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イベントレポート

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2014年12月13日(土)14:00~15:00

大野 利可 (おおの りか) / 横笛奏者

~音を通じて日本のこころに触れる~
d-labo 篠笛ミニ演奏会

日本の木管楽器のひとつである篠笛。竹の割れ止めに藤を巻いて漆を塗る以外はほとんど装飾することなく竹そのものといった簡素な姿をしている。元来は長唄や民謡、歌舞伎の囃子などで使用されてきたが、近年では既存の枠を超えて、さまざまな場面で演奏されるようになった。今回の演奏会では、水のようになめらかに優しく響き渡る篠笛の音色に耳を傾けていただき、素朴ながら日本の風土に息づいた、奥の深い篠笛の魅力をお届けした。
賛助出演:高木 正夫 (能楽シテ方観世流)

ドレミでは割り切れない音が出せるのが篠笛

ミニ演奏会の1曲目は、奏者である大野利可氏のオリジナル曲『出逢い』から。しばし七笨調子の篠笛の澄んだ音色に浸ったところで、篠笛というものについてあらためてお話しいただいた。
「篠笛は日本古来の横笛です」
素材は篠竹。釣り竿にも用いられるというこの竹の特徴は「一節が長いこと」。
「篠笛は基本的にはこの長い一節で作られています。篠竹は節から次の節へ向かうところが少し太くなっていて、先にいくにつれ細くなっている。楽器にするのに適した竹なんですね」
祭りやお神楽、獅子舞のお囃子に欠かせない篠笛の音色は、日本人ならば誰でも聴いたことがあるはず。歌舞伎の音楽の中にもお囃子方として登場するし、民謡の伴奏でも尺八と一緒に使われる。「チームで演奏することが多い」が、手軽な楽器なので個人でフルートのように演奏して楽しんでいる人も多い。
種類は、いちばん低い音の出る一笨調子から十二笨調子まで12種類。最初に吹いてもらった『出逢い』は中程に位置する七笨調子が似合う曲。江戸の祭りでよく使われてきたのは六笨調子。六笨、七笨といった調子の笛は高い音も低い音も出せるため、篠笛を始めるときの最初の一本に向いている。技術が向上し、レパートリーが増えるにつれ、またその目指す音楽によって篠笛奏者はその曲に合った調子の笛を使うようになっていくという。そして、その音色から鳥を連想する人も多いのではないだろうか。事実、民謡の世界では笛のことを「とんび」と呼ぶこともある。
2曲目はその「鳥」をテーマにした唱歌『とんび~浜千鳥』。そして3曲目は「低い音色」の三笨調子を使った創作曲『ひとり』。
ふたつの曲を聴いてわかるのは、「洋楽のドレミでは割り切れないような、その間の音が出せる」という篠笛の優れた点だ。例えば奏法のひとつである「メリカリ」。これは「顎を出したり引いたりすることで音程を変える」といった奏法。
「尺八と同じように横笛メリカリや、スリ上げなどいろいろな奏法があります」
奏者はこうしたテクニックを駆使して演奏を行なう。これが篠笛の魅力のひとつだ。
「非常に単純な楽器なんですが、非常に奥深くおもしろい。それが篠笛です」

