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イベントレポート

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2015年2月20日(金) 19:00~21:00

岩井 俊憲(いわい としのり) / 有限会社ヒューマン・ギルド代表取締役

カウンセラー指導者が語る
アドラー心理学による自分を勇気づける技術

さまざまな社会問題が山積する現代。子どもへの虐待、夫婦間のDV、不景気による雇用の悪化、うつ病や自殺の増加などがなかなか解決しないのは、何かが欠乏しているからのように感じられる。欠乏しているものの正体、それは「勇気」ではないか。勇気とは、「困難を克服する活力」であり、この勇気を持つことができれば、現代社会が抱える問題が少しずつ解決に向かうように思う。今回は、「勇気の伝道師」をライフワークとしている岩井俊憲氏をお迎えし、自分自身を勇気づけ、ひいては他人を勇気づける方法についてお話しいただいた。自分自身が直面する困難から逃げずに立ち向かい、それを克服するための「勇気づけ」の方法を身につける機会となった。

人間関係は「共感と自己開示」から

最近注目を集めているアドラー心理学。講師の岩井俊憲氏は30年に渡ってその普及に努めてきたアドラー心理学カウンセラー指導者だ。セミナー前半は「ざっくりとアドラー心理学についてのお話」。後半はそれを用いての「勇気づけ」について、演習を間に挟みながらレクチャーしていただいた。

「今日は終わったあと、ちょっと誰かとお茶をしたいな、伝えたいな、という気持ちになるような、みなさんが元気になるセミナーにしたいと思います」

岩井氏の挨拶が済むと、まずは参加者全員が席を移動し、「リレーションづくり」。隣同士、2人1組のペアとなったら互いに「相手の人間的魅力」を知るために1分半ずつのインタビューを行なってみた。3分後に岩井氏が「この3分のやりとりでなんとなくいい人と一緒になったなと感じる人は手をあげてください」と質問すると、全員が挙手。「ここがリレーションづくりのいいところ」と岩井氏。たった3分のやりとりだが、これが「安心感」や「所属感」を参加者の一人ひとりに与えてくれる。長年カウンセラーとして多くの人と接してきた岩井氏によると、こうした安心感や所属感を得られる心理的居場所があることが重要だという。

3分のインタビューは安心感や所属感と同時に「信頼感」や「貢献感」ももたらしてくれる。人間関係は「共感と自己開示」から始まるもの。その点、一方通行の「自己紹介」と違い、インタビューだとお互いの言葉に共感しあい、自己開示することによって、相手への「信頼感」や、相手の役に立っているという「貢献感」が生まれるという。セミナーはこんなふうに会場全体に和やかな雰囲気になったところからスタートした。

アドラー心理学とは「究極のポジティブシンキング」

それでは、アドラー心理学とは何か。

「創始者であるアルフレッド・アドラーが唱えたのは個人心理学。フロイトがヒステリーなどの神経症を、ユングが統合失調症を研究対象としたのに対し、アドラーは精神的に健常な人のための心理学を追求しました」

アドラーが対象としたのは「非行少年や人生に挫折した人」。このためか「教育にはものすごく適用しやすい心理学」という評価を得ている。その全体像を見たとき、もっとも重要となるのは「自己決定性」だ。

「アドラーは『人間は、環境や過去の出来事の犠牲者ではなく自ら運命を創造する力がある』と語っています。つまり、生まれ育った環境の影響があることは確かに認めるけれど、これからの人生はあなたが主人公となって生きることができるんですよ、と言っているわけです。体に障害があっても、劣等感があったとしても、最終的に決断し、どういう方向に行くか決めるのはあなた自身、あなたをつくるのはあなただ、と。究極のポジティブシンキングですね」

そんなアドラーは人間の持つ「劣等感」をも「いいこと」と肯定する。ここでは参加者もペア同士で互いの持つ劣等感に関して話してみた。劣等感は誰もが持つもの。他者に対して、あるいは目標と現実とのギャップから人は劣等感を抱く。だが、そうしたギャップはほどよければ「目標を持ってよりよく生きようとするための友」となってもくれる。

