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イベントレポート

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2015年2月28日(土) 14:00~16:00

小堀 貴亮(こぼり たかあき) / 共栄大学国際経営学部観光ビジネスコース 准教授

温泉通になろう
~温泉の正しい知識と効果的な入り方~

3,000以上もの温泉地が分布する温泉大国・日本。泉質や地域によって療養・保養・美容などでさまざまな効能や恩恵を授かることができる一方で、泉質や効能の正しい知識、効果的な入浴法を知っていないとせっかくの恩恵を授かることができません。温泉のフィールドワークで多くの温泉を調査、実際に入ってきた小堀氏に温泉通になるための知識や日本国内外のオススメ温泉地などをご紹介いただいた。

泉質や歴史を知ることで温泉が100倍楽しくなる

一昨年、d-laboミッドタウンでも同様のテーマでレクチャーしてくださった小堀貴亮氏。今回はd-labo湘南を舞台に「神奈川県の温泉」などご当地ネタも交えて温泉についての楽しい話を聞かせていただいた。
小堀氏が教員として温泉や観光ビジネスなどを教えているのは埼玉県にある共栄大学。
「〈キョウダイ〉といえば普通イメージするのは京都大学。でも温泉の世界では〈キョウダイ〉は共栄大学を指します(笑)」
同大は2001年の設立と比較的新しい大学だが、昨年は大学としては初めて「温泉ソムリエ認定セミナー」を開催するなど「温泉ではちょっと知られてきている」という。准教授である小堀氏はその牽引役。現在約7,000人が認定を受けている温泉ソムリエ協会の「温泉ソムリエ」の中でも10数人しかいない「3つ星温泉ソムリエ=カリスマ温泉ソムリエ」の資格を持つ温泉のプロだ。
「カリスマ温泉ソムリエの資格を持っているのは人生の誇り。温泉はただ入るだけではなく、その泉質や歴史などについて学んだ上で旅すれば100倍も1,000倍も楽しくなります」
全国に約3,200の温泉があり、そのほとんどで入浴が可能な日本は世界一の温泉大国だ。世界をみわたすと、アジアでは中国・台湾・タイなど、ヨーロッパではドイツ・イタリア・フランスなどに多くの温泉地があるが、日本は「断トツ」。だが、世界にはさまざま温泉があり、歴史だけひもとけば日本より古い温泉もある。小堀氏がセミナー冒頭で紹介してくれたのは「最近ハマっているタイの温泉」。あまり知られていないが、タイは現在「空前の温泉ブーム」。もっとも有名な北部のサンカンペーン温泉は「エキゾチックな中に日本文化を注入している」という。広い露天風呂は「王様になった気分」。90度の源泉では小堀氏たちのアイディアで温泉卵を茹でている。
「温泉の人気はこのように日本の文化とともに広がっているんですね」
ただし、歴史となると「世界最古」の称号はギリシアやローマの昔に譲ることとなる。クレタ島のクノッソス宮殿遺跡には「世界最古の風呂」が残っているし、イタリアのローマやイギリスのバース、ベルギーのスパなどにはローマ帝国時代に発見されたり造られたりした温泉や浴場などがある。
「温泉を医療の場としてきたのはヨーロッパも日本も同じ。ローマ帝国は領土を広げていく際に、戦争で傷を負った傷病者のための温泉も展開していったんです」

