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イベントレポート

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2015年2月7日(土)14:00~16:00

髙山 正樹(たかやま まさき) / 建築デザイナー

デザインの子(ね)

日本の家は、他のアジアの国々と同様木造建築が基本であり、焼き瓦、藁葺き屋根、しっくい壁、塗り壁、障子や襖、畳といった身近な素材を巧みに使い、リサイクル可能な工法で造られてきた。150年前に西洋文化を取り入れ近代化してきたが、山や海の四季の移り変わりを借景として楽しみ、囲炉裏や土間、縁側といった日本的空間を活かした独自のモダン建築として発達し続けている。現在日本文化は、「クールジャパン」として世界に評価されるものとなった。その中で日本建築文化は、細部に見え隠れする綿密な細工と伝統を引き継ぎながら、西洋と融合したデザインとして発信されている。伝統的文化を大切にしながら家造りを行ない、新しい生活動線を考えているデザインの子(ね・根)について、自作を通じて語っていただいた。

「ものの始まり」を学ぶ

この日、会場の椅子の上には1枚の紙と1冊の冊子が。冊子は、髙山氏が主宰するエトルデザインがこれまでに手がけた代表作を紹介する作品集。そして、子(ね)から亥(い)まで、十二支にまつわるエピソードが書かれた紙。
「今日は『デザインの子(ね)』と題してお話しをさせていただきます。子(ね)といえば、干支の最初、ねずみのことです。「はじまり」の意味でタイトルにしました。僕自身、今年は年男ということもあり、改めて『干支ってなんだろう』と思い、調べてみました」
神様への新年のあいさつに牛の背中に乗って行き、最後の最後に牛から飛び降りて一番乗りを果たした“ねずみ”は、子孫繁栄や財力の象徴。“ひつじ”は家族の安泰と平和の象徴。猪突猛進すぎて目的地を通り過ぎてしまい、引き返してきたときには12番手になっていた“いのしし”は無病息災と一日の終わりの象徴と、改めて読むとユニークである。
「干支は、年だけでなく時刻や方位も表していて、古くから日本人の暮らしに深く関わっていました。なかでも方位学は、建築や都市計画の基本となるもの。京都や鎌倉のような政治を司る都市は、方位学にのっとってち密にできていますよね」
ものごとの始まりを遡っていくことで、見えてくるものがある。話題は、日本の建築やデザインの始まり(子・ね)はどこにあるか、ということへ移っていく。

日本のデザインと匠の技術は四季から生まれた

「日本と他の国々との違いについて考えるとき、もっとも重要なのは四季があることです。日本では、3か月ごとに季節が移ろい気温や風景が変化していきますが、たとえば砂漠地帯の国のように365日何も変わらない風土もあります。この違い、四季があるということが、日本のデザインや技術の発展に関係しています。」
四季があるということは、その季節により「やらなければいけないことが決まっている」ということ。春は雪解け水で田植えをし、夏にはさんさんと輝く太陽の下で稲を育て、秋になれば台風が来る前までの限られた時間で稲を収穫。来年の秋までの食料を確保しなければならない。冬は日が短く雪に閉ざされるので、家の中で保存食をつくったり、鍬や鎌など道具の手入れや襖や障子を張り替えたりと、細々とした修繕をする。
「つまり日本では、3か月ごとにスケジュールを組んでいかないと生きていけない。計画的で、ち密で、勤勉にならざるをえない土地なんです。日本人特有といわれる気質は、四季からの贈り物なんですね」
同時に、四季があることで、日本の住まいは「自然をとりこむ家」として発展していった。
「春の日差しを取り入れる障子。夏には、昼の強い日差しから守る軒と、夜風を入れるための蚊帳や網戸。秋の台風から守る雨戸や樋。冬は暖と食をとるための囲炉裏。四季折々変化のある自然を取り込むために、家づくりの工夫がなされてきたのです」
もうひとつ、「日本の建築と西洋の建築では、境界の引き方に大きな違いがある」と髙山氏は語る。
「西洋は石造り、壁構造、穴窓。日本は木造、柱構造、障子窓。縁側があって、木や紙の建具で仕切られていて、外部と内部の境界が西洋と比べて強固でなく曖昧なのです。曖昧だからこそ、自然をとりこむことができる。城下町を見てもそうですよね。武家屋敷があって、町があって、そのままずーっと歩いていくと、最後は田んぼになる。城壁で囲まれた西洋の都市構造に比べて、すごく境界が曖昧なのです」
その曖昧さで手に入れたものが「借景」。髙山氏は自身が手がけた建築を例に、借景の魅力を解説する。
「自然とともに住まう。四季の美しさを取り入れながら、その厳しさも受け入れて住まう。その知恵が、日本の建築デザインの面白さではないでしょうか」