さらにアドラー心理学のユニークなところは「目的論」を主張している点。多くの心理学は「人間の行動には原因がある」と「原因論」を説いているが、アドラーは「人間には未来を志向する力があり、その行動には目的がある」としている。

「原因論はもっともらしく聞こえますが、まったく解決にならない。その点、目的論はあくまでも人生を動かすのはあなた自身だと言っているんです」

もうひとつ重要なのは「共同体感覚」。これは「精神的な健康のバロメーター」。家庭や職場や学びの場で「自分の居場所」を持っているかどうかで人間は大きく変わる。東日本大震災を体験し、日本人はあらためて「共同体感覚」に目覚めた。と同時に「人は一人ひとりかけがえのない存在である」ということに気付いた。岩井氏はこの「人間性の原理への回帰」が最近の日本でアドラー心理学がブームとなっている背景にあるのではないかと考えている。こうした共同体感覚の中でアドラーが発信しているのは「褒める」ことよりも「勇気づけ」。人間関係の中で相手を「褒める」のは一見いいことのように見えて、実は「アメとムチのムチを隠した部分」であったりする。それに対して「勇気づけ」は「自立的に対応できる人間を育てる」という。

「勇気づけ」から始まるアドラー心理学的な生き方

「勇気づけ」は「困難を克服する活力を与えてくれる」もの。そこで後半はペア同士で「勇気づけられた体験」を語ってみた。キーワードとなるのは「勇気」、「尊敬」、「信頼」、「共感」。お互いの体験を聞いたあとは、印象から感じとった相手の長所を話してみる。こうしたやりとりは「褒める」ことがそのまま「勇気づけ」になる。いわば「ダメ出し」ではなく「ヨイ出し」。日本人はどちらかというと子どもの頃から「ダメ出し文化」の中で生きているが、人間は「不完全」で当たり前。アドラーは「不完全である勇気」を持って「自己受容=自分を肯定すること」を勧めている。なぜならば「あなたはあなたの最大の協力者=パートナー」だからだ。

「勇気づけの実践」でポイントとなるのは「感謝を表明すること」、「ヨイ出しをすること」、「聴き上手に徹すること」、「相手の進歩・成長を認めること」、「失敗を許容すること」。とくに「感謝」には「ブーメラン効果がある」。相手と自分の関係をより良くするにはまず相手に感謝することが大切だ。

セミナーは演習の他、「楽観的プラス思考になる0.3秒メソッド」や、「指先の意味するもの」と題した左右の指を使っての夫婦関係や「自己受容」の説明なども交えてワークショップ的に進行。最後は講師の「夢」とアドラーの言葉=メッセージで締めくくった。

アドラー心理学の知名度向上というひとつの「夢」は「かなり実現してきた」と岩井氏。

「アドラーは『あなたが始めるべきだ。他の人が協力的であるかどうかなど考えることなく』と言っています。みなさんにもアドラー心理学で生きてほしい。アドラー心理学で生きれば人生はシンプルでハッピーになる。そういう人たちをつくることが今の私の夢です」

講師紹介

岩井 俊憲(いわい としのり)
岩井 俊憲(いわい としのり)
有限会社ヒューマン・ギルド代表取締役
栃木県生まれ。アドラー心理学カウンセラー指導者、上級教育カウンセラー、中小企業診断士。早稲田大学卒業後、外資系メーカーを経て、 1985年、有限会社ヒューマン・ギルド設立。アドラー心理学に基づいたカウンセリングやカウンセラー養成、公開講座の実施や外部講師として企業、行政、教育機関などで、多数登壇している。主な著書に、『勇気づけの心理学増補・改訂版』(金子書房)、『マンガでやさしくわかるアドラー心理学』(日本能率協会マネジメントセンター)、『カウンセラーが教える「自分を勇気づける技術」』(同文館出版)などがある。