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イベントレポート

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2015年2月21日(土) 14:00~16:00

菅山 明美(すがやま あけみ) / プロジェクトデザイナー・株式会社NHKエンタープライズ 事業デザイン部長

プロジェクションマッピングの共感体験が生み出すもの
~メガ映像をきっかけに地域文化を起こす~

会津若松の鶴ケ城で毎年3月に行なっているイベント「鶴ケ城プロジェクションマッピング はるか」。約38,000人の観覧客を呼び、雪で閉ざされた閑散期、町の活性化に一役かっている。映像は、映画館やお茶の間で大勢の人たちと一緒に観るものから、PCやスマホで一人で観るものに変化しつつあるが、この流れに逆行しているのがプロジェクションマッピングだ。メガ映像を使った共感体験が生み出すものとはなにか。数々のプロジェクションマッピングを手掛けてきた菅山氏に事例を交えながらお話しいただいた。

SFドラマから教育テレビのアニメまで制作

まずはNHKエンタープライズ入社後に手がけた番組を2つ、自己紹介がわりにプロジェクターで上映していただいた。
『怪奇大作戦セカンドファイル』は、「SFが大好きで、なんとか円谷プロと仕事がしたいと思っていた」菅山氏が念願を叶え、NHKと円谷プロの初コラボレーションが実現した番組。1968年に放送された円谷プロの『怪奇大作戦』のリメイクであり、2007年に放送された。主演は西島秀俊。円谷プロらしい、レトロで不気味な映像が独特の雰囲気をかもし出している。
「再放送もされていますが、NHKらしからぬ番組なので珍しがられています。『ウルトラマン』シリーズで知られる監督、実相寺昭雄さんの遺作でもあります。
もう1作は2009年~2010年にかけて放送されたアニメ「エレメントハンター」。2089年の未来を舞台に、元素がひとつずつ失われてゆき、天変地異が起こるようになってしまった地球を、子供たちが救うというストーリー。
「アニメ自体は“中ヒット”でしたが、周期表を歌にしたエンディングテーマ『スイヘイリーベ ~魔法の呪文~』が大ヒット。作曲の柿島伸次さんもこれをきっかけに暗記シリーズCDをつくるなど、思わぬ反響を生みました」

視界全部を映像で包むプロジェクションマッピング

やがて部長職となった菅山氏は、プロデューサーとして現場を俯瞰する立場となり、クリエイティブディレクターの森内大輔氏とともに、プロジェクションマッピングを手がけはじめる。
「映像の視聴環境自体は、映画館のスクリーンから街頭テレビ、茶の間のテレビ、パソコン、スマホとどんどん小さくなっています。映像をのぞき見るような感じですね。プロジェクションマッピングはその真逆で、視界全部が映像になる。その“没入感”はやはり特別です」
東京駅丸の内駅舎保存・復元完成記念イベントとして2012年9月23日・24日に行なわれた「TOKYO STATION VISION」は、2日間で多くの人を動員し、大きな話題となった。「観に行った方、いらっしゃいますか?」という問いに、参加者のひとりが手を挙げた。
「当日は東京駅前の観覧スペースはもちろん、丸ビルの窓という窓にも人がびっちりでした。プロジェクターが46台必要でしたが、当時、日本国内にあるものでは足りなかったので、海外から取り寄せたんです」
映像を改めて観ても、その規模に圧倒される。東京駅駅舎に巨大な時計や歯車が現れては消える。汽車が登場したり、建物をツタが包み込んだり、雨が降って花が咲いたりと、壮大な映像とドラマティックな音楽に、人々が夢中になっている様子が映し出された。
「当時、日本最大規模のプロジェクションマッピングといわれましたが、今後もこれを超えることは難しいのではないかと思います。プロジェクションマッピングは映像をつくること自体もそうですが、周辺の建物の電気を消してもらったり、窓に布をかけたりと、環境を整えることにもさまざまな困難があります」
「TOKYO STATION VISION」の質の高さは、不眠不休の頑張りの結果なのだ。
「先ほど観ていただいた映像に、駅舎の塔の部分が回転した場面がありましたよね? あの瞬間、私はゾクッとしました。仏像に魂を入れる大仏開眼のように、今、新しい駅舎が生まれたんだ、と感じたんです。と同時に、プロジェクションマッピングは世の中に根付く、やる意味がある、と確信しました」

