楽しんでいただければ嬉しいです」という言葉通り、2時間のセミナーは笑いや感嘆の声が絶えない楽しい時間となった。
前半のトピックは「マンションポエム」。これはチラシや分譲マンションの特設サイトで目にする広告コピーのこと。『洗練の高台に、上質が聳える(そびえる)。』、『都心にあって喧噪の遥か。川辺の安らぎに抱かれた、悠久の邸。』、『閑静なる丘、刻を紡ぐ邸』、『奏であう洗練の邸』と、慣れているとそういうものだと「スルー」してしまうが、よく見ると大仰で文章的にも不自然なコピーの数々。こうしたコピーがなぜ生まれるか。理由は「団地とマンションの違いを見るとわかりますが、団地がインフラであるのに対し、マンションは商品であるから」だという。
「その商品性がよく出ているのがマンションポエムなんですね」
これまでマンションポエムをひたすらアーカイブしてきた大山氏。見ていると、そこにはいくつかのパターンや特徴があるという。
「まず目立つのが句点。最後に必ず『。』がつく。観測した限りでは『モーニング娘。』が登場した頃からこの傾向が見られるようになっています」

「マンションポエム」が隠しているもの

「当て字」もマンションポエムならでは。マンションポエムでは「家(いえ)」は「邸」であり、「時(とき)」は「刻」であり、「住む(すむ)」は「澄む」、「森(もり)」は「杜」と書くことが非常に多い。その内容は「『歴史と緑が織り成し』がち」で、「『多くの文化人が愛し』がち」、「『心地良い風が吹き』がち」、そして「『奏で』がち」なものばかり。他に目立つのは「ドリカム系」。『SHINONOME COMES TRUE』や『Your Dreams Come True』、『DREAMS COME TOWER』などがその一例。また、ブランド力のある地名を加えるのもよくあるパターン。『渋谷・代官山・中目黒、そして学芸大学。』と、まるで電車の車内アナウンスのようなコピーがあったりする。他方、『ここに住むこと、それは札幌都心のすべてを手中にすること。』や『田無の街を手に入れる。』というような「世界征服系」もよくある。愉快なのは、よく見るとそのコピー自体に注釈がついていること。例えば「東京を頂く」というコピーには、『“東京を頂く”とは、都心立地、駅直結により数々の東京の魅力を手に入れる生活や、53階建ての本物件より東京を見晴らす生活を追求し、表現したものです』といった説明がついていたりする。
「おそらくは会議で、このコピーの意味がわからないとお客さまからクレームがきたらどうしようと誰かが言い出して、よし、それなら注釈をつけよう、ということになったのでしょうね」
「大の大人」が集まって意見を交わした末にこうした「ポエム」が生まれるのはひとつの「ミラクル」。東京で見ると、とくに「地名」を出してくるのは都心の港区。対して都内でも東側は「江戸文化や歴史」を謳いあげる。千葉や埼玉といった郊外だと「日射し」や「利便性」など具体的なコピーが増える。埋め立て地の臨海部は、やたらと「東京」を前面に打ち出すものが多い。
こうしたマンションポエムは、最近では特設サイト上でショートストーリーになっていたり、あるいはハートフルなアニメーションになっていたりと進化している。
「時間があればぜひマンションのホームページを見てください。おもしろいですよ」

人々がイメージする「東京」とは

一方の「どこまで東京?」は、実際の行政界は別として、東京、神奈川、千葉、埼玉などに住む人に鉄道の駅でイメージしてもらった東京の範囲。都心や山手線から放射状にのびるJRや私鉄の駅で、人々がここまでが「東京」と感じる駅は、立川や吉祥寺、千歳烏山、成城学園前、二子玉川、田園調布、蒲田、新木場、北千住、赤羽、成増などであった。
最後は「帰宅ログ」。あの震災の翌日から、大山氏はインターネットを通じて多くの人から「どうやって家に帰ったか」を聞き出した。浮かび上がったのは、一人ひとりにストーリーがあったということや、中心に皇居があったり、道路標識が自動車用にしか作られていないという徒歩で歩くには不便な東京という都市の実態。それに「ひとりでいるのは辛い」が「知らない人に話しかけるのが苦手」な都会人の体質。大山氏の「夢」は、こうした異常事態や災害時などに「一時的でも知らない人同士が話せて助けあえるような都市に東京がなる」ことだという。
「日本人はこうしたコミュニケーションを培っていない。それを学んでいきたいですね」

講師紹介

大山 顕 (おおやま けん)
大山 顕 (おおやま けん)
フォトグラファー・ライター
1972年千葉県生まれ。フォトグラファー・ライター
主な著作に『工場萌え』『団地の見究』(いずれも東京書籍)、『高架下建築』(洋泉社)、『ジャンクション』(メディアファクトリー)などがある。雑誌やイベント、TV、ラジオ番組など幅広く活躍中。
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