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イベントレポート

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2014年12月9日(火)19:00~21:00

家 正則(いえ まさのり) / 国立天文台教授

すばる望遠鏡と次世代30m望遠鏡で見る宇宙

「129億光年」という、現在知られているうちでもっとも遠い距離にある「最遠方銀河」の姿を捉えた「すばる望遠鏡」。そして、いよいよ今年から建設が始まった「次世代超大型30m望遠鏡TMT」。2020年代はこのTMTによる第二の地球探査や宇宙の一番星、ダークエネルギーなど「宇宙の謎」の解明が期待されている。この二つの望遠鏡の構想段階からかかわっている国立天文台教授の家氏に建設秘話や最新の研究成果、望遠鏡の視力を10倍に向上させるハイテク技術「補償光学」についてVTRと画像を中心に、分かりやすくお話しいただいた。

撮像観測と分光観測で天体の特徴がわかる

家正則氏が天文学の世界に入ったのは40年ほど前。最初に東京大学でそれを学んだときは、物理や化学と違い、「研究対象に働きかけることができず遠くから観るだけ」の学問である天文学なのに、「あたかも間近で見てきたかのように話す先生たち」に驚きや違和感を感じたという。
「それがこの業界に長くいると、自然と自分もそうなってしまうんですね」
天文学者としての家氏の研究対象は「宇宙の歴史」。約137億年前のビッグバンから始まったとされているその歴史を知るのにいちばん良い方法は、宇宙が誕生して間もない頃にできた「遠くの銀河」を観測することだ。実際、これまでに幾度も今回のセミナーのテーマである「すばる望遠鏡」を駆使して128~129億光年先の遠方銀河を発見してきた家氏。このセミナーでは、その立役者となった「すばる望遠鏡」と2021年頃の完成を目指して建設中の「次世代30m望遠鏡TMT(Thirty Meter Telescope)」、さらにそれらの望遠鏡で観測できる宇宙について、まさに「見て来た」かのような臨場感溢れる語り口でお話していただいた。
セミナー冒頭、「序論」として見せてくれたのは「色をわかりやすくするためにわざとピンぼけにして撮影したオリオン座」の写真。おなじみの長方形に3つ星の星座は、左上のベテルギウスが赤く、右下のリゲルが青く光っている。天文学の観測の基本はこうした写真撮影(撮像観測)。実はこの写真1枚見ても、色の違いなどからその星がどういう星かがわかるという。
「色は星の体重の目安。星は生まれたときの体重がその星の一生を決めてしまうものなんです」
太陽を基準に考えると、それより重い星は核融合反応が激しく進むので、「太く短く生きる」。逆に太陽より軽い星は「ちょろちょろ燃えるから一生が長い」。観測に不可欠なのが高性能の望遠鏡だ。天文学者は写真撮影だけではなく、天体の光を分光器を使って、スペクトルに分ける観測もする。するとそこから星の表面温度や「どんな元素がどれくらいあるか」といった「物理学の情報」を得ることができるという。

遠くの宇宙を見るには大きな望遠鏡が必要

望遠鏡の焦点面にデジタルカメラのイメージセンサーを置けば、写真撮影ができる。もちろん、より遠くの星を観測するには望遠鏡の鏡は大きければ大きいほどいい。なぜならば、大きな鏡はそれだけ多くの光を集めることができ、肉眼や小さな望遠鏡では見えない遠くの暗い天体も写真に収めることができるからだ。1999年に完成した「すばる望遠鏡」も「より大きな望遠鏡がほしい」という声から生まれたもの。計画がスタートしたのは1984年。ちょうど家氏が2年間のヨーロッパ留学から帰って来たときだったという。
「国立天文台に戻ったら、当時の上司の小平桂一先生に勉強会を開くようにと言われまして、それで計画に携わるようになったんです」
この頃、日本にあった最大の望遠鏡は岡山天体物理観測所の「188㎝反射望遠鏡」。それに対し準備を始めた新しい望遠鏡は世界最大の口径8m。都市の明かりが邪魔をする日本国内には、もはや最先端の望遠鏡を設置するのに適した場所はない。そこで選ばれたのがハワイ島のマウナケア山、山頂だった。準備期間は7年。400億円の概算要求が通って建設が始まったのは1991年。完成までに9年を要した。なかでも大変だったのは直径8mの主鏡の製作。膨張率0%というガラスの完成までに4年、そこからまた4年の研磨作業を経て、製造地のアメリカ本土からハワイへと細心の注意を払って運ばれた。「ファーストライト」は1998年12月24日。最初に望遠鏡を向けたのは北極星だった。試験観測ではハッブル望遠鏡と「真っ向勝負」。相手は空気のゆらぎがない宇宙空間の望遠鏡だけに「負けると予想していた」が、結果はどちらも28等星までが見えるという「引き分け」。これはスタッフにとって「たいへん嬉しいこと」だったという。以来、「すばる望遠鏡」は大気による「ゆらぎ」を補正する「補償光学」や「レーザーガイド星」などの技術開発を重ね、完成から15年が経つ今も、家氏のチームによる最遠方銀河の発見など次々と新たな成果を挙げている。

圧倒的な性能で宇宙の謎に迫るTMT(30m望遠鏡)

そうした成果のなかで「いちばん素晴らしかった」のは「計画書にはなかった、当時は予想できなかったことがわかった」こと。高精度の望遠鏡での観測は「新たな謎」をもたらしてくれる。そうなれば当然、「さらに大きな望遠鏡がほしくなる」。が、それには一国の予算ではまかないきれない莫大な費用がかかる。現在、すばる望遠鏡と同じマウナケア山で建設が始まったTMTは総予算約1,500億円。日本、アメリカ、カナダ、中国、インドの5か国の国際協力のもとにプロジェクトが進められている。
TMTの性能は「東京から大阪にある1円玉の数が数えられる」ほどのもの。これほどの望遠鏡で研究者たちが見ようとしているのは、「宇宙の歴史」や「第二の地球」、それに最近話題となっている「暗黒エネルギー」などだ。「すばる望遠鏡」では「写真を撮るのが精一杯」の誕生間もない頃の「原始銀河」のスペクトルもTMTなら観測可能。そうなれば「すばる望遠鏡」との連携で「10年後に日本人の研究者がノーベル賞をとれるかもしれない」。また、現時点ですでに3,000個が発見されている太陽系外の惑星もTMTであればより詳しく観測することができる。そのなかには地球と同じ水を持つ青い星があっても不思議ではない。本当に存在するかどうかはっきりしていない「暗黒エネルギー」についても、TMTの性能をもってすれば検証できる可能性がある。
40年の研究者人生を「非常に幸せな時代に天文学者になれた」と振りかえる家氏。「夢」は「日本人の天文学者が『第ニの地球』、あるいは『宇宙の一番星』といったものを見つけたり、『暗黒エネルギーの謎』に迫ること」だという。
「私自身もそれを一緒にやれるといいなと思っています」
会場に集まった多くの参加者からの大きな拍手とともに、セミナーは幕を閉じた。

講師紹介

家 正則(いえ まさのり)
家 正則(いえ まさのり)
国立天文台教授
1977年東京大学大学院博士課程を修了、同大理学部助手、東京天文台助教授を経て、1992年より国立天文台教授。すばる望遠鏡建設と次世代30m望遠鏡計画をライフワークとし、補償光学装置を開発。「129億光年かなたの最遠銀河の研究」で日本学士院賞。紫綬褒章、東レ科学技術賞、仁科記念賞なども受賞している。現在TMT計画日本代表、およびTMT国際天文台評議員会副議長。趣味はテニス、ギター、囲碁。