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イベントレポート

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2015年2月11日(水) 15:00~16:30

Joon Ou(ジュン オウ) / 合資会社ベアードブルーイング エグゼクティブシェフ

Story of Craft beer
~味わいの奥深さを知る~

クラフトビールとは、地域密着型の小規模で生産するブルワリー(ビール醸造所)が作るビールのこと。ビール作りをひとつの「ものづくり」と捉え、こだわりを持って作られるクラフトビールのストーリーを知ることで、ビールの味わいをより豊かなものへとしてくれるはず。今回d-labo二子玉川では、2000年に静岡県沼津市で創業された合資会社ベアードブルーイングのエグゼクティブシェフ 、ジュン オウ氏をお招きし、同氏が生まれ育ったポートランドのクラフトビールシーンと、今の日本のクラフトビールシーンについてお話しいただいた。また、ビールとフードのペアリング(食べ合わせ)を軸とした、冬のビールの楽しみ方もご紹介いただいた。

クラフトカルチャーが息づく町ポートランド

最近、雑誌の特集などで「ポートランド」という町の名を目にする機会が多い。アメリカ西海岸のオレゴン州北西部に位置し、全米で住んでみたい町ナンバーワンとも言われるこの町が、なぜそれほどまでに人々を惹きつけるのか? ポートランドで育ち、現在は「ベアードブルーイング」のエグゼクティブシェフを努めるジュン オウ氏はこう語る。
「ポートランドには独特な雰囲気があって、自分のやりたいことをやっている人達が集まってくるんです」
そう言って映し出されたスライドには、コスプレと大道芸のハイブリッドのような格好の通行人らしき姿。しかし、「ポートランドでは、こういう人を見かけても誰も驚かない」のだとか。そして、同じスライドには「Keep Portland Weird」の文字。“ずっと風変わりなままでいよう”といった意味で、この町のスローガン的フレーズだ。
とは言え、単に風変わりな人を受け入れる素地があるだけで、移住希望者が増えているわけではない。そこに集まった人々が生み出し続けている「クラフトカルチャー」がこの町の魅力だとジュン氏。例に挙げたのは、「ハイレベルなレストランが多い」ポートランドでも特にサラミで有名なレストラン『Olympic Provision』。倉庫をリノベーションした人気店の創業者は、いわゆる脱サラをしてサラミ作りを始めたというが、「他の町なら周囲の人が“安定した会社員を辞めてサラミ作りなんて…”となるところが、ポートランドだと“それいいじゃない、やってみなよ”となる」。
「心を込めて良いものを作れば皆が応援してくれる、そんな雰囲気があるんです」
物作りに対する理解と尊敬。大量生産よりハンドメイドを好み、「古い物を残しつつ新しいスピリットを注入する」。そんなポートランド気質は、靴の『Danner』やコーヒーの『Stumptown Coffee Roasters』などのブランドを育む一方、州立大学を会場とする大規模なファーマーズマーケットの開催や、専用道路の整備などから「自転車天国」と呼ばれるエココンシャスな町づくりにも波及。ローカル、オーガニック、サスティナブルにこだわる独自の文化を形作っている。