由緒ある温泉には「発見伝説」がある

ヨーロッパの温泉の中でも小堀氏が注目しているのはチェコのカルロヴィ・ヴァリ温泉。ここは美しい山と町並に恵まれた「世界でいちばん美しいのでは、という温泉地」だ。
「北海道のカルルス温泉はこのカルロヴィ・ヴァリ温泉と泉質が似ていたのでカルルスという名前がついたそうです」
風光明媚な温泉地にはゲーテやベートーベンも訪れたという。
「日本でも多くの作家が温泉旅館に泊まって作品を書いていました。温泉というのは芸術活動に向いているのかもしれません」
他にもミネラルウォーターで有名なフランスのエビアン温泉、世界最大の露天風呂であるアイスランドのブルーラグーンなど、日本とは違ったいろいろな温泉を画像で見てみた。
続いては日本の温泉。「日本三古湯」といえば、愛媛県の道後温泉に兵庫県の有馬温泉、それに和歌山県の白浜温泉。他にも歴史ある温泉地は数ある。そうした温泉に必ず残っているのが「発見伝説」。中でも多いのは鷺や鶴、猿など鳥獣が発見したといったものだ。
「温泉は、昔の人にとってはボコボコ沸いているし、臭いし、熱いし、地獄の入口のようで恐怖の的だったはず。それが動物が入るのを見てこれは大丈夫だと真似をするようになったんでしょうね」
他にも行基や空海といった各地を旅した高僧が発見したもの、天皇や皇族が訪れた湯、神話に記録されている場所、武田信玄や上杉謙信などの武将の隠し湯など、全国の温泉にはそれぞれの「発見伝説」があり、それが観光地としてのブランディングにもなっている。いまや全国どこにでもある温泉饅頭の発祥の地は群馬県の伊香保温泉。江戸時代に開かれた伊香保温泉は「日本初の計画的温泉集落」でもある。温泉饅頭が茶色いのは伊香保の湯が茶色いから。セミナーの途中では明治時代にその温泉饅頭を生み出した『勝月堂』の温泉饅頭「湯乃花まんじゅう」を配布。同店の好意で「今朝送ってもらったばかり」という新鮮な風味を参加者全員で楽しんだ。

心に体に、温泉はなぜ効くのか?

試食タイムのあとは「温泉についてよくある質問」とその答を披露。いちばん多いのは「源泉かけ流しは本当にいいのか?」といったもの。答は「いいのは確か」。温泉の成分は時間が経つと薄くなる。その点、湧いたばかりの「源泉かけ流し」はフレッシュな状態。温泉全体の8割が循環濾過や加水していることを考えれば「源泉かけ流し」は「一流ブランドの証と考えていい」。次に聞かれるのは「美人の湯は美人になれるのか」。速効性はないものの、硫黄泉や重曹泉、明礬泉には「肌をつるつるにする」効果がある。そういう意味では「美人をつくりだす効果がある」とは言える。他に質問に多いのは病気がらみの話。温泉はたいていの場合、腰痛や肩こりなどの慢性疾患には効能があると言われている。こうした病気は「適応症」と呼ばれる。一方、急性炎症疾患やインフルエンザなどの急性感染症は「禁忌症」。また癌や白血病など抗生物質を服用する病気も入浴は避けてほしい。ただし、中には山梨県の増富ラジウム温泉や秋田県の玉川温泉など「癌に効く」とされる温泉もある。
では「温泉はなぜ効くのか?」。主たる要因は「気」だという。温泉は適度な入り方をすれば体内の傷ついた細胞を活性化してくれる「ヒートショックプロテイン=HSP」を増やしてくれる。HSPは気を張り詰めている状態でも増加するという。さらにもうひとつ、温泉は人間の心身に錯覚効果である「フラシーボ効果」ももたらしてくれる。
「温泉は体にいい。そう信じることで疲れがとれたり肌がよくなったりする。温泉科学の世界では今これについて検証中です」
最後は江の島や稲村ケ崎など地元・湘南の温泉を紹介。講師とのジャンケン大会では日帰り入浴施設の入場券を優勝者にプレゼント。
セミナーは「温泉に入ってハッピーを共有しましょう」という小堀氏の挨拶で終了した。

講師紹介

小堀 貴亮(こぼり たかあき)
小堀 貴亮(こぼり たかあき)
共栄大学国際経営学部観光ビジネスコース 准教授
1973年埼玉県生まれ。2006年千葉大学大学院自然科学研究科人間環境デザイン科学専攻より博士(学術)の学位取得。別府大学専任講師、大阪観光大学専任講師を経て現職。桜美林大学・非常勤講師、日本温泉地域学会幹事を兼任。主な著書に、「房総の地域ウォッチング-おもしろ半島千葉県の地理散歩-」(大明堂)、「観光地域社会の構築-日本と世界-」(同文舘出版)、「温泉-自然と文化-」(日本温泉協会)、「図解・新日本地理-自然環境と地域変容」(原書房)、「観光地理学-観光地域の形成と課題-」などがある。