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イベントレポート

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2014年12月18日(木)19:00~21:00

生島 淳(いくしま じゅん) / スポーツジャーナリスト

観て楽しむマラソン、駅伝
2014~2015シーズンを読み解くキーワード

日本の企業、大学はなぜ長距離の強化に力を入れるのか?大学の強豪校にはなぜ、栄枯盛衰があるのか?その背景には経済的な事情、大学、企業のマーケティングなど様々な理由が見えてくるという。本格的なマラソン、駅伝シーズン到来の前に「知のウォームアップ」をかねてスポーツジャーナリストの生島氏にご紹介いただいた。

川内優輝選手にはトラックでも自己ベストを!

スポーツジャーナリストとして大学駅伝やマラソンなどに精通している生島淳氏。今回のセミナーでは半月後に迫った『箱根駅伝』や、2020年に開催される東京オリンピックを控えて強化が始まった日本のマラソンについて、計40のキーワードを軸にお話していただいた。常に取材の第一線で活躍している生島氏だけに、その口から語られる話はどれも参加者の関心を満たしてくれるものばかり。この場に来たからこそ聴くことのできる最新情報なども含めて、陸上競技ファンにはたまらない内容となった。
セミナー冒頭は「マラソン」。早稲田大学の渡辺康幸駅伝監督によると、日本男子マラソンの現状は「川内優輝選手と中本健太郎選手だのみ」だという。中本選手はロンドン五輪の代表選手。川内選手は実業団に所属せず、「練習」としてフルマラソンに連続出場していることで、いまや日本でいちばん有名になっている選手だ。
「彼が最初に注目されたときは、陸連の関係者は、あんなにレースに出ていたんじゃつぶれるよ、と否定的だったんですけど、最近は多くのレースで好成績を残していることから、非常に評価が高まってきています」
ただし、世界で戦うにはもっと「スピード」がほしいところ。川内選手の自己ベストは2時間8分14秒だが、これを2時間7分台に持っていけるかどうか……。
「スピードを磨く意味では、川内選手にはトラックレースにも積極的に出てほしいですね」
余談だが、川内選手は3人兄弟の長兄。実は下の弟2人も長距離の選手だという。『箱根駅伝』を見ても親子や兄弟で出場している選手は多い。そういう点で「長距離は遺伝子スポーツ」。もし親が長距離ランナーだったとしたら、その子どもは素質を受け継いでいると考えていいという。

人間のコンディションのピークは「2週間」が限界

渡辺監督は著書の中で、長距離では「低酸素」や「ミトコンドリア」などが流行のキーワードになっていると書く。近年の長距離走は、練習環境はもとより、生物学、栄養学といった科学の面からもサポートされている。そしてそのサポートの差が結果につながっていることがこれらのトピックからは窺える。東京オリンピックに向けての強化については「長距離に比べて短距離の方が進んでいる」
「短距離は400mリレーでのメダル獲得という具体的な目標が決まっている。長距離は準決勝もしくは決勝に進出する選手を育てるといったところでしょうか」
長距離が「まとまらない」のは「利害関係が多い」ことも問題のひとつ。
一方で世はマラソンブーム。最近ではこれが駅伝を走る大学の選手たちにも波及してきているという。生島氏が耳にしている範囲でも、有力校の監督たちは箱根駅伝が終わったあとに、選手たちにフルマラソンへの挑戦をさせるつもりでいるそうだ。ここで生島氏が触れたのは往年の名選手である瀬古利彦氏。
「大学時代の瀬古さんは12月に福岡国際マラソンで優勝した翌月、箱根駅伝の2区で区間賞をとっています」
瀬古氏は「特別な人」だが、駅伝選手のマラソンレース出場が恒常化していけば、日本のマラソン選手の層はもっと厚くなるに違いない。
注目の「箱根駅伝」は、台風の影響で中止となった『2014出雲駅伝』の話から。『出雲駅伝』は大学駅伝の中でもシーズンの幕開けを飾るレース。各大学はこれに照準を合わせて調整をつづけてきたが、中止になったことでさまざまな影響を受けたという。早稲田大学は「翌週の記録会が選手たちのピーク」になってしまい、大舞台の経験不足をこのレースで補おうとしていた東洋大学は「あそこでブレイクできなかった」ことで、11月の全日本大学駅伝では4位に終わってしまった。
「『出雲駅伝』の例からわかるように、僕の仮説では人間のピークはスポーツに限らず2週間が限界。箱根駅伝も1月2日、3日にピークが来るように調整していかねばなりません」

注目の『箱根駅伝』、今年の「5強」は?

次のキーワードは「5強」。2015年の『第91回箱根駅伝』における5強は、駒澤、明治、青山学院、東洋、早稲田の5大学。中でも「大本命」は駒澤大学。全日本大学駅伝でも優勝した駒澤大学には村山謙太、中谷圭佑、中村匠吾という「ビッグスリー」が存在する。「全日本大学駅伝を見ても駒沢は強いなと思いました」
明治大学はというと「今年の4年生は最強世代」。各大学の強さは年度を遡れば「だいたいわかる」と生島氏。その年の高校の上位ランキング選手が「ごそっと入った」大学は、それが4年後の箱根駅伝で結果として表われる。そこから考えると「今年の4年生は明治大学が圧倒的に強い」。
一方、青山学院大学はというと「3年生が強い」。この3年生に刺激を受けた4年生の頑張りも期待できるし、2年生にはエースがいる。「先行逃げ切り」が予想されるレースだが、7区、8区辺りで青山学院大学がレース展開を変える可能性はある。一方、2012年まで「山の神」と呼ばれた柏原竜二を擁して他大学の区間配置にまで影響を与えていた東洋大学は「今年はチャレンジャー」。早稲田大学は「特殊区間に自信あり」。特殊区間とは「山」の5区と6区。他大学に比べて経験者が残っている早稲田大学はこの5区と6区で「見せ場をつくる」可能性が大きい。生島氏も「今年は5区に優秀な選手が集まった山フェスになるのでは」と予想している。
今回の優勝の可能性がある学校は、序盤にスピードランナーがいること、そして山の経験者がいることを踏まえて……。駒澤大学、青山学院大学、早稲田大学の3校だが、さてどうなるか。
箱根駅伝に代表される大学駅伝は「日本の大学スポーツでもっとも人気が高いもの」。それゆえに各大学はしのぎを削って優勝争いやシード権争いに挑む。だがいくら有名であっても、基本的には「大学生の部活」だ。例えば、青山学院大学の原晋監督は最後の10区には苦労してきた4年生を「大学の顔」として走らせる。生島氏はそんな人間味溢れるところにも大学駅伝の魅力を感じるという。40のキーワ―ドではそうした監督たちの箱根駅伝に向けての抱負も紹介。質疑応答の後、最後は生島氏の「今後の夢」を聞いてセミナーは終了した。
「夢は錦織圭のテニス4大大会を完全取材すること。この目で錦織選手が優勝するところを見たいですね」

講師紹介

生島 淳(いくしま じゅん)
生島 淳(いくしま じゅん)
スポーツジャーナリスト
1967年宮城県生まれ。早稲田大学卒業後、広告代理店に勤務。1999年から独立、近年はオリンピック、アメリカスポーツ、駅伝などを中心に取材。『Number』(文藝春秋)では『人を動かす名将の言葉』を連載、NHKBS1『ワールドスポーツMLB』土日版のキャスターを担当。