会津の人と心が通じた鶴ケ城プロジェクションマッピング

福島県会津市の「鶴ケ城プロジェクションマッピング」も菅山氏が手がけた仕事だ。2013年から、東日本大震災復興を応援するイベントとしてスタートし、今年で3回目を迎える。
「この場合は、震災復興という目的とともに、自体が、悲劇の歴史をもつ場所であり、さらに会津の人にとっては今も毎日目にしていて、日々の暮らしとともにある誇りであるということで、どんな映像をつくるべきか非常に悩みました。『我々のお城に落書きした』と思われてはいけないと、文化や歴史について、地元の人に何度もヒアリングをしました。そして、これまであったいろんなことがすべて天へと昇華していくような映像をつくろう、ということになったのです」
制作は東北の厳しい寒さに耐えながらの作業となったが、上映後に地元の人がわざわざスタッフのところまで来て、涙を流しながら「ありがとう」と言ってくれたことが嬉しかった、と菅山氏は振り返る。
口コミで多くの人が訪れたことを受け、観られなかった人のためにも2回目を、と民意が市を動かし、2年目には会津若松市の予算がつくことに。「おきあがりこぶし」「彼岸獅子」「小原庄助」というご当地ものを登場させた2作目「庄助の春こい絵巻」もまた、地域の心をひとつにし、感動をよんだ。
「鶴ケ城プロジェクションマッピングが行なわれるのは3月。雪深い地方ですから、観光客も来ない時期で、ふだんなら温泉旅館やビジネスホテルの稼働率は30%ほどだそうですが、プロジェクションマッピング開催期間は稼働率100%でした。2回目からは観覧予約券を発行することになったのですが、旅行会社が観覧予約券付き宿泊プランを発売するなど、経済効果も出ています」
2015年は「あかべこものがたり」と題し、コスチューム・アーティストのひびのこづえ氏がデザインした「赤べこ」が登場するほか曲も書き下ろされ、3月19日?22日の4日間(各日5回)鶴ケ城に作品が映し出される。
「私たちはいつも『そんなことできないよね』ではなく、『実現するためにはどうしたらいいか』を考えながら、プロジェクションマッピングに取り組んできました。みんなが同じ時間、同じ場所に集まって、同じ映像と音楽に包まれる。そのリアルな体験は、やっぱり心に響くんです」
今後もプロジェクションマッピングを使って、地域の活性化や教育に寄与していきたいと語る。ぜひその場に足を運んで、感動を共有したいという思いが、参加者の中にも沸き上がった。

講師紹介

菅山 明美(すがやま あけみ)
菅山 明美(すがやま あけみ)
プロジェクトデザイナー・株式会社NHKエンタープライズ 事業デザイン部長
NHK契約アナウンサーになったのをきっかけにメディア制作を始める。株式会社NHKエンタープライズ入社後は、テレビディレクター/プロデューサーとして、NHK+円谷プロ初コラボドラマ「怪奇大作戦セカンドファイル」、元素教育アニメ「エレメントハンター」、番組参加型の子供向けNスペ「NHKジュニアスペシャル」などの企画・制作に携わる。その後、企画デザインの範囲をテレビ番組以外の映像・イベントにまで広げ、近年は、プロジェクションマッピングなどのメガ映像を活かした地域活性事業を手がけている。2004年児童文化福祉賞奨励賞、2009年環境省政策提言準優秀賞、2013年科学技術映像祭優秀賞、グッドデザイン賞などを受賞。