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イベントレポート

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2014年12月19日(金) 19:00~20:30

杉村 知美(すぎむら ともみ) / 写真家

「duo tone」
~写真と私~

「duo tone(デュオトーン)」とは印刷用語で、同じ版を異なる調子で刷ることによって出来上がりの階調(色や明るさの濃淡の変化)を豊かにする方法のこと。杉村氏の写真作品は、2つの画を重ねたり、組み合わせたりして制作している。似ている2つ、対照的な2つ(表と裏、理性と直感など)、または全く関係がないようにみえる2つなど、さまざまな要素の"2つ"を重ねる(組み合わせる)ことによって深みが増し、魅力的な写真作品が出来上がる。セミナーでは、杉村氏が写真を撮るようになったきっかけや、作品の制作方法、写真と杉村氏との関係などをお話しいただいた。

小さなキューブが人生を変えた

今年は6回の展示を開催したという杉村知美氏。2014年の最後を飾ったこのセミナーでは、d-laboに展示中の杉村氏の作品も鑑賞しながら、写真との出会いや作品の制作方法などについて伺った。
杉村氏が写真というものと向きあうようになったのは大学時代。母校の岡山県立大学でデザインを学んでいるときだったという。ただし、その頃の自分にとって写真とはあくまでも「学校の行事などで記念に撮るもの」。
「大学では写真の授業もあったんですけれど、意識して制作に使いたいとは思っていなかった。写真は基本的にはあとから“あのとき楽しかったね”と思い出すためのものでしかありませんでした」
4年間の大学時代には、地元向けのウェブマガジンを制作するという機会もあった。そのときも記事に必要な写真は撮ったが、現在のような作品制作には至らなかった。子どもの頃から好きだった絵ならば「自分が頭に描いているものをビジュアルに起こせばいい」。しかし写真となると「絵とは頭の使い方が違う。何を撮ったらいいか全然わからなかった」。写真はむしろ「自分には合わないもの。好きじゃない」と思っていた。それでも大学院入試時に必要なポートフォリオには、使えるものが写真くらいしかないから、15枚ほどの写真で作品を制作した。
転機が訪れたのは大学院の2年目。春にグループ展を開くことになり、ここでもとりあえず写真を展示することにした。「自分でもよくわかっていなくて不信感を持ちながら」の展示準備が終わり、翌日の開催までぽっかりと時間が空いたときだった。ふと思いたち、「自分の趣味というか、工作でもするような気分で」、間に写真を挟み込んだキューブ状の立体作品をつくってみた。おまけのつもりで作った作品はいざ展示してみると「びっくりするくらい褒められました」。
「みなさんすごく真面目に見てくださって、あんなに褒められたのは子どもの頃に絵が上手だねとほめられて以来でした」
正直に言えば、「自分は作家やデザイナーには向いていない」と諦めかけていたときだった。だが、自分の作品に感動してくる人たちを目にして気持ちが変わった。同時に写真に対する姿勢も変わった。
「やっとやりたいものが見つかった。これをきっかけに写真家としての活動を始めました」

撮影方法は「歩いて撮る」

のめりこんで撮り始めると、それまでは知らなかった写真の魅力に気付いていった。写真は「今を表現できるメディア」であるとともに見る人に「懐かしいという感情を抱かせる」ものでもある。自分の写真だけではなく他の写真家の写真を見ても感動するようになった。写真ならではの物の見方や感じ方、そういったことを知るにつれ、どんどん抜け出せなくなっていった。
「作品制作中は余計なことは考えずに集中しています。今までこんなに夢中になれるものはなかったですね」
大学院を卒業した現在は「写真のことをずっと考えながら生活している」。今回、d-laboでも開催した個展『duo tone』では、前述したキューブ作品「transparent bodies」の他、2枚の写真を横に並べた「twin image」、フレームでの1枚展示作品「hide the face」の3つのシリーズを展示。ただ撮影するだけではなく、そのあとに立体化などの作業が加わるのが杉村氏の作品の特徴だ。
「まず撮影をして、次に写真を選ぶ。どのシリーズにするか決まったら、例えば「transparent bodies」の場合などは、写真を透明のフィルムに印刷し、アクリル板に挟んでキューブ状に仕上げていきます」
「transparent bodies」の特徴は2枚の写真が間を開けて配置されている点。これを正面から、斜めからというふうに角度を変えて見る。光の当て方によっても印象は変わる。どう見るかは「見る人の自由」だ。
撮影方法は「歩いて撮る」が基本。最初にコンセプトを決めたりはせずに「そのときに行きたいところに行きます」。
「この辺に大きな公園があるから行ってみようとか、あの駅は街並みがおもしろそうだから降りてみようとか、そんな感じです」

自分の作品で「空いている時間や空間を豊かにしていきたい」

歩いては目についたものを愛用の一眼レフで写真におさめる。気がのれば1時間でも2時間でも「ずっと歩く」。撮影中はどのシリーズに使うかなどは考えず、頭を空っぽにして撮る。そうやって撮ってきた写真は「一回、ざーっと並べていいなと思ったものを選ぶ」。色や構図は多少意識するが、あまり深く考えず感覚でチョイスする。それからさらにもう一度セレクション。このときは具体的に「キューブにするならこれ」、「ツインイメージならこれとこれ」というふうに選ぶ。そうやって選び抜かれた風景や人物の写真を用いて作品を制作する。最近の「写真を選ぶ基準」は「自分でも不思議な感じがするもの」。一見、「何を写しているんだろう」と思われるような、不思議だけどすごく惹きつけられる写真。この傾向はとくに3つのシリーズの中でもいちばん新しい「hide the face」に見られる。
作品制作の最後は「タイトルづけ」。撮影中は「無心」で、写真選びでは「頭を使う」。そしてタイトルは「どうやって人に伝えるか」に傾注する。3つの作業は「ばらばらの人格を持つ人がやっている感じ」だという。そうして生み出された作品は写真評論家の飯沢耕太郎氏をはじめ、多くの人々に評価されている。その一方で、通常の写真展などで見られる写真作品とは違いアート的な技法も含まれているため、ときに「これは写真なのか」と指摘を受けることもある。けれど「どんな形であれ、結局は写真」。だから「写真展に出していいと思っています」。
「今こうした場所で写真について話しているのが不思議」と語る杉村氏。
「遠い存在だった写真を近づけてくれたのはおまけで作った小さなキューブ。こんな小さなことで人生が変わることってあるんだなと実感しています」
写真を撮りつづけていきたい。そう願う杉村氏の「夢」は「展示を100回やること」。「人にいいねと言っていただけるものを作りたい。それによって空いている時間や空間を豊かにしたい。人の心や気持ちに何かちょっと刺激を与えることができればいいですね」

講師紹介

杉村 知美(すぎむら ともみ)
杉村 知美(すぎむら ともみ)
写真家
1988年 島根県生まれ。2013年 、岡山県立大学デザイン学研究科を修了。透明なキューブ状の立体作品(「transparent bodies」シリーズ)を中心に、さまざまな作品を制作している。これまでの展示に『“The Emerging Photography Artist 2013”-新進気鋭のアート写真家展-』(2013年、東京)、『わたしのかたち[form]』(2014年、島根)、『AXIS フォトマルシェvol.1』(2014年、東京)、『倉敷フォトミュラルf・個展部門』(2014年、岡山)などがある。