ホルストの名曲も篠笛版で演奏

一般の人には、祭り囃子で耳にする甲高い「ひゃらひゃらとした音」のイメージが強い篠笛だが、これは「囃子用」と呼ばれる仕様の楽器を使っている。穴の数や間隔を調整することで、実際にはいろいろな音階の音が出せる。もちろん洋楽のドレミ調を再現することもできる。そのためか、大野氏のような奏者のもとには独奏だけではなく、ピアノや洋楽器とのコラボレーションなどの依頼もくるという。今回のミニ演奏会では、そうした洋楽の中でも「篠笛に似合うのでは」という声がよく聞かれるホルストの組曲『惑星』の1曲から『ジュピター(木星)』を演奏。「ただ旋律を吹くだけではなく、篠笛の特徴を取り入れた」という大野氏ならではの「篠笛版ジュピター」を堪能した。
5曲目は、ミニ演奏会後半の高木正夫氏との「実験的なコラボレーション」を前に、能で使われる能管を使用しての創作曲『雪~月の舞』を披露。お雛様の五人囃子でも使われている「能管」は武士が愛好したもの。その構造は内部に「のど」と呼ばれる一回り小さい竹管を入れているのが特徴。武士のストイックな精神性が反映されたものか、「単純に言うと吹きづらい笛」。大野氏から見ても「わざと吹くのを大変にし、音階をこわしている。世界中でも珍しい不思議な笛」だという。
一部の最後はポピュラーな曲。『荒城の月』と『さくら』を篠笛七笨調子で吹奏。休憩を挟んだ二部では、高木氏に登場いただき、能楽シテ方観世流の謡と能管の共演を楽しんでもらった。大野氏と高木氏は「笛の師匠を通しての縁」。まずは「名刺代わりの挨拶」としての小謡『猩々』。シテ方の謡が会場に響き渡ったあとは、日本の伝統芸能である能と、二部の曲目について高木氏に解説をしていただいた。一般の人の能に対するイメージは「敷居が高い」といったもの。だが、その世界で生きている高木氏の言葉を借りれば「そんなことは全然ない」。実は普通の人でも楽しめる能。その能が世界無形文化遺産に登録されたのは平成13年のことだ。
「登録されたってことは、放っておくと絶滅するよってことなんですね。ですから、なくならないようにと、こうして機会があればみなさんに能に触れてもらっているんです」

能の名場面をコラボレーションで

謡と囃子と舞からなる能は「歌舞劇」。場面はニ場に分かれていて、「だいたい多いのが、最初は幽霊が人間に化けて出てきて、幕が終わると次は着替えて幽霊になって出てくる」といったもの。素材の代表格は『平家物語』。ここではその中から『舟弁慶』と『敦盛』を大野氏の能管とのコラボレーションで楽しんだ。
『舟弁慶』は義経一行と静御前の別離を描いた作品。別れる前、静御前は舞を舞う。今回はその舞が終わり、悲しみながら「そろりそろりと帰って行く場面」を参加者に想像してもらいながら、「静は泣く泣く」という地謡と大野氏の笛を聴いてもらった。もうひとつの『敦盛』は、戦いの最中でも舞うことを忘れなかった平敦盛の「中之舞」をやはり想像しながら、長い能の「おいしいところ」を鑑賞した。
コラボレーションの締めは結婚式などでよく謡われる『高砂』の最後の部分の「千秋楽」。高木氏の謡う「千秋楽は民を撫で、萬歳楽には命を延ぶ、相生の松風、颯々の聲ぞ楽しむ、颯々の聲ぞ楽しむ」といった歌詞のあとに大野氏の笛。「実験的」という謡と能管の組み合わせは聴いていると少しも違和感がない。
二部最後の曲は「能の題材と篠笛にぴったり」の『青葉の笛』。これを鑑賞し、演奏会は終了した。 慌ただしい師走の期間に開催された篠笛ミニ演奏会。ほんの一時ながら、集まった参加者には、ゆったりとした贅沢な時間を味わってもらえたに違いない。

講師紹介

大野 利可 (おおの りか)
大野 利可 (おおの りか)
横笛奏者
東京都出身。国立音楽大学卒業。篠笛・能管を鯉沼廣行師に、一噌流能管を故・一噌幸政師に師事。日本の伝統音楽を軸に、オリジナル作品の創作と演奏、後進の指導を行なう。国内の寺院、茶室、ホール、能舞台、屋外などでの演奏だけにに止まらず、音楽を通しての国際交流(アメリカ、韓国、モンゴル、ドイツ、ハンガリー、ロシア等)も行なっている。2000年より埼玉県比企郡川島町の無形民俗文化財「伊草獅子舞」の笛の継承に携わる。
大野利可公式HP