簡単な方法ではなく、良い方法を選ぶということ

ポートランドのクラフトカルチャーを代表する存在は、何と言ってもクラフトビール。「アメリカのクラフトビールの聖地」として知られ、「市内だけで50以上、州内では150以上ものブルワリーがある」。その発展の要因は、「良質なモルトやホップが栽培されていて、水がきれい」という自然条件もさることながら、「新しいことに挑戦するフロンティアスピリッツ」を歓迎する地域性。その証拠に「小規模ブルワリー創業者の多くが元々異業種出身者」。
「本当にやりたいことは何だろう? そう考えた答えがビール作りだった人が集まって今のような状況になったんです」
スライドでは、紐工場だった建物を改装した『BridgePort Brewpub』や、オレゴンの果物を使ったサワー系ビールが人気の『Cascade Brewing Barrel House』といったブルワリー&ビアバーを次々に紹介。廃校になった小学校をホテルや映画館として再生させ、そこでビールが楽しめる『McMenamins』グループの取組みなど、ポートランドのビールシーンを存分に伝えていただいた。
そんなクラフトビールの本場で育ったジュン氏が、その職人魂に共鳴したのがベアードブルーイングの生みの親ブライアン・ベアード氏。日本ではまだ大手メーカーが作るラガー系ビールしか知られていない頃から、「自分が好きで飲みたいから、そして美味しいものは人にも飲ませたいから」という思いで、IPA(インディア・ペール・エール)などのモルトの強いエール系ビール作りに奮闘。2000年に静岡県沼津市で醸造所を立ち上げてから15年。現在では伊豆修善寺の3ヘクタールの土地に美しい農園型醸造所を構え、それぞれに個性的なコンセプトのタップルームを国内5か所に展開するまでに成長させた信念の人だ。
「ブライアンさんの哲学は、簡単な方法ではなく、良い方法を選ぼうということです」
例えば、ホップは粉砕して粒状に固めたペレット型ではなく、あえて手間もコストもかかるホールホップを使う。とても敏感で、運搬・保存が大変なことはわかっているけれど無濾過のビール作りにこだわる。それらは全て「そちらの方が良い物ができるから」。効率化とは一線を画した「決して手を抜かない頑固さに職人魂を感じる」のだという。

ビールの味わいとペアリングの妙味

後半は席を移動しての試飲会。今回は、ベアードブルーイングの豊富なラインナップから、定番ビール2種とシーズンビール2種をセレクト。ジュン氏が手がけたフードとのペアリングで味わうが、まずはビールだけを飲み、次にフードとの相性を探るという趣向だ。
トップバッターはシーズンビールの『Joie de Vivre Golden Ale(ジョイ・デ・ビブレ ゴールデンエール)』。ベルギー酵母の個性を生かしたエールに、2パターンにデコレーションしたゴートチーズを合わせる。シンプルでドライな口当たりが、ローストしたヘーゼルナッツと、マジョラムやフレッシュオレガノなどのハーブの風味を際立たせる。
続く定番ビールの『Suruga Bay Imperial IPA(スルガベイ インペリアルIPA)』はアルコール度数8.5%、ホップの量は通常の2倍。ラベルに「花火のように炸裂するホップの個性」とあるとおり、華やかな香りが広がる。今回合わせたタイレッドカレーテイストのカシューナッツのほか「ショウガや唐辛子を使ったエスニック料理と相性が良い」とジュン氏。
もう1種の定番『Kurofune Porter(黒船ポーター)』は黒ビール特有のえぐみが少なく、なめらかな味。ウズラの卵の燻製の濃厚さとモルトの風味が絶妙にマッチし、エシャロットのピクルスの酸味とも相性抜群だ。
ラストの『Fall Fest Lager(フォールフェストラガー)』はモルトの風味が豊潤で、ゴボウの砂糖漬けが「甘味×甘味の相乗効果」を生み、参加者からは砂糖漬けのレシピに関する質問が出るほど。
最後に「どのビールが気に入ったか」のアンケートを実施。ビール単体での投票結果と、ペアリングを通しての結果に大きな違いが出たのも興味深く、参加者一堂がますますビールの世界の奥深さに魅入られつつ、和やかにセミナーは終了の時間を迎えた。

講師紹介

Joon Ou(ジュン オウ)
Joon Ou(ジュン オウ)
合資会社ベアードブルーイング エグゼクティブシェフ
アメリカ、オレゴン州ポートランド出身。クラフトビールが地域カルチャーの一部になっているポートランドで育つことで、自然とクラフトビールについて学ぶこととなる。2012年に合資会社ベアードブルーイングのエグゼクティブシェフに就任。ビールとの食べ合わせが良い料理を創造することが、仕事の中でも特にエキサイティングな部分。