参加者を虜にした数々の建築実績

セミナー後半は、髙山氏が実際に手がけた住宅やペンションを紹介。四季を取り入れた個性的な建築例がプロジェクターに映し出されると、参加者は興味津々で見入っていた。
三島につくった「ピクチャーウインドウの家」は、リビングダイニングに設けた幅4m50cmという横長の窓が特長。「設計依頼の半数くらいは土地探しから一緒にやる」という髙山氏は、この住宅でも、候補に挙がっていた3か所の土地を施主と一緒に見て回ったという。
「最終的に選んだのは、3か所のなかでもいちばん安い土地でした。理由は、高台の斜面だったから。一般的には、家を建てるのは難しいと思われがちな条件でしたが、それを逆手にとり、奥さまに『借景を取り入れましょう。キッチンから必ず美しい風景をお見せします』とプレゼンしました」
奥さまがキッチンに立ったとき、他の家の屋根がギリギリ見えないところで切り取った長い窓からは、広大な空と、遠くに連なる山が見える。「風景って毎日刻々と変わるんだ、ということを実感しました」というご家族の言葉どおり、雄大な自然を絶妙に取り込んだ家となった。
北海道の美瑛にある「北の大地にたたずむ宿」は、重い難病を抱える少女が母親とともに建てた、障がい者に100%対応したペンションとして、メディアでも話題を呼んだ。求められる条件の厳しさのため、いくつもの設計事務所から設計を断わられた後、知人のつてで訪ねてきた少女に髙山氏は、事業計画をたてるところから提案したという。
「障がい者に100%対応した宿泊施設は、日本では新宿のワシントンホテルに1室あるだけなんだそうです。このペンションには3室がありますが、機能的な意味で障がい者対応になっていることはもちろん、『バリアフリーだけど、デザインはかっこよく。そして、車椅子の人でも、ベッドに寝たきりの人でも、部屋に入った瞬間に美瑛の風景が見えるようにつくってください』という彼女のこだわりが、隅々までかなえられています」
ほかにもいくつかの建築例を紹介した後、最後は、d-labo湘南のある藤沢サスティナブル・スマートタウン(FujisawaSST)のコンセプトにも通じる、エコロジーハウスをピックアップ。ソーラーパネルと屋根を一体化させた斬新なデザインの住宅である。以前に視察したドイツのパワーステーションを参考にしたという。
「各家庭の太陽光発電をいったんパワーステーションに集め、一括管理し効率よく分配する、という仕組みです。非常に合理的だし、しかも、ソーラーパネルを屋根の上に“載せる”のではなく、一体化させることで、見た目もスマートになっている。ドイツの合理的なデザイン性は、やはりさすがであると思います」
ものごとの始まり、干支から“エコ”まで、さまざまな切り口で建築とデザインを考えた2時間。「自分の“根”、ルーツ(生まれた場所・育った場所の風景)始まりはどこにあるのだろうと考えていくと、いろいろなことを知り、広がっていくのではないかと思います」という髙山氏の言葉に、新たな夢のヒントがある気がした。

講師紹介

髙山 正樹(たかやま まさき)
髙山 正樹(たかやま まさき)
建築デザイナー
1967年東京都生まれ。フランス在住の芸術家、田原桂一氏に師事した後、建築との関わりをきっかけに、1997年銀座にエトルデザインオフィスを設立。「衣食・住の仕事」として住宅や商業施設の発展を考え、家具から公共空間まで多岐にわたる活動を行なっている。主な作品に「町田こばと幼稚園 ひかりの広場(2012グッドデザイン賞)/ART ANNEX KOBATO」「東京メトロ新副都心線LEDサイン計画(2008グッドデザイン賞)」「M邸/軽井沢」「F邸/三島市」等がある。